「おい、キョン起きろ」
もう少し寝かせてくれ。
「ってもう授業全部終わってるぞ」
なんだ…谷口か。起き上がると、うむ?なんで授業終了直後なんだ。
「なーに言ってやがる。さっき帰りのHR終わったところだろうが。ずーっと幸せそうな顔して寝てやがって」
また夢か。夢の中で夢が醒めて、それもまた夢だったと。ややこしいな。
「谷口、お前真面目に勉強する、ってのはもうやめたのか?」
「…自慢じゃないが、俺は真面目に勉強したことなんかないぞ」
ああ、本当に自慢じゃないな。ってことはやっぱりあれは夢だったのか。
ん?ハルヒはどうした。
「涼宮なら大分前に帰ったぞ。まあそんなことはどうでもいい。お前にお客さんだ」
客?誰だよ、俺に会いに来るやつなんて。
「長門実希とか言うやつだ」
実希が?なんでまた。
「知らん。というか俺はそれよりだな!」
ドン、と机を叩いて俺に異常接近する谷口。気持ち悪いから近づくな。
「あの長門有希に妹が居ることにも驚きだったが、それ以上にお前の知り合いだということの方が驚きだ。いつ知り合ったんだ」
「いつと言われてもだな。あのSOS団とかいう謎の集団をSON組に改名したときに、途中参入してきたというだけの話だ」
「また涼宮の一味なわけか。かーっ、もったいねぇよな、長門有希に負けず劣らず美人になる素質ありだしよ」
そうかい。じゃあお前も涼宮の一味に加わればいいんじゃないか?
「それだけは御免蒙るね。あの涼宮の一味に加わったら、俺の人生をどうやって棒に振るかという方法しか考え付かんよ」
まあ確かにそんな気もしたさ、最初は。
「最初は?じゃあ今はなんだかんだで楽しいのか」
「まあな」
「さては、誰か一人とデキたな?」
「残念ながら、と言うべきか違う。どうでもいいが、さっさと行ってやらないと向こうも待ってるんだろう」
まあ、待っている間も本を読んでいそうだがな、あいつなら。
「ああ、そうだな。さっさと行ってこい」
廊下に出ると、果たしてそこには壁に背を預けながら本を読んでいる眼鏡っ娘の姿が。
「来ましたか。女性を待たせるのはどうかと思いますが」
すまんな。アホの谷口の話に付き合っていたら遅れてしまってだな。
「なんだか、デートに遅れた彼氏の弁解みたいです」
お前はそんな状況に出くわしたことがないだろうという言葉が喉まで出かかったが、ここは我慢だ。
「とりあえず、文芸部室に」
「待て。何故文芸部室なんだ」
「来れば分かります」
すたすたと無言で先を歩く実希の横に並んで歩く。こりゃ逆らわないでついていったほうがよさそうだ。
しばらくして、文芸部とプレートのかかった部屋へやってくる。そういや最近こっちには久しく来てなかったし、懐かしいな。というほど時間は経っていないわけだが。扉の前には長門と朝倉。ああ、お前も来てたのか。
「あなたたちを待っていた」
「同じクラスで、帰りのホームルームも同じタイミングで終わるのになんでこんなに遅いのかしら」
すまんな。アホの谷口以下略だったわけだ。
「それ、なんかデートに遅れた彼氏の弁解みたいね」
長門もこくりと首肯。このインターフェース集団には男の言い訳=彼氏の遅刻理由という方程式でも頭にインプットされているのだろうか。
「とりあえず部屋に早く入らないのか?」
一瞬長門が停止し、何事もなかったように扉を開ける。その先には古泉のハンサム面。朝比奈さんの天使のような笑顔とは違って、あまり良い気分ではないな。
「それはそれは。朝比奈みくるは欠席でして」
実希が部屋の中へ入るのについて入ろうとすると、またあの鶴屋さん閉鎖空間のように、変な感触の透明な壁に阻まれる。
…この様子はやっぱり夢オチ、で終わってはくれないみたいだな。
「はい、残念ながら」
ってことはやっぱり朝比奈さんが来てないのは、そういうことか。まあ、鶴屋さんが…だったわけだし。
にしても、残念だと言っておきながらあまり残念そうじゃないのは何故だろうかね。
「いえ、本来なら由々しき状況です。このままだと世界の崩壊も免れません。しかしその渦中、一番中心に立たされているあなたが、なんだか楽しそうに見えましてね」
そう見えるか。まあ、100%間違いとは言い切れないところはあるが。
笑顔を真剣な顔に変えて小泉。
「鶴屋さんの空間の崩壊と共に、あなた方が先ほど居た世界とこちらの世界を繋げてしまったようです」
またえらく難しい話になりそうな予感がしてきた。
「2空間がこの扉によって接合された」
2空間とは、鶴屋さんが作った空間と俺達が元々居たそっちの空間ってことか?
「その答えは少々正確ではありませんね。あなた方は鶴屋さんの閉鎖空間に居ましたね」
「ああ、居たな」
「そちらの空間は、鶴屋さん側の空間なのですよ」
閉鎖空間はもう崩壊したんじゃなかったのか?
「ええ、閉鎖空間は既に崩壊しています。しかし、その後に鶴屋さんの”もし性格変化が起こっていなければ”というifな世界が生成されてしまったのですよ」
「で、もしかしてその空間に俺たちは取り残されていると」
「ご名答」
当てても嬉しくない回答だ。それで、さっきみたいな謎の壁があるわけか。
いや、待てよ。実希が部屋へ入ってきたことには何も問題ないのか?
「実希さんがこちらに入ってこれるのは、有機生命体にも、正確には情報統合思念体と常にリンクした状態でないことからTFEIにも属さない、いわば中立的立場なためと思われます」
「つまり、この壁は有機生命体と私達有機インターフェースを弾くフィルターであるということ」
空気は通すが、塵は通さないみたいなものか。
「表現は悪いですが、その理解で構わないでしょう」
「そういうことなので、私が仲介役になりますからどうにかしちゃってください」
どうにかできたらもうしてるさ。
「多分、あの鶴屋さんという人を見つけて、変化を起こしている根源を問いただし、それを修正すればいいと思うんです」
簡単に言ってくれるぜ。言うは簡単だが、やるのは大変だぞ。
「大丈夫です。あなたたちなら」
親指を立てる。
そういや、これ、鶴屋さんが教えたとか言ってたよな。教えてもらったばかりのときには、なんだか新しい言葉を覚えたての子供みたいにやってたな。
やれやれ、まあやってみるか。
「そうね。ほら、私言ったじゃない。やらなくて後悔するよりも、やって後悔した方がいいって」
今回は同意しておくよ。鶴屋さんを探しに行こう。