SON組初活動の次の日、つまり日曜日である。ハルヒからの電話に叩き起こされ、いや実際に叩き起こしにきたのは妹だったわけだが、日曜の朝から電話を掛けてきたのは紛れもなくハルヒであり、最初の言葉に即財布の中身を確認し、絶望に浸っていた。
「今日はSON組発足と新入組員に対して歓迎会を行うわ!」
おいおい、また俺のおごりとかいうんじゃないだろうな。無理だ無理、毎日こんな調子じゃ俺の財布は永久凍土どころか絶対零度だ。
「安心しなさい。今回は古泉君が席を設けてくれたわ!」
…古泉のところの機関とやらも大変だな。あいつのわがままを満たさなきゃいけないし、満たさなければ満たさないであの”閉鎖空間”とやらが発生するし。いくら金があっても足りないと思うぞ。
「とりあえず、集合は夜7時よ!遅刻したら食べられないと思いなさい!」
「分かったよ」
何にしても逆らうことはできんからな、従っておくことにする。古泉、すまん。
母親に飯がいらないことを告げ、夜を待って出発しようと、自転車のペダルに足を、
…
……
………
ちょっと待て。ハルヒが言ったことを思い出してみろ?
「安心しなさい。今回は古泉君が席を設けてくれたわ!」
「とりあえず、集合は夜7時よ!遅刻したら食べられないと思いなさい!」
場所言ってねぇ、あいつ!いや、今まで気づかない俺も俺だがね、そういう重要なことは先に言うべきだろう。どこに向かえばいいのか…これはまた団長様のお叱りをいただくことになりそうだ。俺のせいじゃない、という言い訳は通用しないんだろうなあ。
「仕方ない、電話し直すか」
自転車に足を掛けたまま、携帯を取り出し電話帳のボタンを押すと、
「………」
視線を感じた。もうこのパターンはすぐに分かる。顔を上げるとやはりいつも通りの無表情な新組長、長門だった。もしかして、お前も分からなかったのか?
「違う。涼宮ハルヒが伝え忘れたから、代わりに私が来た」
人使いが荒いな。
「それも違う。私が自分で来た」
先だって歩きながら、一言。
「組長だから」
長門、実は結構楽しんでるか?
「おっそいわよ!」
ハルヒの開口一番。
「あのな!」
「あ、あの二人とも…」
「あっはっは、まーまーキョンくんもハルにゃんも。ここは私に免じてだね、許してやろうじゃないか」
そうは言いますがね、
「…悪かったわよ」
そっぽを向いたままぼそっとハルヒが言う。随分素直だな……逆に何かあったのかと心配になるが、まあ今回は仕方がないとするか。さっきまで気づかなかった俺も悪かったしな。
「とりあえずまず席に座ってもらいましょう。キョン君は」
4人がけテーブルに分かれ、ハルヒのテーブルには朝比奈さん、鶴屋さん、古泉で4人。後の俺と長門、朝倉が同じテーブルである。そしてそれぞれの机に肉や野菜を分けて置いてある。
「では、おさまったようなので僭越ながら僕が進行させていただきますね」
よく見ると他に客はおらず貸し切りのようだ。よく見ると、やっぱりな、新川さんと森さんが居る。
「いつもすみません、新川さん、森さん」
「いえいえ、私達はお構いなく」
「はい、その通りでございます」
いえ、本当に。こんなわがまま娘の言うことを聞いてばかりでは、機関とやらも崩壊しないかと心配だ。
「ホントありがたいわ。なんならSOS団…じゃなかったSON組の特別顧問に任命しようかしら!」
「それはそれは、とてもありがたいお言葉でございます。しかし、私や森で勤まるでしょうか」
「もちろん、大丈夫よ!私が認めればそれでいいんだから」
とりあえず、これ以上ハルヒを一人で暴走させてはまずい、いろんな意味でな。古泉に合図を送る。あいつもそう思ったらしく、「では、とりあえず乾杯の音頭といきましょう」とグラスを配る。もちろん、オレンジジュースにリンゴジュースなどのソフトドリンクである。
「では音頭は涼宮さんに…、」
「いいえ、やっぱりSON組の組長がやらなきゃね。有希」
困った顔(だろうな、きっと)をする長門。こっちを見られても困る。
「ほら、立って乾杯ー!って言えばいいのよ」
朝倉が耳元で教えてやる。こくり、と頷き立ち上がった。
「…乾杯」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
カチャーンと近くのコップ同士がぶつかり合って音を立てた。そういや、ここは何の店かとも聞いてなかったな。まあ見たら、多分焼肉だろうとは分かるわけだが。
「今日は結構いい牛肉が入りましたので、皆さんに食べていただこうと思いまして」
「んー!おいしー!」
ハルヒ、さすがに早過ぎないか?
「何言ってるのよ、こういうのはちょっと生で食べるのがいいのよ。あ、ほら、みくるちゃんも早く食べなさい」
「はっはっは、ハルにゃんは食べるの早いなー」
「まだまだございますので、ゆっくりお食べください」
ハルヒがどんどん焼いて食べる(そして食べさせる)ため、開始10分ほどで追加分を森さんが運んできてくれる。しかし、確かにこれはうまい。これ、松坂牛とかじゃないのか?
「さあ、その辺りは申し上げかねます」
いつものスマイルで古泉が答える。…実は何やら怪しいものではないよな?お前の笑顔はたまに不安になる。
「それだけは保障いたします。皆さまによく分からないようなものを召し上がっていただくわけには参りませんので」
新川さんが温和そうな笑顔で、そういや古泉の居る機関の関係者はやけに笑顔だよな、答える。あ、気分を悪くしたならすみません。
「いえいえ、滅相もないことでございます。ただ、あまりそのようなことにお気使いなく、心ゆくまでご堪能くださいませ」
森さんも頭を下げる。そうだな、おいしければいいよな。
「ほら、長門さん。あーん」
「ん」
向かいでは何やらTFEI同士で仲良くやっている。と朝倉が「あら、何。あなたもしてほしい?」といいながら肉を差し出してくる。すると長門も、箸を持ち焼いてある肉をこちらに向け、
「あ、あんたたちなんか楽しそうなことやってるじゃない、私も混ぜなさい!」
「あ、じゃ、じゃあ私も…キョン君、どうぞ」
「はっはっはー、モテモテだね!じゃあわたしもほら」
こら、いっぺんに口に、ぐ、もご…。