行っちゃったよ。どうするんだ、この状況。
「早くしないとあの人、何をしでかすか分からないわよ」
確かに、今の状態は非常に危険だ。鶴屋さんが敵である以上は、いやこの表現が合っているか分からないが、これから何をするか分からない。
だが、この閉鎖空間から抜け出す術はあるのか?ハルヒの閉鎖空間の場合は、”神人”とかいうこんにゃくおばけを倒したら勝手に崩壊するみたいな話をしていたが、ここにはそんなものは居ないぜ。
「どこかに閉鎖空間の核があるはず。それを破壊すればいい」
核?
「閉鎖空間の発生源のことよ。何かの形でカムフラージュされてて、それを壊すとこの閉鎖空間が解けるわ」
「一つ聞こう。なんでそんなことが分かるんだ」
こんな閉鎖空間は初めてとか言っていただろう。実は知ってたとか、そういうオチなんじゃないだろうな。
「情報に関わる技術は私たちの方が上。解析結果でそこまでは分かった」
「そういうこと」
どうやら長門をコンピ研に入れたのはある意味間違いだったかもしれん。この二人の前では、コンピュータのファイアウォールだとかセキュリティなんてものは、プレゼントの包み紙以上に薄っぺらなんじゃないかね。
そういや、コンピ研部長がなにやら秘蔵のアイテムが消去されてた、とか言っていたのはもしかして長門の…。
ってそんなことを考えている暇はないんだった。核とかいうものを探すんだ。
「その何かって、分かりにくい形だったりするのか?」
「さあ、よく分からないわ」
じゃあ片っ端から全部壊していくしかないのか。
「それは危険。涼宮ハルヒの閉鎖空間と違うとはいえ、実世界の空間とほぼ同等であるため、あまり破壊活動が大きい場合は実世界にも影響が出ることが考えられる」
「ちょっと待て。それじゃ、どうしようもないじゃないか」
どれを壊せばいいか分からないが、片っ端から壊すのもアウト。既にお手上げだろう。…ん?長門、何してるんだ?突然椅子に座って、何やら呟き始めて。
「今長門さん、細かい解析してるみたいだから、私たちだけで探しましょう」
「解析?」
「そのカムフラージュの外見がどうなっているかを探してくれているの」
ああ、そういうことか。目を瞑って何か喋っている長門は結構不気味だが、こういうときは長門の能力が頼みの綱である、がんばってくれ。
とりあえず何であるかの前に、全て物を集めておくべきだろうな。花瓶、ポスター、黒板消しと、教室にある、ありとあらゆるものを机の上に並べていく。もちろん、机自体も核とやらの対象に入るかもしれないが。
「あまり大きくない」
「あまり大きくない?」
長門の呟きに思わず聞き返す。どうした、突然。
「多分、核になってるものの特徴を順番に言っているんじゃないかしら」
「そういうことか」
小さいもの…、いや小さいってどれくらいが小さいんだろうな。黒板消しは小さい方に入るのか?
「…の……」
あまり聞き取れなかった。何て言った?
「茶色のもの、だって。私が長門さんの言葉を聴いておくから、あなたは集めたものの中から選定していって」
「了解した」
長門の言葉を待ちながら、他に何か取り忘れたものがないか調べていく。このポスターの画鋲なんて小さいよな、こいつとか可能性ありそうだ。しかし、茶色ではないな、金色だ。いや、待てよ、この金色を茶色と見間違えた可能性もある。だったら、こいつも選択肢に入れていいよな。
「硬い」
「硬いものですって」
硬いとはどれくらいを硬いというんだろうか。チョークなんかも硬い部類に入れていいのかね?
「分からないけど、とりあえず分けておいて」
「ああ、了解した」
ガラクタの山から宝物を探す子供のように、長門が言って朝倉が伝えてくれる言葉に合うものを見繕っていく。しかし、
「彼女にとって大切であったもの」
そこまで言って長門は目を開ける。
「解析はこれ以上できない。これで終わり」
最後の情報はあまりに曖昧すぎる。ここにあるものは全部市販されているものばかりで、どれに思い入れがあるなどさっぱり分からん。もしこのチョークだとして、こんなチョークにどんなストーリーがあれば大切にするんだか。
机の上に残っているのはほとんどそんな感じで、特別印象に残りそうにない、どこの教室にもあるものばかりだけが残っている。これ以上絞り込めないなら、もうお手上げだな。
手近な椅子を引いて座る。どうするか…。
「諦めては駄目」
とは言うが、この状況で片っ端から壊すこともできず、ヒントも非常に曖昧。どうすることもできないぜ。
「どうにかできる」
「そうね、どうにかなるわよね」
…全く、情報統合思念体とやらはどこまでポジティブシンキングなんだろうね。この状況でなんとかなるとか、ハルヒ並に頭が春なのかもしれん。で、そんな周りに振り回されてる俺も俺で、やれやれ、分かったよ。
そう言って立ち上がろうとしたとき、机の中にまさしく茶色で硬い、大きくないかどうかは分からない、に当てはまるものを見つけた。机の中は盲点だった。いや、正直なところ探すのを疲れて諦めただけだったりもするがね。
明るい場所へ取り出してみると、それは写真立てであることが分かった。写っているのは鶴屋さんと朝比奈さん。
「これ……だろうな」
写真の中の二人は、宇宙人とか異世界人だとか、そんなものを知らないただの親友にしか見えない。少しだけ恥ずかしそうな笑顔の朝比奈さんと、鶴屋さん風に言えばめがっさ元気な笑顔を振りまく鶴屋さん。
「でも…これを壊すのはちょっと悪い気もするわね」
「まあこんなところの核になるくらいの、大切なものなんだろうからな」
でも、俺たちが元の世界へ戻るためにはこれを壊さなきゃいけない。
「大丈夫さ」
この写真立ては偽者だろうし。それに、あの二人ならこんなもの無くても十分仲のいい二人さ。
結局、物語の傍観者から主人公へ。全く、勝手なことしてくれる。
しかし、心のどこかではそうやって物語の主人公になれたことを喜んでいる俺が居る。小さい頃叶えられなかった、、ヒーローになるんだと。
長門から手渡されたハンマー、また情報生成で作ったんだろうか、を振りかざして”それ”めがけて振り下ろす。ガラスにひびが入る。直後、一瞬にして世界が暗転し、最近多いよな、意識を失った。