「そう言えばだな」
 俺が古泉からカードを引きながら言う。
「結局、この旧校舎を解体しようとか言っていたときの、幽霊騒ぎはなんだったんだろうな」
 あれだけ幽霊だ幽霊だと騒いでいたが、さすがにこの子じゃ無理だろう。
「わたしがやったの」
 いや、そうだとしてもどうやってやったんだ?工事機械とかが突然壊れたとか、大の大人でも1つでも工事機械を壊すのは至難の業だろう。
「パパまってるのに、この校しゃこわすって言うから、じゅんびしてるときに、えっと、これとかこれ持ってきて、ネジを取っておいたの」
 教科書が詰まっているかと思えば、赤いランドセルから少女が取り出したのは、日曜大工でお馴染みの六角レンチからドライバー、ニッパーなどである。家から持ち出してきたんだろうな。
 いくらこれだけ器具が揃っていたとしても、少女1人でやれそうには思えないが。
「パパのお友だちでそういうおしごとしてた人がいて、いっぱいおそわったからだいじょうぶなの」
「つまり、最小限で動かなくなるようなところ、つまり動力源だけ壊した、ということですか。よく頭が働く子ですね」
 古泉が笑顔を崩さずに自分のペアを捨て、隣の長門にカードを裏面のまま見せる。ああ、全くもって同感だ。
 しかし、病気はどうなんだ?都合よく何人も同時になるものだろうか。
「えっと、おとうさん、理科の先生で、かがくはんのうって言うのをおしえてくれて、あまりにおいかいだらいけないのを作っておいておいたの」
 ああ、直接試験管に近づけてはいけない、とか言われてるやつだな。匂いをかぐときには試験管を手で扇げとか書いてあったっけ、ってそんなことはどうでもいい。
 やはりこの少女は知能犯だ。知能犯すぎて、将来が非常に不安でもある。完全犯罪とかやるんじゃないだろうな、その内。
「ね、お父さんってどんな人なの?」
 朝倉が少女から1枚カードを引いて聞く。だった、と聞かないところは優しさだろうか。
「あっがりー!…えっとね、いつもやさしいおとうさんだよ。おしごといそがしそうだったけど、日ようびにはいっつも遊びにつれて行ってくれたんだよ」
「どんなところに連れて行ってくれたのかな?」
「すいぞくかんとか、ゆうえんちとか、どうぶつえん!」
 子供らしい答えで少し安心だ。
「あ、あとね、さいきんおんせんにも行ったんだよ。それでね、それでね、そこへんなんだよー」
「何が変だったのかな?」
 朝倉もあがり、いたずら少女と隣同士で話を続ける。
「そのおんせんはね、まくら投げするためのおへやがあったんだよ」
 どっかで聞いたことある話だな。って、この前行った古泉のところじゃねぇか!
「お姉ちゃんたちが最近行ったところと同じところに行ったんじゃないかな」
「そうなんだ!」
 嬉しそうに言う。
「あ、でもおんせんっていってもおへやのおんせんしかなかったんだ〜。ちょっとざんねん」
 部屋の温泉?そんなのあったか?
「ええ、ありますよ。前部屋風呂もあると説明しましたが、あちらも温泉を引いているんです」
「知らなかったわ。やっぱり、また行かなきゃいけないわね!どうせだから、今度行くときはあなたも一緒に行きましょ。何、旅費はキョン持ちだから心配いらないわ!」
 待て、勝手な契約を交わすな。
「うん!」
 こっちもこっちで快諾するな。
 まあ、会ったばかりのときから、大分態度が和らいだみたいだ。やっぱり、なんだかんだ言って寂しかったんだろうな。
「にしても変ですね。最近来たのであれば、離れにあった露天風呂は既にできているはずなのですが」
 そういえばそうだ。行ってから1週間も経たないが、ちゃんと露天風呂あったからな。まあ、いろいろと思い出したくない記憶もあるわけだが。
「えー、でも2しゅうかん前くらいに行ったときは、おんせんだーって言ったけど、おへやのしかなかったよ」
「もしかすると、説明し忘れてて行きそびれちゃったんじゃないかな?あとは、まだ工事中だったとか」
 少女を挟んで朝倉と逆側は鶴屋さん。こちらも上がりで、会話体勢である。現在残っているのは俺と実希。で、最後の一枚を俺が実希から引いて、また俺がラストか。対戦中、9割方負けた。これだけ人数が居て、俺ばかり負けるというのは何か作為的なものを感じる。まあ、いつものような気はするがね。
「いえ、露天風呂ができたのは大体3年前のことです。ですから、工事中である可能性はありません」
 じゃあ説明し忘れか。
「もしかするとそうかもしれませんね。ぜひともまた来ていただいて、今度はちゃんと露天風呂を楽しんでもらいたいものです。もちろん歓迎しますから」
「うん、また行くね!」
 さて、もう1戦か?
「…ううん、もう帰る」
 そうか。もう既に10時を回っている。
「ママ、しんぱいしてるかもしれないし」
 そりゃそうだ。早く帰ってやるのが一番だ。もう、こんなところまで来るんじゃないぞ。
「うん、分かった。お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう。またね!」
 ランドセルを背負いなおし、中でカシャカシャと金属同士が擦れる音がする、笑顔でそう言って手を振る。ああ、またな。
 教室を出て行ってしばらく。
「行っちゃいましたね」
「まあ、元気になって何よりさね。小さい子は元気なのが一番さっ!」
 ええ、ホントです。まあ、これでもう旧校舎を取り壊すときに幽霊なんて出ないでしょう。
 幽霊の正体見たり、枯れ尾花。