「ハルヒ!」
「分かってるわよ!」
 買って早々、役立つときが来たボウガン。無駄遣いだと思っていたが、こんなところで役に立つとはな。武器防具をいろいろ諦めたかいがあったというもんだ。
 狙いを後頭部に定めてハルヒはトリガーを引いて矢を放つ。鈍い音と共に敵の後頭部に直撃。ナイス!
 と思ったのもつかの間、風が通っただけかのように全く顧みることもなく、長門の方へ1歩1歩近づく1つ目。
「なんでこっち向かないのよ!」
 慌てたハルヒは3本、4本とまるで髪の毛が生えたかのようにボウガンの矢を敵の頭に刺していくが、痛がる様子を全く見せない。あいつの頭はどうなってんだ。神経通ってないのか?
 計7本も矢を頭に撃ち込んだが、ここまで素人が上手く当てることができるのかと思うくらいにヤツの頭に見事全中したはずなのにこちらを気にする様子は全く無く、とうとう長門を鈍器のリーチに収めた。
「有希!」
「長門!」
「長門さん!」
 俺たち3人がハモるように声を上げた直後に、未だ名前の分からない1つ目が金属製の槌を振り上げ、高速で振り下ろした。あんなの直撃食らったらいくら長門でもただでは済まない。
 もうもうと立ち上がる白煙の中に敵の姿だけが見える。くそっ、長門!
「キョン、あそこ!」
 徐々に煙が消えていくと同時に見えてくる影。デカブツから1メートルほど離れた場所に長門が息も乱れぬ様子で立っていた。良かった、どうにかあれには当たらずに済んだか。あの長門だから大丈夫だとは思ったが、万が一ということもありうるし。
「とりあえずこっちに来い! そいつをここに閉じ込めちまえば……」
「無理」
 即答した。
「何でだ」
「この威力では、その扉は数秒と持たない。呼吸数、心拍数等からして現在この生命体は現在興奮状態。おそらく閉じ込めてもすぐに扉を破壊して出てくる。また、ここで倒さなければどこまでも追ってくる」
 さっきまでのゴタゴタでこいつを興奮させちまったってことか。それなら確かにこの場でどうにかするしかねえな。
 だが今のハルヒが撃ったボウガンは全く効果が無い。かといってリーチが短い武器では、あんなモノ振り回されている以上、迂闊に近づくこともできない。となったら……どうすればいい?
 そんな間にも、ヤツは長門に狙いを定めて近づいている。どこまで長門が回避したり、受け流したりできるかはわからないが、とにかくどうにかして倒すしか他に道はない。
 が、そうは言っても決定打を加えられる方法が見つからないといけない。良く考えろ。あの1つ目のヤツの弱点……1つ目?
「目だ! あいつの目を狙え!」
「何よそれ」
「おそらくだが、ヤツは目しか出てる部分が無いから、ダメージが入る場所は目か口くらいしか考え付かないだろ」
「もし違ったら?」
 もちろん俺もそれは考えた。だが今そんなことを言っている暇は皆無であるはずだ。
 そのときは朝比奈さんのプロテクション魔法を全員に掛けてもらって、どうにか振り切る。倒せないならそうでもするしかないだろうし。
「やってみるしかない」
「……分かった」
 杖を構えて長門は呟き、1つ目野郎と対峙した。相手が大きく槌を振り下ろす寸前に後方に飛んで空振りさせた直後、長門の周囲から風が巻き上がり、その竜巻は敵を巻き込んだ。そしてその風に煽られて行動不能になったところを、再び呟くように長門が魔法の呪文を唱えると、今度は長門の頭くらいの大きさの火球が急速に収束してから1つ目に接近、その目を焼いた。
 するとさっきまで冷静な様子で槌を振るっていたヤツが大振りに、さらに滅茶苦茶に武器を振り回し始めた。どうやらちゃんと効いているようだ。
 ……ってこのままじゃ長門が危ない!
「こっちに来い、長門! そのままそこに居たら巻き込まれるぞ!」
 遠目にも分かるように頷いて、黒いローブを纏った魔法使いは速やかに俺たちが居るところまで走ってきた。それにも気づかない様子で、1つ目モンスターは武器を振り回し続けて徐々にこちらに、偶然だろうが、近づいてくる。
 それを見たハルヒはタイミングを見計らって、目の中心にボウガンの矢を突き立ててやった。するとしばらくのた打ち回っていた1つ目は、やがてゆっくりとくずおれた。
 倒した、のか。
「やったじゃない、有希!」
 両手を掴んで上下にブンブンと振りまくるハルヒに、されるがままの長門。一応ヒントを言ったのは俺なんだがなあ。まあいいか。長門がどうにか無事で戻ってきたんだから。
「でもなんであたしたちは襲われたのかしらね」
 そりゃ、何か人間に恨みでもあったんじゃないか?
「それだけで襲ってくるかしら」
「分からんが、コボルドだって襲ってきたわけだし、そういうもんなんじゃないのか?」
「言われてみればそうかも。うん、まあそれなら仕方が無いわ」
 あれ、だがなんか忘れている気がするな。なんだろう。あのデカブツに襲われたときに何か……何か言われた気がする。さっきの熱戦で忘れちまったな。
「とりあえずこれからどうする?」
「残りの部屋をしらみつぶしに探しましょ。そうするしかないわ」
「そうですね……」
 入り口を調べてみてもまだ開かないようだし、当に退路は断たれているからな。