SON組発足後、最初の土曜日である。にしてもなんでだろうな、毎回駅前なのは。いつも同じところじゃ見つかるものも見つからないと思うんだが。いや、正直なところは見つかってほしくない。これ以上「実は私、異世界人なんです」とか言って出てくるのがないことをこの上なく祈っているわけだが。
「遅いわよ、キョン」
 これも、ホントなんでだろうな。示し合わせているんじゃないか?時間に遅れないよう、毎回30分くらい早めに来ているはずだ。なのに何故だ、全員もう顔を揃え腰に手を当てたハルヒが、「遅刻!罰金」。そろそろこのパターンをやめたいわけなんだが、この様子だとまだしばらくは無理そうだ。
「今日は8人だから、2人で東西南北に分かれるわよ」
 俺のおごりの喫茶店でハルヒがパフェのスプーンを振り回しながら、高らかに宣言する。ちょっと待て、ハルヒ、長門、朝比奈さん、古泉、俺が今までのSOS団メンバーだろう。ここまでは変わらないよな。で、新たに今回からは正式参加の鶴屋さんと朝倉。つまり、7人じゃないのか?
「……」
 長門の視線。そしてすっとそれが横に向く。
「何言ってるのよ、ほら、有希の妹さんも参加するのよ」
 長門の隣で規則正しくフォークをを動かし、小さなティラミスを食べる少女。
「この子はSO…N組と関係ないんじゃないのか?文芸部だろう」
「家に一人で残すのは可哀想でしょ!だから私が連れて来なさいって言ったの」
 可哀想って子供じゃないんだからなあ、
「あの、迷惑なら帰りますけど」
 長門妹が言う。いや、別に迷惑と言うわけじゃないんだが。
「いいのよ、キョンの言うことなんか気にしなくて。私がいいって言うんだからいいの」
「分かりました」
 そしてまたフォークを動かす。まあ、どうせ今更一人増えたところで変わらないんだけどな。それに、見た感じ少食のようだし。
「さて、今日は趣向を凝らしてあみだくじにしてみたわ」
 どこをどう趣向を凝らしたらあみだくじになるのか教えてくれ。ものすごいメジャーな気がするぞ。それとも、俺が知ってるあみだくじじゃないのか?
「何言ってるのよ、普通のあみだくじよ。いつもは2方向だけだから爪楊枝に色つければいいけど、今日は4方向だからあみだくじにしたのよ」
 そういうことか。…いや、やっぱりそうすると趣向とか、
「あーもう、どうでもいいのよ、そんなこと。とにかく名前を書きなさい」
それぞれ回された紙に名前を書く面々。そして俺の番。…選択肢なし。そりゃそうだ、最後に書いたんだからな。
「えーと、私はみくるちゃんと、古泉君は鶴屋さんとね。有希は朝倉さんと。キョン、あんたは有希の妹とよ」
 長門妹を見ると、ん?さっきから減ってなくないか?それもそのはず、ものすごく食べるスピードが遅い。いや、フォークを動かすスピードはそこまで遅くない。だが一口がものすごく小さい。お陰で一番最後に来たはずなのに、みんな食べ終わってもまだ3分の1くらい残っている。
「さあ、行くわよ。さっさとキョンは払って来なさい」
 へいへい、分かりましたよ。本当にこの団長さんは…。
「あっはっはー、ごちそうさま、キョン君」
「あなたも大変ね」
 ハルヒを先頭にぞろぞろと出て行く中、鶴屋さんが肩を叩き、朝倉が笑いながら声を掛けてくる。これから毎回この二人も入るとなると、経済状況がロシアの永久凍土のように冷え切りそうだ。かといって、ここに来るのを拒否すればどうなるか…いや、考えたくもない。というかまだ食べてるのが居るのに出て行くとはどういう…いや、ハルヒだから仕方がないか。
「あ、そうそう。もう私達は先に行ってるから。キョン達は南へ行きなさい。もちろん、有希の妹さんが食べ終わるまでキョンは待ってること!」
 仕方がない。待つか。
 もう終わるだろうというときに席を立ち会計で金を払うと、やっとティラミスを食べ終わり、「ごちそうさま」と手を合わせて立ち上がる。俺の隣まで来ると財布をごそごそとやり、「自分が食べたものは払います」と金を出してくる。いや、別に構わんさ。
「いえ、それくらいはします。別にお金に困っているわけじゃないですし」
「こっちも別にそこまでまずいわけじゃないし、」
「いえ、払います」
 何度も押し出してくる金を突っ返すわけにもいかず、結局受け取る。随分とその、押しが強いな。

 からんからんと喫茶店の扉に付いた鈴を鳴らし外へ出る。ちなみに今はクリスマスシーズン真っ最中のため、そこらじゅうにリースだのツリーだのが飾ってある。これがしばらくすると全部門松やしめ縄になるんだから、全く日本人はお祭り好きだよな。
「じゃあ、行きましょう」
 ああ、面倒だけどな。さて、今日はどうやって時間を潰すかね。文芸部だし、長門と同じように図書館か?
「何を言っているんですか。宇宙人や異世界人を探すのでしょう。探して何をするのかは知りませんが、言われた通りにしましょう」
 …いや、それはだな、ハルヒの妄想であって適当にやってれば、
「妄想じゃないのはあなたも知っているでしょう。私やお姉ちゃんはいわゆる宇宙人、朝比奈みくるは未来人、古泉一樹は超能力者ですよ。それにやると言ったのですから、やらなくてはいけません」
 ぴしゃりと言い放つ。
「あ、あそこに居ますよ、未来人。連れて行きましょう」
 待て待て待て待て。いろいろと問題があるぞ、それは。連れて行くといってもな、本当に未来人連れて行ってもハルヒは納得しないぞ。それに「あなたは未来人ですね、ちょっと来てください」とか言って素直に来てくれるとは思えないが。
「でもそういう人間を期待しているのでしょう。だったら問題はないはずです」
 とは言うがな、あいつが想像してるのはこう…マンガとかアニメとかに出てくるやつだ。光線銃とか、タイムマシンとか。
「そんなものはありません」
 まあ、あいつはそういうのを期待しているからな、本物の未来人を連れて行っても仕方がないと思うぞ。
 ここまで言ってちょっと待て、あれは未来人なのか?なんで未来人だと分かるんだ。
「あなたには分からないのですか?」
 ああ、分からんね。どっからみても普通の人間にしか見えないぞ。
「まあ、有機生命体ではそんなものですね。といっても、私も学習型スタンドアローンのTFEIですから、覚えるのには苦労しましたけど」
 どういうことだ?
「お姉ちゃんや朝倉涼子のようなTFEIは、情報統合思念体または他のTFEIと同期することによってその情報を得ることができます。しかし、今回私がコンセプトとされたのはそのような同期型ではなく、スタンドアローンの学習型、つまりできるだけあなたたち有機生命体に近づけて作られた新型です」
 新型と言われるとなんだかロボットか何かを想像してしまうんだが…あー、なんだ。つまり、長門達とは同じようでちょっと違うわけか。
「それでいいです。まあ、あなた達のようなただの有機生命体ほど低い知性や運動性ではありませんが」
 ちなみにこの長門妹、身長が長門より少し低い。見上げるような格好でこういわれるのは正直悲しいものがある。
 まあ、とにかくだな。長門妹…いや、そういやお前名前はなんていうんだ?
「名前?……ああ、有機生命体同士の呼称ですか。いりませんよ、そんなもの」
「困るだろう、さすがに。学校だって行ってるんだろう。そのときなんて呼ばれてるんだ?」
「別に授業は受けていません。文芸部部室で常に本を読んでいるだけです」
 …ちょっと待て。それだと文芸部には入れないんじゃないか?
「大丈夫です。手は打ってありますから」
 そういう問題じゃないと思うんだが…まあ、いいか。ただし、呼びにくいな。何かいい名前ないか。
「ご勝手にどうぞ」
 それからは会話と言う会話もなく、そりゃ弾むネタもないしな、結局不思議人探しもうやうむやになり、数時間散歩の後、日が暮れてきた頃のハルヒからの「今日は各自解散。キョンは有希の妹を家まで送るように」というメールで長門達が住んでいるマンションまで送っていく。
 玄関口には長門と朝倉が待っていた。
「おかえりなさい。随分と遅かったのね」
 朝倉がなにやら笑っている。別に何もなかったぞ。
「あら、残念ね」
「何かって何」
「何かって何ですか」
 長門とその妹よ、ハモらなくていい。それはそうと長門、お前の妹は本当に名前が付いてないのか?
「付いていない。必要がないと判断された」
「ま、私も別にいらないと思うけど」
 でもいつまでも長門妹と呼ぶのも辛いぞ。
「じゃああなたが決めればいい」
「そうね、それがいいかもしれないわ」
 お前達もいいかげんだな…。
「名前が決まったら教えてください」
 一礼して、3人とも部屋へ戻って行く。名前…ね、人の名前ってそんなに簡単に付けていいものなんだろうか。いや、人間じゃないんだが、気になるだろう?苗字は、やっぱ長門なんだろうな。名前か、名前……。
 うんうんと悩みながら夜道を一人自転車を引きながら帰った。よく考えたら、自転車乗れば良かったんじゃないか?と思ったのは家が見えてきてからのことである。