もう2月にも入っているのに相変わらずの寒さで、このままずっと冬なんじゃないかと錯覚するくらいであるのだが、何にしても寝たら目が醒めるもので、ああもうすぐ学校の時間だよなとか布団のぬくもりの中で考えて、外の寒さを考えると正直起き上がりたくないなとか思ってしまうものだ。このままもう一度惰眠をむさぼりたいところだが、さすがにそろそろ起きださないとまずい時間である。
 しかし、なんだろうな。やけにさっきから居心地の悪さを感じている。
 もぞもぞと布団から、生まれたての子犬のように身を縮めながら這い出て、カーテンを開けると眩しい日の光。うむ、いい朝だ。
 …やはり何かが変だ。何がどのように変なのかはさっぱり説明できないわけだが、本能が「おい、おかしいぜ」と先ほどから警告全開中である。
 階下に降りて、さて朝飯だと思っていたその時、丁度目の前を妹が通りかかる。
「よう、おはよう」
 ――何も言わずに通り過ぎた。ん、寝ぼけているのか?いつもなら「あ、キョン君おはよー!」と、「おたくのお子さんの挨拶は元気でいいわね」なんて近所でも評判な挨拶を返してくるはずなんだがな。まあ
 いい、そういうときもたまにはあるだろう。いつもいつもハイテンションじゃ疲れるもんな。あのハルヒだって静かなときがあるんだ、たまにはそういう日があってもいいだろう。
 そうか、なんかおかしいと思ったら、いつもは朝にあの元気の塊があの手この手で俺を叩き起こすはずだが、今日はそれがない。なんだかんだ言いながら、あれに慣れちまって、無くなると寂しいもんなんだな。
 食事を終えて、登校の準備。着替えて玄関の自転車を引っ張り出してくると、丁度玄関から妹が出てくる。行ってらっしゃい。
「うるさい、私は静かに学校行きたいの!」
 ………。
 恫喝し、去っていく我が妹。
 さすがにこれはおかしい。何が起こった。さっぱり訳が分からん。俺何かしたか?

 この変化はここだけに留まらなかった。
 登校途中に会った谷口が「俺は今日から真面目に授業を受けるぞ」とか言っていたのは、まあ何か悪いものでも食ったんだろうとしても、あの明朗快活に手足をつけて絵に描いたら、こうならざるを得なかったと言ってもいい担任岡部が、今日に限って「ああ…出席、取るか」と元気を全部どこかに置き忘れてきたようなテンションだったし、あのハルヒSOS団結成を思い立ったときに授業をしていた、あの気の弱そうな英語の女教師は「こら、そこ。寝てるんだったら家帰れ!」とか吠えてるいる。そう考えると、あの谷口にも何かあったのかもしれんな。
 それに、だ。あのハルヒ、俺が「よう」と話しかけると、あの朝比奈さんが初めてSOS団に連行されてきたときのような脅え方をして、俺の顔を見た後安堵した表情で「あ、ああ、キョン。おはよう」なんて返してきやがる。おかしい、おかしすぎる。前もこんなに大人しかったときがあるが、あのときのように機嫌が悪そうだった感じではなく、初めて男子と接した控えめな女子、といった感じだ。
 その上、授業が全て終わって放課後、「今日はちょっと調子悪いから帰るね。バイバイ」。あのハルヒが「バイバイ」なんて使うとは思いもしなかった。なんだ、この健気なハルヒは。見た目がいいせいで、こういう可憐なところを見せられると、なんだハルヒも意外といいじゃないか、なんて危険なことを考えてしまう。おかしい、これは絶対に何かあるぞ。

 SON組メンバーの出席率は、大体何かが起こったときには非常に良くなる。で、ハルヒを除く全員が集合している今日は、やはり何かあったと考えて間違いないだろうな。
「ええ、その通りです。大変な事態になりました」
 さすがに、今日は余裕の笑顔もない。かなりマジな顔をしている。
「地球全土で、人間の性格が変わってしまっています」
 ああ、そんなところだと思ったよ。しかし、大変な事態、というほどじゃないだろう。性格が入れ替わったりしてるだけだろ、大して気にすることじゃ、
「そうもいかない」
 俺の言葉を遮るように長門。なんでだ?
「よく考えてみてください。もし、日本の首相での性格が変わってしまったらどうなりますか?」
 さあな、変わっても俺たちにはあまり関係ない話だろう。唐突に、今日から消費税とかが引き上げるとか言われると辛そうだが。
「消費税で済めばいい方でしょう。命に関わる話になります。突然武装した自衛隊が隣国に攻めたらどうなりますか?」
 利益も何もないのに、そんなことするわけがなかろう。それに自衛隊は攻めるためではなく、守るためにあるはずだ。
「普通はそう考えます。しかし、その思い込みが怖いところなのですよ。これは理性にも直結している話なのです。この性格変化では、いつもならば利害関係を考えると「攻めない方がいいだろう」と言うような冷静沈着な人が、性格が変わった途端「正義は私にあるのだ」と大胆に、そして思いがけない行動に出たりするのです」
 確かに…それはまずいな。
「それがアメリカ大統領ならどうでしょう。アメリカは日本が所有していない核を所有していますね。性格が変わったとき、気の迷いで全土に向けて核ミサイルを打つボタンを押してしまえば…」
 地球全土が火の海、いやそれだけではすまないな、地球環境も何もかも変化して人間は住めなくなるかもしれん。
「大きさにも因るが、核爆発が起こると爆風被害以外に、爆破でできた雲が空を覆うことで”核の冬”というのが来る。太陽を雲が完全に覆い隠し、地球の温度が劇的に降下、毎日が真冬日になりうる。また、日光が届かなくなるため、木々は葉緑素による光合成ができなくなり、枯れ果てる。食物連鎖にも影響が起こることになる」
 つまり、人間が全員死ぬ可能性がある、ということか。
「人間だけではない。全ての生物が死に絶える」
「まあ、最悪の想定ではありますが、楽観視できないのは確かでしょう。私たちの機関の上部も大混乱中です。もちろん、その上部の人たちも性格が変わっていたりして、またおもしろかったりするのですが。あ、これは黙っておいてくださいね。とりあえず、このままだと涼宮さんが何かを起こす以前に、この地球の破滅が訪れる危険がある、ということだけは頭に入れておいてください」
 どうにかならんのか。
「僕に言われても分かりませんよ。全力は尽くすつもりですが、ね」
 全く、最近は本当に連続で起こりすぎだ。それも、これはハルヒによって起こされたものじゃないというし、この上でハルヒが何かやらかしたら、もうどうしようもないぜ。
「すぐに何か起こるとは思えませんが、警戒だけはしておいてください」
 ああ、分かったよ。しばらくはのんびりできなくなりそうだ。