「ここよ!」
ばばーん、と既にほとんど茜を黒に変えてしまった空の下、効果音でも背負ってそうに紹介されたその場所は、我らが北高から少々離れた小学校だった。
「妙だな。新校舎、という方もあまり新しくないってことはだ。旧校舎が取り壊ししようとしたのも大分前の話じゃないのか?何で今になって噂になるんだ」
にやりとハルヒが笑い、つーかこんなところ見つかったらやばいんじゃないのか、大声でこの噂の経緯を説明し始める。それに、お前は別にその当事者とかなわけではないだろうから、そんなに偉そうに言わなくてもいいと思うが、それはハルヒがハルヒたる所以なので、諦めて聞くことにする。
「簡単に噂は聞いてるんでしょ?」
まあな。解体しようとしたら、工事用機械が壊れたとか、病気になったとか、胡散臭い話をな。
「もう一度細かく説明してあげるわ。そう、旧校舎を解体するって話が出たのはもう4年前くらいのことになるの。当時の校長が新校舎設立を決め、旧校舎を解体しようっていう話になったのよ。で、業者を呼んで解体準備に掛かったの」
大体古泉から聞いていた話と同じだな。
「旧校舎の跡地に図書館でも新しく建てようか、なんて話だったらしいわよ。で、工事用機械とか配置しておいたんだけど、突然壊れて動かなくなったんだって。それも、解体日当日によ?ありえないじゃない、前日までちゃんと動くの確認してたのに、突然当日になって動かなくなったんだって!」
ハイテンションで捲くし立てるのはいいんだが、それはもう聞いた話で、
「仕方が無いから、とりあえず今度は内部から少しずつ解体しようって業者が入ったんだけど、しばらくしたら体調不良を訴える人が増えてきて、解体は結局取りやめになったわ。で、あそこには幽霊が住んでて、その霊の仕業じゃないかって話なのよ」
結局聞いた話だけじゃないか。というか、ただ喋りたかっただけなんじゃないのか、こいつ。重要な話はまだ聞いて無いぞ。
「まあ、待ちなさい、ここからが本番よ。旧校舎、最近までずっと放置されていたんだけど、さすがにボロボロになって、見栄えも良くないし、変な噂も流れるしでそろそろ本腰入れて解体しよう、って話になったのよ」
そうか。まあ、そりゃそうだろうな。幽霊が出る校舎がある、なんて話を聞いたら義務教育とはいえ、そんな学校に入りたくないと訴える生徒が続出するだろうし。
「だから、もう一度解体業者を呼んだらしいんだけど、やっぱりまた当日になったら壊れているのよ、工事用の機械が。もう偶然とは思えないでしょ!」
それで最近、話題になったということか。
「で、そろそろ新入生の人数も減ってきたし、小学校も統廃合始めるべきだなんて意見も出たせいで、この学校もそろそろ廃校になるみたいなの。だから、どちらにしても旧校舎を解体しなきゃいけないんだけど、解体できないからどうしようって悩んでるらしい、という話を聞いたわけよ」
誰だよ、ハルヒの耳にこんな委細を入れた奴は。ここに正座させて、一晩中ハルヒの全くもってありがたくない説法を聞かせてやろう。頼んだら喜んでやってくれるぜ、ハルヒならな。
校門を乗り越えて入るハルヒ。おい、勝手に入ったらまずいんじゃないのか?
「入らなきゃどうしようもないでしょ!」
だったら最初からこんなところ来なければ良かろうに。
「それに、ちゃんと校長から了承貰ってるわよ、昼に。ぜひとも謎を解決してくれ!ってさ」
行動力というものは、時に怖いものだ。特にハルヒの行動力はな。って、俺らは妖怪退治請負人でも、ゴーストバスターズじゃないと何度言ったら分かるんだ。それに、校長も校長だ。そんなこと許すなよな。
「なんでもいいのよ、おもしろければ」
結局そこに帰着するわけか。
「何か文句ある?」
いや、何も。もうどうにでもしてくれ。
さて、一連の話は別に俺とハルヒのみで来たわけではなく、他のメンバーもちゃんと全員集合していたということをお伝えしておこう。古泉曰く、さすが会話の相手があなたであるとよく喋り、僕たちの介入の余地はありませんね、とのこと。どちらかといえば止めて欲しいものだ。喋れば喋るほど疲れてくるし、そろそろこの職を譲りたい気分だ。
とりあえず、今日はさっさと終わって欲しい。幽霊?そんなもんいない、ということを示してな。
「だ、大丈夫ですよね?幽霊なんか出ませんよね?ね?」
朝比奈さんが袖口を引っ張ってくる。だ、大丈夫ですよ。そんな非科学的なもの、出てくるわけありませんって。
しかし、実のところ俺も怖い。そんな超常現象的なものは信じないという確固たる自信の壁は、高校に入って涼宮ハルヒとその仲間たちという大型ハンマーによって、粉々に砕け散っている。
宇宙人、未来人、超能力者。そんなもんが世の中に存在しているということが、非常によく分かる実体験という形で、俺に見せ付けてくれたからな。だったら幽霊だって存在してても問題ないだろう、なんてことを最近は心の隅に思い始めてしまった。
「ひうっ!」
鳥が飛び立ったのだろう、木がしなる音にも敏感に反応し、先ほどから朝比奈さんが豊かなものを俺の腕に押し付けている。嬉しいのは嬉しいが、状況が状況なだけにのんびりと喜んでいられない。
ハルヒの「ついでだから肝試しもやりましょ」というアホな提案が通ってしまい、俺は朝比奈さんとペアを組むこととなった。こんな時期はずれの肝試しなぞ、正直どうでもよかったが、念願の朝比奈さんとの二人きりであるわけだし、たまにはハルヒもいいこというじゃないか。
しかしだね、遊園地のアトラクションのお化け屋敷と違って、本物が出てくる可能性があるこの状況、もう勘弁してくれと言いたくなる。
木造4階建ての校舎、1階探索の俺と朝比奈さんペアは、まず校舎の玄関から左の部屋を見ていくことにする。左の方は職員室や保健室などが存在し、右側には1年生の教室が集まっている。
片っ端から扉を開いていく。この辺りの部屋のものは全て運び出され、一部は業者が入ったんだろうと思われる破壊の跡が見られた。特に何もないな。
「大丈夫ですって。ハルヒが望んでるものなんか、そうそうありはしないんですよ。とりあえず扉だけ全部開けておけばいいんです」
「ちゃんと調べたか分かるように、扉を開けたままにしておきなさい。あとであたしが見に行くから」ということで、調べた部屋は扉を開けておかなくてはいけないらしい。上の方でもガラガラと扉を開ける音がするし、向こうもやっているんだろう。ちなみに真上はハルヒ・鶴屋さんペアで「居ない、次!」とか「残念さっ、次行こう!」と元気な声が響いている。こっちとは大違いだ。
玄関から左側の部屋を全部開いてきたが、特にそれらしいものもなかったので、やっぱり幽霊などという超常現象的未確認物体なんぞ居る訳が無いさと安心し始め、そこで俺と朝比奈さんは遭遇した。