朝、寝ぼけ眼をこすりながら歩き慣れてきた急坂を踏みしめていると、学校の辺り、正確には校門前が何やら人だかりができていて騒がしかった。野犬が出たか、はたまた有名人でもやってきたかってところだろう。
「ああ、キョン、お前か」
「谷口、何やってるんだ?」
「こっちの方が聞きたいぜ」
 谷口は恨めしそうに学校の校門に、大使館前のガードマンみたいに仁王立ちしている男性教師2人を睨みつける。俺もそれに倣って立っている男性教師を見る。片方は岡部じゃないか。何してるんだろうな。
「あそこで生徒を全員追い返していてな、今は学校に入れないんだ」
「入れない?」
 確かに谷口の言葉通り校門に近づく生徒はことごとく、何事か言われてその2人に追い返されているようだった。
「何でこうなってるんだ?」
「聞いてみたが何も答えてくれなかったぜ。それくらい教えてくれたっていいだろうによ」
「そうなのか」
 聞かれたらまずいようなことでもやってるってことか?
「さあな。かもしれんし、そうじゃないかもしれん。何にしても休みには違いねえ。今からどこかに遊びに行こうぜ」
 そうだな。こんな状況じゃ授業どころの問題じゃない。
「キョン」
「ん?」
 声がして振り返ると国木田が、谷口とさほど変わらない、自転車の鍵でもなくしたかのような表情で立っていた。
「お前も追い返されたのか」
「そうなんだ。どうなっているんだい?」
「俺も良く分からん」
 次々と校門に向かっては返されていく生徒を見て俺たち3人は首を捻る。捻っても仕方が無いんだが、捻らざるを得ない。
 けれども見る限りその追い返され方に差は無く、どうやらここに居たところで何の発展もなさそうだと結論が出た。
「んじゃ国木田、お前も行くか?」
「何処にだい?」
「特に行く場所はまだ決まってないが、どこか遊びに行こうぜ。せっかくの休みなんだしな」
 これは休みと言っていいのか分からないな。まあ学校で追い返されたら事実上休みではあるか。
 さて、何処に――
「キョン!」
「げ」
「何がげ、なのよ」
 せっかく久しぶりに谷口と国木田とどこかへ遊びに行こうという決定が行われた瞬間に、聞きたくない声が背後から聞こえてきた。再び振り返ると、見飽きている黄色いリボンをつけている女子生徒、そしていつもクラスでの席位置が俺の真後ろのやつが俺を睥睨していた。
「ちょっと来なさい」
「……やれやれ」
「がんばれよ」
「うんうん」
 谷口と国木田に荷馬車で売られていく子牛を見ているような目をされながらハルヒにひきずられていくと、既にSON組緊急集合が完了していた。お前ら、こういうときくらい集合しなくてもいいだろうが。なんでこう律儀に全員揃ってるんだよ。
「何か分かった?」
 俺がハルヒに引っ張られてよれた襟を正していると、ハルヒは残りの6人にそう尋ねた。返答は全員が首を横に。どうやら目ぼしい情報はなかったらしい。
「どうしてこうなったのかっていう話題は噂しか飛び交ってないみたいですね」
「どうなってるのよ、本当に。誰も情報を持ってないみたいだし、岡部は今日は休みだから帰れとしか言わないし」
 休みだって宣言したのか。知らなかったな。
「あんた、まだ校門に行ってないの?」
 その前に谷口と国木田に会って追い返されるって話を聞いたからな。追い返されるってのを分かってて、いちいちそんなことを言われに行くような無駄なことはやめたんだよ。
 それにしても追い返さなきゃいけないようなことってなんだろう。後者で爆弾でも見つかったか?
「警察も来ているようですし……その可能性はありますね」
 古泉は校庭にパトカーが2台ほど置いてあるのを目撃したらしい。ますます怪しいな、それは。
「ってそれなら急いでここを離れた方がいいんじゃないのか?」
 どれくらいの爆破規模なのか分からないし、下手するとこの辺り一面が吹き飛ぶかもしれんぞ。
「爆弾ね、そういう噂もあるわ。でも朝から部活していた友達から聞いた限りでは朝の部活の時間から追い返されていたらしいわよ」
 そりゃ本当か? それだったら朝教師が学校へ来て、職員室の玄関に爆弾が置いてあるのを見つけて慌てて生徒を外に出した、というようなドラマとかにありがちなストーリーでもなさそうだよな。ますます分からなくなった。
「こうなったら乗り込むしかないわね、学校へ」
「そりゃ無理だろう。つーかそんな危険なことはまずいだろ」
 爆弾である可能性が低いとしても、生徒を追い返すくらいだから近づいたらまずいものがあるのは間違いないだろう。そんなところに忍び込んで怪我でもしたらどうするんだ。最悪の場合、命に関わるかもしれないんだぞ。
「大丈夫よ。遠くから何やっているか見るだけだから。何も説明していないから、その理由だけでも知りたいじゃない」
 完全にRPGの主人公気取りで、新たな冒険の地に向かうような表情をしているハルヒ。こうなったらこいつを止められる人間は誰もいない。俺たちは嫌々ながら、ハルヒについていくことになった。
 ちなみに長門と実希はこんな状況でもまったく意に介さず、読書に励んでいた。