温泉旅行から数日、俺は平穏な日々を過ごしていた。いつも通りメンバーが集まり、ある程度の時間になったら解散している。実に理想系だ。
 しかし、こういう平穏をよろしく思わない御仁がいらっしゃる。それは誰か。
 涼宮ハルヒしかいない。俺にとっては、ある意味不幸の塊でしかないこいつは、こういう何も無い状況を一番好ましく思わず、やっかいごとをまるで麻薬探知犬のように探し回り嗅ぎ回り、そこでしっかり見つけてくるという凄腕能力がある。
 まあ、そんな凄腕能力のお陰で、今回もまた事件に巻き込まれるわけだが、正直衰えを知らないこの能力は、探偵の行くところに事件あり、というより、探偵が実は事件を起こしているんじゃないかと錯覚してしまうような、それくらいはた迷惑なものだと嫌というほど身にしみるわけである。

 我がSON組には任務がある。それは前生徒会に提出し、日を立たずして却下されたあのSON組の偽正式名称の表任務である。偽、などと口に出しては言えないが、実際のところは基本的に遊んでいるだけだし、ハルヒがあっちの名称を許すわけが無いし、やっぱり偽なんだろうな。
 まあいい、その表任務がは「生徒社会の大いなる発展を願う組合」という名称の通り、地域社会に貢献するような生徒たちの発表や活動状況を、ブログに更新するというものである、ということは前に方針を決めたことであり、実際これを実行し始めている。
 基本的にブログの更新担当は長門有希、地球を監視する宇宙人に作られた有機生命体とコミュニケーション用端末であり、このSON組の組長のお仕事である。そして、新聞やテレビなどで情報収集するのが俺、実希、朝比奈さんと鶴屋さんで、先生たちの聞き込み係が朝倉や古泉、という振り分けになっている。
 誰か一人活動していないって?超顧問様ならいつでも足組んでネットを徘徊してるさ。ちゃんと仕事しているか監視役と言っているが、まあつまり何もやってないわけだ。最初から期待もしてないがね。
 さて、そんな週1,2くらいの不定期更新を長門が完了し、少しずつカウンタの動きも良くなってきたかな、と思い始めていた頃。にやにやとこちらを不安ゲージをいっぺんにレッドゾーン、危険領域まで持っていくハルヒが現れた。
「今日の夕方6時、この学校の正門に集合よ」
 唐突なのはいつものことだから、ある程度は覚悟してはいたんだが、なんだってこのクソ寒い時期に夕方の学校へ集合なんかせにゃならんのだ。
「各自食事は済ませてくるように。以上!」
 質問はやっぱり受け付けないわけだ。ハルヒはそのにやにや顔を崩さないまま、教室を出て行った。
「あいつ、何を思いついたんだか。夜の学校だ?こんな時期に肝試しでもやろうとか言うんじゃ無いだろうな」
「ある意味、それは正解な気がします」
 古泉、お前何か知ってるのか?
「僕が最近耳にした話で、涼宮さんが好きそうな話題というものに”夜、ある学校の旧校舎に幽霊が出る”という噂がありまして」
 ……まさしくそれっぽいな。
「学校名までは存じ上げませんが、あの涼宮さんことです、きっとどうにかして聞き出してきたんでしょう」
 それで夕方から集合して見に行こう、という魂胆なわけか。いかにもハルヒの好きそうな話だな、確かに。
「ゆ、幽霊ですかぁ」
「むむむ、幽霊ね。ちょっと見てみたい気もするかなっ」
 大体そんなものは見間違いとかそんなもんです。どうせ何も見つからずに、ハルヒが飽きるまで待ちましょう。
「そ、そうですよね。幽霊なんか居ませんよね」
「さあ、本当にどうでしょうか」
「ふえぇ?!」
 何かあるのか?
「ええ。旧校舎解体が行われることが決まり、工事業者が解体に取り掛かろうとしたのですが、解体当日に突然機械が動かなくなったり、突然業者の方が病気にかかったりと」
 良くある、旧校舎の霊の仕業だ!って話だな。
「ええ。話の真偽は定かではありませんが、結局その旧校舎は未だに取り壊されてはいないということですよ。まあ、何にしても今晩でしょう」
 気は乗らないがな。

 結局律儀にメンバー全員が集合している。朝比奈さんはまだ何も始まってないのに、先ほどから鶴屋さんにくっついて震え始めていて、そこまで怖いなら来なくてもいい気がするんだが、休んだらハルヒ直々に呼び出しが掛かるどころか、鎖でもつけてひっぱってきそうだし、やっぱり来るしかないわけだ。
「で、どうするんだ?」
 まだ、詳細を聞いていない。古泉の説が違う可能性もあるからな、本人の口から聞くしかあるまい。できれば古泉説、敗北ってのがありがたいんだが。
「みんな集まったようね。じゃあ、今日の目的を発表するわ!」
 心底発表してもらいたくないが、話が進まないのでさっさと発表してくれ。
「ある学校の旧校舎に幽霊が出るという噂を耳にしたのよ」
 出た。
「で、その幽霊を見に行こうってわけ」
「夏まで待てなかったのか。夏にはうってつけの話だろう」
「何言ってるのよ。最近事件らしい事件も起きなかったし、せっかくのチャンスよ。幽霊だって夏まで待ってくれないかもしれないじゃない。もしかすると冬限定かもしれないのよ!」
 そんな幽霊が居てたまるか。
「学校の場所はもう聞いてあるわ。さあ、行くわよ!」
 ノリノリなのはハルヒと鶴屋さんくらいで、その他大勢はまた始まったといった諦観状態である。
 俺はちらりと、長門を見る。そうだ、長門が居るしな。いざとなれば、どうにかなるだろう。まあ、長門が活躍するような事態には遭遇したくないわけだが。
 確かに長門の活躍するほどの事件ではなかったが、しかしなんとも不思議な事件で、それは終わってから不思議だと気づく事件だった、とは今の俺がどうやって予知できようか。できるやつが居たらここに呼んできてくれ。そして、ぜひともこれから起こることを、ノート何十冊分でもいい、書き記して残しておいてほしい。