一人脱走劇が終了して翌日。時計をちらりとしか見ていないから、正確な時間は覚えていないが、真夜中の2時頃だったはずだ。
突然何かから落下。そしてゴン!という音と共に、俺は頭をフローリングに打ち付けた。おおう!
何、何が起こった?!布団で寝てたはずだぞ?!
「………?」
部屋に明かり。眩しい光の中にぼんやりと浮かぶ人影。
「戻った様子」
この平坦な声は、長門か。何が戻ったんだ?
「あなたの体」
体…?
眩しいために、薄目を開けて、見て確認。触って確認。
よく分からんな。いつものサイズでも、小人サイズでも、自分にはいつも通りに見えてたし、触った感じもいつも通りの大きさだった。
じゃあ、確認する方法はなんだ?
立ち上がって、閉じようとするまぶたを両手で強制的に開門。ぼんやりとしていた長門の姿がだんだんはっきりしてきて、元の、俺より頭1つ分ほど低い位置に長門の無表情を確認する。
ここまでして、やれやれ、やっと元の大きさに戻れたんだなと。ふう、これで家に帰れるぜ。
「…とか言って長門の小さくしておく効果が切れたとか、そういうことはないよな」
と、直後くしゃみ。
……大丈夫らしい。全く、くしゃみ一つでなんでこんなに苦労しなきゃならんのだ。こんな、腹を壊したときの、あの腹に来るビッグウェーブと同様、突発的生理現象を止めるのは、フルアクセル、ノーブレーキ、そして雪道をノーマルタイヤでの急ブレーキが如く、どうにも止められないものである。
ちなみに、この例を実際に真似することなど絶対にないように。命の保障はない、どころかほぼ間違いなく死ぬ。真似をして事故をした、などと言っても取り合わないので、そのつもりで。
話が少々脱線した、戻そう。
やっとまともな状態に戻れた俺は、「まだ本調子じゃないから、ここで寝ていくといい」ということで、布団で長門の隣に寝ることを勧める長門を丁寧にお断りした。これをなし崩し的に受け入れてしまったら、後々で問題になってしまいそうなので、きっぱりと。なんとなく残念そうに見えたのは…気のせいであるとしておこう。
ああ、実希はどうしていたかって?俺が部屋を出るときも、それはもうぐっすりと寝てたよ。全く、大物だな、あいつは。
寒空の下、草木もそろそろ大あくびをし始める丑三つ時より手前頃、長門と共に我が家へ。何故長門が付いてくるか、それはだな、
「開いた」
何を隠そう、我が家の入り口の鍵を開けてもらっていたのである。いやはや、情報統合思念体とやらの力は、こんなところでも使えるわけか。ある意味、現代科学の終端であるような気もする。
もちろん、これも犯罪だから絶対に真似しないように。って、こんな能力を持っている人間が世の中にごっそりと居たら、既にセキュリティなんぞは無意味でしかないだろうし、そうなっていないということは、そんな人間は話題になるほどいないというわけで、まあ言うほどのことでもないよな。
まあ、そういう経緯の後、秘密文書を盗み出してきた忍者のように、抜き足差し足、自分の部屋まで戻り、やれやれ、やっと暖かい自分の布団の中で眠れる安心感を得ることができた。
…とすんなり行きたいところだったが、そうは問屋が卸してくれなかったらしい。
階段を上がりきり、部屋の前へ立って、やれやれ、やっと部屋までたどり着いた、ここまで来るのに何日かかっているんだか、などと物思いにふけっている間に、喉が渇いたのか、寝ぼけ眼を擦りながら部屋を出てきた妹が、独り思考をめぐらせている間に俺を見つけてしまった。
「あ、キョン君だ」
まずいっ!
「もう、風邪は治ったの?早く寝ないとまた風邪引いちゃうよ」
え?風邪?
…ああ、風邪ね。治った治った。すぐに寝るから、お前も早く寝なさい。
「うん、お茶飲んでから寝るね。おやすみ、キョン君」
ああ、おやすみ。
……長門、こっちの方でもしっかり情報操作をしておいてくれたようだ。恩に着る。
そして、やっと自分の部屋の、自分の布団へ。やれやれ、やっと安心して寝れる。もうそろそろこういう心臓に悪いのはやめてほしいものだ。
さて、今日だけで、封印するはずだったやれやれを何度言っただろうか。暇があれば数えてみてくれるといい。俺は寝る。