SON組の解散がハルヒより言い渡されて、初めての休日。
「あれ、キョンくん。今日は学校行かないの?」
ソファに寝転がってテレビを見ていると、妹が目を丸くしてそんなことを言ってきた。うちの妹までそんなことを言うくらい、俺たちは学校に行ってたのか。皆勤賞以外にも、学校へ頻繁に登校したという努力賞か功労賞くらい貰ってもいい気がするな。
「今日は休みだ」
「ほえー。毎日学校に行ってるから、お休みないんだと思ってた」
実質、今まではそうだな。それも朝、携帯でハルヒに叩き起こされる、というのが毎度のパターンだった。
けれど唯一の学校へ行く理由だったSON組が解散した今となっては、あの坂を上る物好きはそうそう居やしない。上るのはトレーニング目的の運動部くらいじゃないのかね。もちろん俺はそんな運動部に入っているわけがないので、必要に駆られない限りあそこを上るつもりはさらさらない。
「じゃあキョンくん、あそぼー」
「そうだな」
たまには相手してやってもいいだろう。いつもは家に居ないんだし、たまには兄貴らしいことでもしてやるべきだ。
しばらくテレビゲームやトランプといった遊びに興じていると、遊びつかれたのかソファで居眠りを始めた妹を部屋に連れて行って寝かせ、別段見る気もしないテレビを点けた。
そういやこんな番組もやってたな、といった感じで意味もなくザッピングを続ける。ハルヒは「次の映画を作るときの参考になるかも!」とか言って、B級だろうがC級だろうが、映画が放送されていたら部室でテレビを点けていたし、朝比奈さんが明日の天気予報を見たいだとか、特に何もやることがなくなったりしたときには自然と点いているために、この時間帯の番組自体は結構見覚えあるものが多い。
しかし見る場所が非常に新鮮だ。いつもならばハルヒが出す妨害電波的騒音によってゆっくり見ることが出来ない。別に見たいのがあるわけじゃないが、まともに聞こえないと聞きたくなるというのが人の心というものである。せっかくだからちょっとくらいは聞いてみよう。
とかなんとか言っててもすぐに飽きる。連続ドラマなんかは途中から見たって何の面白味もないし。特にたまに2桁後半とか3桁回続いてるのとかな。そんなに毎日見てる奴、いるんだろうかね。録画にしろ、見る方の心が先に折れそうな気がするな。
それにしても、前にも思ったが暇な時間を持つというのはどうにも苦手だ。学校の部室でも暇な時間を持て余してただろと言うなかれ。あそこは受動的とはいえ「誰かと何かをして」いた。ハルヒの愚痴に付き合わされたり、古泉のボードゲームの相手をしたり、朝比奈さんのお茶を楽しんだりな。
だが家ではどうだ。ぐだぐだとテレビを垂れ流している、ゲームをしているか。それかたまに妹の我が侭に付き合うくらいだ。
なんというか、何らかの意味があるのかと聞かれたら大義名分になるようなものは全くないが、完全に無為とは言いがたい時間をあそこで過ごすことによって、なんとなく生活に彩りが合ったような気がする。実際やってることは今と大差ないんだから結局は錯覚なのかもしれないが、青春というひとときにそれは必要な気がしてくるね。
……散歩にでも行ってみるか。買い物ついで、とかじゃなくてただぶらぶら歩くだけ。こういう暇があるときじゃなきゃできないからな。
幸いにも妹に家を出るところを見られることもなく、無事に家を出発できた俺は特に行くあてもなく、なんとなく右へ曲がってそのまままっすぐ歩き出した。後はなんとなく思いつくまま、右に左に曲がっていく。
「んぉ? キョン、何してんだ」
何度曲がったか数えるのも面倒になった頃、曲がり角で菓子パンをもぐもぐやりながら歩いている谷口と遭遇した。歩き食いは行儀悪いぞ。
「ほっとけ。つーかお前、こんなところで何してんだ?」
「そういうお前こそ」
「俺はバイト帰りだ」
そういややってるって言ってた気がするな。
「この辺りでやってんのか?」
「ああ。……それにしてもキョン、お前がこんな時間に、こんなところをうろついてるとは珍しいな。涼宮とその仲間たちはどうした」
尋ねる谷口に俺は説明してやった。今までの行動の抗議も含めて俺がちょっと行動を取った途端にハルヒがSON組を解散するとか言い出しやがったことを。
それを聞くと、田舎のバアさんが何度目かの声でやっと何を言っているか分かったように力強く頷き、
「いかにも涼宮のやりそうなことだな。自分の気に入らないことになったらすぐにポイだ」
どうやらハルヒにはある種、思い当たることがあるらしい。あいつの中学校時代を見てみたい気もする。そうしたらこいつがアホみたいに頷いている理由も分かるだろうし。
頷くのをやめ、ニヤリと谷口は笑い、
「しかしそれならしばらくは暇なんだろ」
しばらくっつーか、部活かバイトでもしなけりゃこれからはずっと、基本的には暇だろうな。生真面目に予習、復習する人間じゃないしな。ついでに言うと宿題までギリギリまでやらない人間だ。
「いや、あの涼宮のことだ。いつやり直すというか分からないからな」
「そういうもんか?」
とはいえハルヒの気まぐれならありそうな話だ。というか実は来年度からまた名前を変えて、とか。ありえそうだ、実に。
だがあのときのハルヒの表情は尋常じゃなかった。ただ切っただけの色紙をテープで貼り付けるような感じに楽観視できるものでもない。
「ま、とにかく駅前辺りに遊びに行こうぜ。国木田も呼んでな」
「おう」