「これで名前だけは分かったな」
 だがこれだけじゃ重要なものが分からない。何故こんな状況になったか、何処へ行ったのか。学校のコンピューターにそれらしいデータは……ないよな。
「今回はこれだけしか取れなかった」
「そうか」
 ま、何事も一瞬で解決、なーんて訳にはいかないよな。いくら長門が人間離れしたナントカ思念体の人間ロボットとはいえ、そういうもんだ。
「明日、再び学校内のコンピューターに侵入を試みる」
「大丈夫か、そんなに頻繁に」
 コンピ研部長が言ってた様子じゃマズいことなんだろ。良くて一時停学、下手すりゃ退学モンだぜ。
 初めてパソコンを触ったときにはマウスをこちらに向けて手旗信号よろしく弧を描いてたからな。今はあれからかなり進歩してるだろうし、コンピ研との対戦した時点で既にかなりのハイレベルなコンピュータープログラマーになっていたとは思うが、少し気になる。
 そんな俺の心配をよそに、長門はあっさり頷いた。
「問題はない。万が一、何らかのきっかけでこれが発覚した場合の処置は既に想定済み」
 そっちで手を回すのかよ。まあ長門のことだからいざというときにはどうにかするとは思うが、できるだけ気をつけてくれよ。
「分かった」
 これ以上今日はここでやることもないし、引き上げることにする。ついでにコンピ研の共用プリンタを利用させてもらって、さっきのデータの必要な部分だけ印刷させてもらった。SON組の奴ら、特にハルヒには報告しておかなきゃいけないだろうしな。
「ふうん、これがそれね」
 部室に引き上げてすぐ、ハルヒに印刷したてのものを渡す。双方のデーターに目を通し、
「確かにこの名前だけ消えてるわね。この名前が失踪者ってことか。有希、やるじゃない。コンピ研にあなたを送って正解だったわ!」
 最初は「こっちが勝者なのに」とかなんとか言ってたのにこういうときは都合がいいよな。今更突っ込むのも億劫だからしないが。
 読み終わったものを朝比奈さんに渡して考え込む。
「これで名前と顔が分かったけど。根本的なのが何も分からないのが痛いわね」
 それはそうだな。何処にいるかというのが一番重要な問題で、それが分からないというのは結構手痛い。あれ、ってか話題ループしてないか?
 まあループもするわな。新規のネタもクリーンなヒットとまではいかなかったし。
「これ以上学校を闇雲に歩き回っても、今の状態じゃ当たりを引く確率は限りなく低いわ」
 この場の全員が頷く。どうやらみんな同じ認識のようだった。
「だがどうするんだ? それ以外に手があるとは思えないぞ」
「分かってるわよ。それを今から考えるんじゃない」
 うがー、と頭を掻き毟りながら唸る。
 さすがにハルヒでも幽霊みたいに消えた人間探せなんて言われて、簡単に手段が見つかるほど非常識な思考回路を持ち合わせてはいないようだった。当たり前か。
 本当ならこいつが本気を出せばそれくらいできるような気がするんだがな。そういう能力を持っているということを自覚していないんだから仕方が無い。自覚させても困るらしいし。
 ……そういや。
「おい、古泉」
「なんでしょう?」
 左隣の実希は日当たりが結構良いためか窓際で長門と2人、カバーを掛けた文庫本を読んでいるため、古泉を隣まで呼ぶことが出来た。こんな野郎の面を見ていたって面白くもなんとも無いし、だったらハルヒの意向で大分前に着せられたどこかの茶屋みたいな準袴姿で幸せそうに苺大福を頬張っている朝比奈さんをじっくりと眺めていた方が良いに決まってるんだが、どうしても聞いておかなきゃいけないことがあるからな。
「今のところ世界はどうなってるんだ?」
 突然重力が無くなったということもないし、かといって谷口とかクラスメイトが次々に銀色の宇宙人姿へ変貌を遂げることもない。俺の目には、少なくともまだ何も変わっていないように見えるんだが。
 俺の言葉にうんうんと目を細めて頷く古泉。
「どうやら突然のことに戸惑っているようですね。こちらとしては冷や汗モノで、実は事件が発覚した当日は食べ物もロクに喉を通らない状態でした」
 そりゃ困ったもんだな。同情はしておいてやろう。
「しかし今あなたがおっしゃった通り、まだこの世界は至って現実的です。おそらくまだこの事件を十分に納得しきれていないんでしょう」
 ハルヒの様子を盗み見る。確かに摩訶不思議なことが起こったことについて混乱してるというのが一番的確に現在のハルヒの状況を表す言葉であると思う。現状を納得し、失踪者を探す手段を徹底的に考えるという段階ではない。
「ですからこちらもまだ本格的な行動は慎む、ということになっています。つまり今まで通り、ということです。長門さんたちも積極的に涼宮さんに干渉する様子もありませんし、そうなんでしょう」
 実際そう言ってたな。そういや朝比奈さんたち、未来人の団体はどうなっているんだろうな。朝比奈さん1人でハルヒに接触している様子もないし、ハルヒが朝比奈さんの言うことを聞くかと考えれば、こちらも動きはなしだろう。
 古泉は一瞬だけ目が鋭くなって、すぐに定表情の笑顔に戻し、
「ここで皆さんとの関係をなしにするのは少々もったいない気もしますし、できればよい方向に解決してくれることを望みますよ。それにはあなたの力が必要です」
 俺かよ。俺はそんな大それた能力は無いぞ。
「涼宮さんが唯一、最後に信じるだろう人間はあなたですよ。いつもはぞんざいな感じがありますが、それでも確実にあなたを信頼している」
 どうだか。
 そこで会話を打ち切って、俺もそろそろ失踪者探しの手段を考えることにする。ハルヒが俺を信頼しているにしろ、していないにしろ、この話を解決したいという意思は同じだ。だったら努力は惜しまないさ。