うー…そろそろ起きなきゃまずい。しかし、眠い。眠すぎる。
 まだ、大丈夫。まだ、大丈夫だ。いつもの道をちょっと急ぐだけでいいんだ。そうすればあと3分、いやあと5分は寝れるはず。
 にしても、さっきからなんだか暖かい、いや生暖かい感じがするな。体なら分かるんだが、頭全体というか、周囲を取り巻く空気というか。何だろうな…。
 それに何か音がする。巨大扇風機が吹き付けるというか、大型掃除機が吸っているような。
 熱風が来てる気がする方向へ寝返りを打つ。と、影に動く大きな目玉が6つ、俺を見ていた。
「ぬぁ!」
 慌てて布団から這い出して尻餅をついた。何か居るぞ!それもでかいのが!
「あら、起きちゃった」
「残念」
「もうちょっと、ゆっくり観察していたかったところですけど」
 目玉たちは2つずつに別れ、それぞれその目玉の持ち主の輪郭を取り戻す。
「寝顔可愛かったのになぁ。まあいっか、写真も取れたしね」
 2度首を縦に振った巨人は、この銀河を統括する情報統合思念体とかいう親玉を持つヒューマノイドインターフェース、長門有希である。隣でカメラを片手に、もう片方の手を口に当ててくすくすと笑うのは、復帰後また1年5組の学級院長を務め、クラスの人気者となった同じインターフェース仲間の朝倉涼子である。そして、長門有希を挟んで朝倉涼子と逆には、今はまだ本を読んでいないんだな、長門有希の妹分である長門実希。
 なんでこいつら、こんなに大きくなってるんだ、と思いかけたところで、ああ、そういや俺小さくなってたんだったな、と思い出す。やっぱり、あれは夢じゃなかったんだな。
「有機生命体の睡眠には、まだ謎が多くありますね。寝ているはずなのに何事か喋ったり、体がぴくぴく動いたり。見てて飽きません」
 俺は見世物じゃないっての。
「見世物ではありません。観察対象です」
 なんかそれ、非常に嫌なんだがな。
「まあ、いいじゃない。とりあえず、朝ご飯の準備しちゃうわね」
 相変わらずのうさぎエプロンを身に付け、朝倉が台所へ向かう。もうなんだか見慣れた風景だよな、これって。
 落ち着いたところで、一度周りを見渡してみる。今居るのは、朝倉が持ってきたんだろうか、小さなちゃぶ台の上にあるティッシュの空き箱で作られた、”ちびキョン君用ハウス”である。朝倉手製の仮設ベッドくらいしかないが、これはこれで結構住みやすい。
 ドアを開けて、ちゃんとドアまで作ってるとは凝ってるよな、できれば見られないように屋根まで付けてくれたらありがたいんだが、外に出る。その先に広がっている光景から、小さなちゃぶ台が追加された以外は相変わらず質素な長門の部屋であることを視認する。
 しかしだな、こんなちゃぶ台の上だと行動範囲が限られる。というのも、降りる手段がないからな、ちゃぶ台一周してはみたが、何もないちゃぶ台をこれ以上周回したところで何の意味もない。やめよう、寝るか。
「だめ、朝食」
 布団に、といってもティッシュで作られた掛け布団と敷布団だが、もぐりこんだところで長門に掛け布団を取られる。そして、ひょいとまた摘み上げられ、これ結構首苦しいんだぞ、いつものこたつの上に座らされる。もしかして、長門の部屋は年中こたつが出しっぱなしなんだろうか。
 まあ、そんな問題はしばらく棚上げにしておこう。今は朝の栄養補給、朝食でもいただくとするか。
「じゃあ、いただきます」
 それぞれこたつで膝を突き合わせて食事を始める。は、いいが、俺はどうやって食えばいいんだ?
「あ、ごめんなさい。そういえば小さいから、お茶碗に御飯じゃだめだったわね」
 御飯粒を一つ、箸で取って俺に渡す。ああ、助かる。
 …って手がべたべただ!
 悪いが米粒は食べづらいから、何か他のものを頼む。
「うーん、パンがあったかしら」
 立ち上がって台所へ。しばらくして帰ってきた朝倉の手には食パン。
「これなら大丈夫かしら」
 小さくちぎって一つ。うむ、これなら大丈夫だな。なんとなく鳩が餌付けされているような気分だったりするのだが、この際忘れて食べることにする。
 ううむ、かなり小さく千切ってもらったはずだが、重いな。まあ、ゆっくり食べるとするか。
 にしても、普段の体じゃ一口サイズでも、この体じゃかなり腹に溜まる。食費かからなくていいな、これは。たまには小さくても…。
 もらったパンを半分ほど食べ終えたくらいだが、先ほどからショーウィンドウの中にあるおもちゃに子供が視線を送るような熱い視線を、三方向すべてから感じて始めていた。
 食べる手を止めて顔を上げると、三人とも食べる手を休めていた。もう、見る気満々だ。
「私たちに構わなくていい。食事を続けて」
 無理です。
「大丈夫です。心頭滅却すれば、視線もまた快感になります」
 それ、いろいろと間違ってるぞ。
「ほらほら、細かいこと気にしないで食べちゃって、食べちゃって」
 ううむ、仕方がない。まだ腹が減ってるしな、食べよう。熱い熱い視線を受けながら、渡されたパンを完食。
「ああん、もう。可愛いなぁ」
 とうとうこたつに肘まで付いて観察始めたよ。
「いいことを考えた」
 長門が唐突に切り出す。もしかして、俺を治す方法が考え付いたのか!
「違う」
 即答した後、というか治す気あるのだろうか、高速で何事か呟いた。何をして…む?
 長門のこたつの下に置かれていた手を俺に見せると、そこには俺サイズの服の上下。
「長門さん、情報生成で服を作ったのね。さすがだわ」
 なんだ、情報生成って。前の教室を直した、なんだったか、情報の再構成?とかいうトンデモ技と似たようなもんか。
「じゃあ、あたしも……これでどう?」
 取り出したるは、ドレス。それは女用だろうが!
「私も作ります」
 実希はカエルスーツ。俺は着せ替え人形じゃ、
「さあさあ、着替えちゃいましょうねー」
 な、何をする、朝倉、やめろ、長門、朝倉を止めてくれ。
「それは無理」
 なんでだ。
「私も見たい」
 うあぁぁぁぁぁ………。

 その後も、あれやこれやと新しい服を次々と情報生成し、その度に着替えさせられた。
 父さん、母さん。もうお婿にいけない体になっていましました。