数時間、町を彷徨った後、ハルヒの電話で1度集合。もちろんやることは戦果の報告だ。
集合場所に行くと既にハルヒ班の4人は集合済みであり、その班長は不機嫌そうに目じりを吊り上げていた。こりゃ聞くまでも無いな。不作だったんだろう。
「なんか見つかった?」
イライラがにじみ出ている班長は俺に真っ先に尋ねる。とりあえずここは俺が班長ってことになるのか?
左右を見ると俺を見る両の目が3組。ってかそういや長門は今日まだ一言も発してないな。存在を忘れかけていたぞ。ただでさえ普段の生活では空気に近いんだから、もうちょっと存在感アピールしてくれ。
「大したもんはないな。気になったところを3枚ほど撮ったくらいだ」
「気になったところ? 見せてみなさい」
古泉が差し出したデジカメを受け取るハルヒ。後ろについている小さな液晶画面を睨みつけてしばし。
「こんなちっさい画面じゃさっぱり分からないわ。明日、現像してから確認するから、とりあえずはその写真も残しておきなさい」
1枚に数秒ずつくらいしか時間を掛けずにデジカメを古泉に返した。
「そういうそっちはどうなんだよ」
「似たようなもん。気になったところは撮ってみたけどさっぱり駄目」
世界の終末が来るかのように悲壮感漂わせて溜め息のハルヒ。そりゃ1日ではい出ました、ってほど甘くは無いだろ。
「分かってるわよ。だから次、行くわよ。今度あんた達は東。あたし達は西」
「へいへい」
「いい? 戻ってくるまでに少なくとも10枚は写真に不思議なものを収めてきなさい! 見つかるまで返さないんだからね」
なんという横暴だ。そんなの見つかるわけないだろ。
しかし俺が反論する前にハルヒはさっさと人ごみにまぎれ、班員3人もそれについていってしまった。残された俺たち東方向班は顔を見合わせて、
「……仕方が無い。続けるか」
「そうですね……」
渋々ながら、全員合意の下に東方向へぞろぞろと向かう。
見えてくる風景で変わるのは建物くらい。歩いている人間は大して差はないし、もちろん突然UFOが出てくるとかいうストーンサークル的な場所があるわけでもない。
つまりカメラの被写体になるにはちょっと力不足だな。撮ったっておもしろくもないもんばかりだ。
「もう適当に今回も撮っちまえばいいんじゃないか?」
1回でもありえないのに、10回も怪奇現象なんて起こるわけないだろ。ま、1回でも起こればそれについて10枚全部撮っちまえばいいんだろうけど。
「涼宮さんも本気で何か見つけてくるとは思っていないのでしょう」
至極爽やかに古泉がそう言う。そりゃそうと思いたい。本気で思っていたら筋金入りのアホだぜ。
だがハルヒは、こういうことに限り筋金入りのアホだと俺は確信している。だから本気で思っていてもおかしくない。
4人でずらずらと歩きながら、ハルヒが好みそうな場所を探す。つってもそんなのあるわけないから、本気じゃなくてそれらしく見える場所だ。ほら、天井のシミが人間に見えるとか、そういうレベルの。それだけでもあいつの好奇心を幾許かは満たしてくれるだろうし、こちらとしてもそれはありがたいことだ。
しかしこんな人数で歩きながら、きょろきょろしながら写真に収めていくってのはどうなんだ?
「あまり深く考えなくても良いのではないでしょうか」
何も考えていないような笑顔で古泉が、これまた何も考えていないようなことを言う。特別見知った顔なわけではないが、登校時に見かけたことがある程度の奴とは何人かすれ違っている。つまりそれなりにうちの学校の生徒がこの辺りを拠点として遊びに行っているわけだ。うちの学校で既に名を知らぬものは居ないハルヒの、その部下っつーかしもべという位置づけに決定されつつある俺たちが、さらに街中を集団でおもしろくもないところを写真に収めまくっているなんてことを見たら、とうとう気が狂ったかとか思われること間違いなしだろ。これ以上、周りからの目を冷ややかにしたくはないぜ、俺は。
「そこまで奇行ではないですし、おそらく皆さん僕らにそれほど興味が無いと思いますよ。注意して僕たちを見る人が居れば、それなりに僕たちに興味がある人物でしょう」
「そんな人間が居るなんて考えたくもねえな。そんなやつはおそらくハルヒと同等の変人なんだろうし――」
言い切る前に突然袖を引かれる。見るとすまなさそうに朝比奈さんが俺の袖を掴んでいた。
「どうしました?」
「ええっと……その……」
ひたすら言葉を濁す朝比奈さん。何故だか頬を少し赤らめているようにも見える。非常に可愛い、のだが何を伝えたいのかはさっぱり分からない。
10秒ほどに渡る逡巡の後、朝比奈さんは意を決して口を開いた。
「どこか大きなお店入りませんか?」
「大きなお店ですか? どんな?」
「なんでもいいの」
なんでもと言われても。訳が分からない。それに大きい店と言われても。
「スーパーマーケットでもいいですか?」
「うん、大丈夫」
躊躇いなく頷いた朝比奈さん。じゃあ適当に入りましょう。
「ありがとう」
それに丁度小腹もすいてきている。軽く何か食うってのも手かな。