「もうちょっと時間稼ぎできるかなー、とか思ってたんだけど、なかなかやるねっ」
「手出しはさせない」
「これはどういうことなんですか、鶴屋さん」
いつもの笑顔で笑いかける鶴屋さん。
「見ての通りさ。キョン君は今まで気づかなかったみたいだね。だからここまでできたんだけどさっ」
と、いうことは…、
「そ。今回の世界中で起こった変な事件、あれは全部あたしのせいさっ」
あのハルヒの自己紹介のときと同様、このセリフはあまりに衝撃的だ。
「そして、今までの異常もね」
朝倉が言うと、「あっはっは、ばれてたんだね」と鶴屋さんは笑顔で返す。
確かに、長門は全部犯人が同じだと言っていた。そうか、全部…。
「データ取りのラストのつもりだったんだけどね、ちょーっと間違って、起こす相手を間違っちゃったのさ」
データ取り?何のデータだろうか。
「鶴屋さん、あなたは何者なんですか」
聞いておかねばなるまい、これは。
「うーん…、なんて言うんだろうね。キョン君たちとは全然違うところからやってきたのさ」
「有機生命体の言語で言うなら、異世界人」
ハルヒの好きなキャラクター、そのラストの異星人は鶴屋さんだったのか。
気の早いエイプリルフールが、とびきりの冗談を持ってきた、そう思いたい。しかし、今までの状況や今の状況を総括して出される結論は、長門達が提示した結論と大して変わらない。
確かに何かが起こるとき、鶴屋さんは俺たちと一緒には居なかった。音が聞こえなくなったときだけSON組に来てはいたが、それ以外は常にどこかへ行っていて、姿を見たことはない。そして今現在、俺たちがどうがんばっても超えられない謎の壁の向こうに、鶴屋さんが居る。
つまり、鶴屋さんが犯人だったという答えは覆りそうにない。
だが、相変わらずの笑顔を振りまく鶴屋さんは、いつも通りの行動が読めないハルヒ並のテンションで、「実は嘘なんだっぴょーん」とか言われても、やっぱりそうですよね、と信じてしまいそうなのは確かで、そうなることを心から望んではいるが、その希望はどうやら不運にも叶える神様とやらは居ない様子だ。
ハルヒの傍に来たということは、あなたもハルヒ絡みなんですか。
「ま、そういうことだね!」
もうハルヒはいっそのことだな、檻にでも入れて、観察したい、調査したい人間で周りを囲っておけばいいと思う。動物の生態調査みたいなもんだ。そっちの方が効率的に情報を集められるだろうに。ほら、こんな閉鎖空間ができるなら、これであいつを囲ってやればいいじゃないか。
「ここにハルにゃん閉じ込めておくのは無理なんだよね。あたしたちの仕事も、基本的には長門っちたちと同じだから」
自律進化の可能性だとかなんとかのために、涼宮ハルヒを観察して、逐次情報を情報統合思念体とやらに報告する、ってやつですか。
「自律進化とか情報統合なんたらーっていうのとはちょっと違うけどね。あたしたちの場合は、ハルにゃんを監禁・拘束しない状態で、ハルにゃんの情報をお偉いさんのところに報告するのさ。細かいところは、まー秘密だけど」
こちらに向けていた視線を長門に移す。
「それと、長門っちについて調べるのも仕事の一つなのさっ」
長門を?なぜまた。
「無意思の有機物から生体を生成することは今まで成功例がないんだよ。でも、長門っちや朝倉っちはそうやって作られたらしい、っていうからね。あたしたちの世界の危機を打破するためにも、知っておきたいんだね」
危機?鶴屋さんの元の世界には何かあったのか。
「いいの?そんなこと言っちゃって」
「まあここまでばれてちゃしょうがないさ。逆に変に少しだけ隠すより、すっきりだよ」
「言語では説明できない。それに、あなたが期待しているようなものは生み出すことができない」
「大丈夫、ヒントだけでいいんだよね。そこからはまた考える。そこからはお偉いさんのお仕事だろうけど」
朝比奈さんの友達だと紹介されて、初めて出会ったはずです。
「そーそー。みくるは、ほら、だまされやすいからさ。SOS団の中では、一番近づきやすかったんだよねっ。あとは、みくるがハルにゃんに連れて行かれて、ハルにゃんと接触するのは時間の問題だったさ」
朝比奈さんを利用したってことですか。
「ま、そういうことになるね」
…朝比奈さんは、あなたのことを友達と思っていたはずです。
「お仕事だから仕方ないさ。まあ、あの子は君と同じで最後まで気づいてなかったみたいだけどさっ」
「それはない。朝比奈みくるも気づいていた」
長門が口を挟む。
「むむ?でも、みくるは何も言ってこなかったよ」
「朝比奈みくるは私に相談してきた」
あの長門を怖がっていた朝比奈さんが長門に相談したというのは、父親が何年も使って大事にしていた万年筆を壊したことを告白する子供と同じくらい勇気が必要だったんじゃないだろうか。
「そっか、みくるがね。鈍そうに見えて、意外に鋭いんだね。ま、あたしには関係ないさ。とりあえず、しばらくそこに居てもらうね」
走り去っていく鶴屋さん。なんてこった、あの鶴屋さんが犯人だったなんて。
いや、これで終わりじゃない。まだ何も解決していないんだ、これからまだ何かが起こると見て間違いないだろう。
それを知らずにそのときが来るのを待つしかないのか、くそっ!