「どうした、キョン。あくびばっかり連発して。最近新作ゲームなんか出てたっけか?」
 大きく伸びを繰り返ししながら昼飯を突付いていると、同席の谷口が春巻きを口に放り込みながら尋ねてくる。
「いや、そういうわけでもない」
 ある意味正しい気はするが。
「どういうこった」
 実際にゲーム的な何かを実体験してきたというか。
「はあ? ちゃんと寝てるのか? なんか言ってることが涼宮並に意味不明だぞ」
 あいつと同列にしないでくれ。というかそもそもあいつが不思議レベルの基準ってのはどうなんだ?
 実は昨日は夜、寝たらまたあっちの世界に飛ばされるんじゃないかと思って眠れなかった。結局は杞憂に終わったから良かったものの、お陰で睡眠時間はいつもの半分くらいになっちまった。
 国木田がかぼちゃの煮つけを口に運びながら、俺の言葉にこう返す。
「半分夢を見ながら起きてるんじゃないのかい?」
 失礼なことを言うな。いくら未だ寒くて布団から起き上がるのが厳しいからって、そこまで寝ぼけてはいないぞ。眠いのは確かだが。
「まあ何にしても、しっかり目開けないと学年末やばいぞ」
 お前に言われたかないね。いつも赤点水域をうろうろしてるんだからな。というかお前だってさっき俺が起きたときには机の上で気持ち良さそうに寝てたじゃねーか。
「甘いな。最初の8分は起きてたぞ」
 そんなの自慢にならんぞ。
「国木田はいいよな、その点は心配いらないんだろうし」
「勉強しないであまり低い得点取るのもなんだし、ちゃんと勉強するけどね」
 机の前に座りくらいはするが、結局すぐに休憩に入っちまうんだよな。
 谷口は箸も置かずに腕を組んでうんうんと力強く頷く。
「30分くらいの休憩だったはずなのがいつの間にか1時間になり、2時間になり、いつの間にか寝る時間なんだよな。ありゃどうしてだろうな」
 休んでばかりだからだろ。
「意志が弱いんだね。僕は視界に遊び道具が入らないように気をつけているよ」
「残念ながら国木田、それじゃ俺とかキョンは駄目なんだよ」
 なんで勝手に決め付けてるんだ。まあ本当にそうだが。
「隠してても勉強に飽きて、自分から取り出しちまうんだ」
「それはよっぽどだね。だったらせめて毎回の授業をちゃんと聞いてればもうちょっと楽になると思うんだけど。うちの学校の授業、教師によって差はあるけど結構分かりやすいと思うし」
 お経か何かにしか聞こえないあの睡眠怪電波はどうやっても真面目に聞く気にならんな。同じ日本語とは思えん。
「ああ、同感だ」
「あはは」
 さすがに国木田もこれ以上擁護のしようもないと思ったか、呆れをふんだんに含んだ笑顔で口を噤んだ。
「まあテストが終われば自由の身だぜ。その先のことでも考えるのがベストだろ」
 お前は本当に前向きだな。
「おうよ。春は出会いの季節……っていうしな。だがお前は今年の春休みも涼宮とその一味に加わってるんだろうな」
 まだ正式には決まってないがおそらくそうなるだろうよ。悲しいことにな。
「ご苦労なこった」
「そういや最近は一時期みたいな派手なことやらなくなったね。今は何をしてるの?」
 話題が変わったからか、ペットボトルのお茶を飲み干して国木田が尋ねてくる。
 普段何しているか、ね。何してるんだろうな、ホント。まともなことは何もしてない気がする。表の活動は相変わらず細々と続けてはいるが、非常に不定期だ。部活動と言うにはちょいとやってることが弱すぎる。
「さあ、なんだろうな」
「おいおい、あれだけ毎日長時間拘束されているのに何もやってないのかよ」
 そんなの俺に言うな。ハルヒに言ってくれ。基本的に俺に選択権なんぞ残ってない。
 しかし今年度の活動で何があったっけ? 1周年とかなんとか言ってささやかなパーティーを開いたときに振り返った気がするが、本来の目的である『宇宙人その他を見つけて一緒に遊ぶ』の前提条件である見つける部分すらほとんど行なっていなかったんじゃなかろうか。町内探索も発足して数週間で1回やったっきりだったはずだし。
 徐々にそっちに対する気分が薄れていっているのならばそれに越したことはない。このまま3年まで、そしてこの高校を卒業するまで忘れていてくれればなおのこと嬉しい。
 が、どうやらハルヒがそういう非現実的なものに意識的でないにしろ、周囲に多大な影響を与えるから意味が無い気がするな。昨日のアレとかな。
 まあそういう人には言えないようなことを片っ端から省いていけば、やっぱりやっていることなんか朝比奈さんのお茶を飲み、朝倉が差し入れてくれるケーキやクッキーだのをつまみ、古泉や鶴屋さんとボードゲームやテレビゲームに興じたり、長門や実希の読書姿を眺めたり。後は何より、ハルヒの戯言に付き合って右往左往か。
「なんだか部活というより、一家みたいだね」
「涼宮一家か、ある意味らしいかもな」
 何がらしい、だ。できればさっさとまともな生活に戻りたいぜ。たまに不思議なことに巻き込まれりゃいいんだよ。なんで毎日のようにとっかえひっかえ起こるんだ。休憩する時間くらいくれてもいいだろう。特に被害は俺が9割以上受けてるんだからな。功労賞くらい貰ったって罰は当たるまい。
 そんなことを考えていたら予鈴が鳴り始めた。やべ、まだ弁当残ってるぞ。
「もたもたしてるからだろ」
「んじゃ、僕は先に戻ってるよ」
「ああ」
 俺も残っていたおかずを口に放り込んであまり咀嚼もせず飲み込んで、弁当箱を片付けて自分の席へ戻った。既にハルヒは自分の席に戻ってきていて、
「キョン、みくるちゃんの新しいコスプレでも考えてるんだけど、何がいいかしら」
 やっぱり授業中、真面目に聞いていられそうにないな。