今日も今日とて律儀に部活に精を出す俺は、SON組本拠地の扉を開ける。しかし、そこには誰も居なかった。なんだ、今日は誰も居ないのか。よし、帰るか。
 いや、しかし鍵が開いているということは誰か居る筈だな。鍵を持っているのはハルヒか長門であるし、どっちかが先に来てはいるのだろう。
 じゃあどちらがあけたのか、なんてことはどうでもいいか。どちらだろうと、そのうち帰って来るさ。
 にしてもそれまで暇だな。何かするといっても一人でできるようなことは限られている。未だに現役バリバリのレトロなテレビゲームが2台。これでもやるか。
 そう思って立ち上がったとき、明日和訳が当てられるということを思い出した。そうだよな、時間は有意義に使わなきゃいけないよな。
 鞄から英語の教科書とノートを取り出し、自分が当てられるであろう部分の和訳を始める。
「It is the dog that stole the valuable ring.」
 このリングってのはたぶん指輪のことだろうな。えーと、valuableってなんだ?辞書、辞書っと。
 ふむ、高価な、大切な、か。で、stoleは…stealの過去形で盗む、ね。
 しかし、このIt isはなんだろうか。まあいいか、これは大切な指輪を盗んだ犬です、とでも訳しておこう。大きく外れはしないだろうし、次、次。
「Please catch the dog!」
 これは分かるぞ。あの犬を捕まえて、だな。
 しかし、これは随分と骨が折れる。全部やろうとすると膨大な時間がかかるな。
 そういや谷口が「インターネット上で英語翻訳をする方法があるんだぜ。いつも俺はそれ使ってるが、便利だ」とか言ってたな。探せば見つかるだろうか。
 自分用のパソコンを立ち上げる。このパソコンにもネット回線がしっかり与えられ、いつでもネットサーフィンができる。まあこれも、あのハルヒがパソコンをコンピ研との戦いで景品としてもらったとき、賭けていたパソコンは盗品だが、LANなどネットワーク配線も全部命令してやらせていたからである。コンピ研も大変だ。同情はするが、金はやらん。
 検索画面で「英語 翻訳」と打ち込みエンターキーを押す。検索された中から、まあ一番上のところでいいな。
 何々、左側の四角に翻訳したい言葉を入れ、右側に翻訳結果が現れるという寸法か。分かりやすくて結構。とりあえず、さっき自力で和訳した文を入れてみる。
 まずは、「It is the dog that stole my valuable ring.」から。結果は「それは高価な指輪を盗んだ犬です」と。
 まあ、大体合ってるな。次、「Please catch the dog!」はどうだ。結果は「犬を捕らえてください!」か、こいつもほとんど合ってるな。この調子でどんどん行くか。
 英語を打ち込むのがまた大変だが、訳す手間がない分、結構早く訳し終わった。確かにこれは便利だ。世の中進歩したもんだよ。さて、訳も終わったことだし、誰か来るまで遊んでるかな。
 と、その直後、がらがらと教室の扉が開き、長門有希が登場。ああ、長門か。
「涼宮ハルヒから伝言。今日はもう帰りなさい、と」
 ってことは開けたのはハルヒか。まあ、別にだからどうした、ってわけじゃないんだが。
「で、どういうことだ?いつも強制連行の超顧問様は何してるんだ?」
「今日は涼宮ハルヒが諸般の事情により、帰宅すると言っていた」
 諸般の事情ね、あいつの事情と言われてもいまいちピンと来ないが、まあいいか。和訳も終わったしな。
「和訳?」
「ああ、明日の英語の予習をしていたところだ」
「見せて」
 先ほど翻訳ページで翻訳したものをそのまま見せる。長門はそれを読むと、数ミリだけ眉を動かした。
「これは翻訳が間違っている。このIt isから始まる構文は強調構文。だから、Itは訳さない。「私の大切な指輪を盗んだのはその犬です」が正しい」
 そうなのか?
「有機生命体の「英語」の授業でそう言っていた」
 すまん、すっぱりと海馬から忘却の彼方だ。
「それにこの「I will find it soon.」は、この前に探偵が「犯人の目星が付いている」と言っているから、「すぐに見つけるつもりである」ではなく、「すぐに見つけるでしょう」という方が正しい」
 …全然駄目だな。
「駄目」
 うーむ、この翻訳ページは駄目か。
「どれ?」
 ここのページだ。
「……このページは朝倉涼子の知り合いの有機生命体が使っていて、まともな翻訳ができていないと言っていた」
 道理で谷口の和訳がおかしいことが多いと思ったぜ。
「それに、これではテストのときに対応できない。自分で勉強すべき」
 ああ、そうだな。長門、ちょっと手伝ってくれるか?
「分かった」
 結局下校時刻まで長門に教わりながら英語の勉強をしていた。うむ、やはり手抜きはいかんな。これでテストもばっちりだ。