「それで、これからどうするんだ」
いつまでも頭を痛めているだけでは仕方が無い。もう十分町探険と空き巣はやってきただろうし、そろそろ話を進めていい頃合だろ。
「あたしもそう思ってたところよ」
本当かよ。
「そろそろ皆を探さなきゃいけないし。それにほら、こういうところならなんか変なゼリー状の塊がうにょうにょ動いてるのとか見られそうだし!」
やる気があるのか無いのか。
「あるわよ、大有りよ。まずパーティーメンバーを集めることから始めなきゃいけないわね。やっぱり酒場に居るのかしら」
特定のゲームのことしか頭に無いのか。俺たちは高校生だぞ、酒場なんかに居るわけが無いだろう。
まずは町中の人に目撃証言がないか聞き込みをしてみる。期待通りの反応が返ってくるかは分からないが、朝比奈さんたちの誰かを見た人間が居ないか尋ねてみるのがいい。
ほら、そこでタバコをくゆらせてるオッサンなんかどうだ? いろいろ知ってそうだぞ。
「分かってるわよ。ねえオジサン、ここってどこ? みくるちゃん知らない? 他にも古泉君とか朝倉さんとか鶴屋さんとか実希とか」
ちょっと待て、いっぺんに聞きすぎだろ。それに知らない人間の個人名出されてその所在が分かる人間がどこに居る。
「ここは始まりの村だ」
「始まりの村? ネーミングセンス無いわね」
そんなところに突っ込み入れてどうする。
「ま、それはいいから、みくるちゃん、えーっとなんかこう、ぼいーんとしてて、トロそうで、ロリ顔なの」
こんな曖昧な説明で分かるほど皆発想力豊かではないぞ。せめて髪の毛が茶色で、身長は自分よりもちょっと小さめ、服装は時代に似合わずメイド服……って今メイド服を着ているとは限らないのか。俺たちも普段着慣れていない、というか着る機会なんぞ皆無だった皮鎧なんかを着ているんだからな。
だがオッサンこちらを見ることもなくタバコの煙を吐きながら、
「ここは始まりの村だ」
「それはもう聞いたわよ。だからネーミングセンス無い、ってそんなのはどうでもよくて、みくるちゃん知らないの?」
「ここは始まりの村だ」
そうか、やはりこれは本当にゲームの世界なんだな。そしてこのオッサンは最初の町でただ淡々と、どんなことを尋ねられてもこの「ここは始まりの村だ」という言葉だけを伝えるが為だけの人形に過ぎないんだろう。
薄々怪しいとは思っていたが、どうやら本当にここは電脳世界の真っ只中ということらしい。そうだよな、リアル世界だったらこんな置き引き犯を放置しているわけが無い。警察なんて組織が無くても、あんな暴挙に出ているハルヒを見たら普通は怒ってここから放り出すことくらいはするもんな。
それでもハルヒはどうにも納得いかないようで、
「だーかーら! そんなのはどうでもいいの。あたしはみくるちゃんとか古泉君を探してるわけ。いい? 何処に居るか言いなさい」
「ここは始まりの村だ」
「くーっ!」
頭をかきむしるハルヒ。
もうやめた方がいいんじゃないのか。それ以上そのオッサンに話しかけても壊れたレコードのようにただ同じ文句を繰り返すだけだ。時間の無駄だぞ。
それにこのオッサンしかこの町に居ないわけじゃないんだから、他の人間に話しかければいいだろう。もしかすると何か知っている人間がどこかに居るかもしれないしな。
「誰もまともに返さなかったらどうするのよ」
そんなもん知らん。そのときはそのときでまた次の方法を考えればいいだろう。
「無責任ね」
一番無責任の塊のこいつに言われたかないね。
そんな言い合いの中で長門はぼんやりと空を見上げ、何か感慨があるのかは表情から読み取れなかったが、ハルヒがずんずん歩き出して次なるターゲットを捕捉する前に、突然それと違う方へ足を進めてふらふらと餌に釣られるコイのように歩き始めてしまった。
「お、おい、長門。どうしたんだ?」
「何よキョン……って有希?」
決して早いわけではないのだが、全く迷い無く歩き続けている長門に俺とハルヒは思わず顔を見合わせて、
「こ、こら待ちなさい。行く場所はあたしが決めるのよ!」
とかなんとかハルヒは叫びつつ、俺はさっそくこの2人の協調性の無さに呆れながらも長門の興味をひくものはなんなのかが気になって、黒魔術師姿の長門が向かっているところへついていった。
町の中央にある立て札らしきものから右へ折れたところに古びた建物があって、長門はその扉を躊躇無く開いて中へ入っていった。
「何を見つけたのかしら。まさかみくるちゃんたちの居場所を最初から知ってたとか?」
さあな。長門がそんなことをだんまりしたところで得になることなんか無いと思うが、行ってみりゃ分かる。
俺とハルヒが相次いで入ったその建物の中には所狭しと本棚が置いてあり、見るからに古そうな本がその本棚一杯に詰まっていた。図書館、か? 長門らしいといえば長門らしい場所選択である。
「こんなところがあるとはね。さすが有希、本好きだから匂いでもしたのかしら」
本棚の間をうろうろ、長門を探しながら歩くとその建物の奥には朝比奈さんとはまた違った、燦然と輝く真夏の太陽の下にそれはまた誇らしげに咲いている向日葵のような笑顔で座っている女性が居た。綺麗な漆黒の長い髪を垂らして、じっと楽しそうに本を読んでいる様子だった。
「図書館の人かしら。丁度いいわ、みくるちゃんたち知ってるか聞いてみましょ」