翌日も行われたSON組内部対抗サッカー大会では、前日と同じチーム分けで開始された。そして最終スコアは1点低い2−0。若干の筋肉痛を引きずって走った割には良く奮闘したもんだと、自分でも思う。まあ、負けには変わりないんだが。
その後の罰ゲームと称しての校庭20周はさすがに酷と、ハルヒと俺を除く全員に反対されたため中止となった。た、助かった。さすがに前日とは違って万全な体制で臨んだとはいえ、2日続けて校庭マラソンをするのは厳しい。もちろん体育会系ならばそれくらい朝飯前なんだろうが、普段ゲーム部かコスプレ部となっているSON組でぬくぬくと言うほどではないが、それなりにのんびり生活している俺にとっては少なくとも厳しい内容だ。
「悔しいわね。なんで勝てないのかしら」
そりゃチームが悪すぎるとしか言いようが無い。いくらお前がキーパーで、神懸かったファインプレーの連続だろうと、何十回とやってくる朝倉と鶴屋さんのシュートを全て弾くあるいはキャッチすることができるとは到底思えない。この2人もそれなりに人外だからな。
せめて長門がそれなりにやる気を出してくれるとかじゃないと、まず不可能だと思う。かといって長門が本気を出せば間違いなく、普段は超能力者からただの男子高校生へランクダウンしているらしい古泉ではそのボールをいなせるとは思えないが。
「ま、でもいい運動にはなったわ。こんな時期に丸々グラウンドが使えるってのはラッキーだったわよ。なかなかこんなことできないし」
それは事実かもしれない。こんな溶鉱炉をひっくり返したみたいな暑さの中で、自分から外へ遊びに行こうなんてことはそうそう考えないしな。誰だってこういうときは家でクーラーの掛かった部屋の中、テレビでも見てのんびりするものだろ?
だとは言ってもあれはやりすぎだな。熱中症になりかけたぞ。
定位置に戻ったハルヒはコンピ研から貰ったゲームをやりつつ、長門とバグ潰しに熱中していた。俺はというと、これまた暇だから鶴屋さんとオセロ中である。
「いやー、キョン君強いね!」
「そんなことありませんよ」
鶴屋さんとの対戦結果は3戦3勝中。古泉にちょっと毛が生えたくらいの上手さだな。俺が強いというより鶴屋さんがあまり強くないというほうが正しい気がする。
その他はというと、実希と朝倉は日の当たらないところで昼寝中、古泉が珍しく読書中だった。こいつに言わせれば、「それなりに読書家なんですよ」だそうだ。今日以外でお前が本を読んでるのは見たこと無いけどな。
ゲームに興じていたハルヒもサッカーで蓄積した疲れが出てきたか、大あくびをしてから畳の上に寝転がった。
「たまにはここで昼寝もいいわね。せっかく寝られる場所もあるんだし」
大の字になったまま目を瞑るとすぐに規則正しい呼吸を始めた。寝るの早いな。
「あたしもそろそろ昼寝しよっかな!」
5戦したところで鶴屋さんも離脱。横になってすぐに寝息を立ててしまった。残っているのは俺と長門くらいのもんだ。さて、どうしたものか。
長門と話をする、といっても話題が無いんだよな。本も前に長門から借りた後は特に読んでないし。
となると俺も昼寝か。それはそれでいいかもしれない。たまにはこんなところで昼寝ってのも悪くないよな。
そういえば、実希も朝倉も昼寝しているが、長門は相変わらず寝るという概念はないんだろうか。情報統合思念体としてはどうやら睡眠というものを覚え始めたようだけども。
「睡眠は必要が無い。でも実希から得た情報から睡眠という概念は理解している。でもまだ実践したことはない」
「ならお前も昼寝してみたらどうだ?」
この状況なら誰にも邪魔されることなく読書することもできるだろう。だが、なんとなくだが、長門が昼寝しているのをみてみたいという気になった。何故かは分からないが、きっと好奇心だろう。
真摯な瞳が俺を捉えること数秒。
「分かった。やってみる」
空いている場所で横になって、目を瞑った長門。が、すぐに目を開ける。
「あなたもここに」
ぽんぽんと畳の空いているところを示す。あ、ああ、そうだな。
俺も昼寝するつもりだったとはいえ、長門の目の前、それも向かい合わせというのはなかなか勇気が要る。背中合わせならまだいいんだが、空いている場所からしてそこくらいしか取れそうに無い。ハルヒのやつが大の字で場所取り過ぎなんだ。
靴を脱いで向かいで俺が横になったのを確認すると長門はまた目を瞑った。こいつももう寝るつもりのようだ。もう俺も気にせずに寝よう。
目を瞑ると、思った以上の疲労感でぐらりと意識が遠のく。さすがに2日連続で走りづめだとそりゃ疲れもするさ。昨日も良く眠れたしな。
こりゃ長門のことも気にせずに眠れそうだ。
「何してるのよ!」
耳元にそんな大声が聞こえて飛び上がった。な、何だ何だ?
眠い目を擦りながら声の主を探すと、白い目で俺を睨みつけるハルヒだった。ああ、そうか、そうだよな。寝ている人間にこんなことするやつはこいつだけだ。
それで、何の用だ。
「何の用、じゃないわよ。あんた、誰の手握ってるのよ」
「手を握って?」
自分の手を見てみると、なるほど、こいつが怒鳴るのも分かる。向かいでまだ目を瞑ったままの長門の両手を握っていた。
って何を冷静に言ってるんだ。
慌てて両手を離すが時既に遅し。ハルヒだけではなく、他の5人も既に目が覚めてそれぞれ微妙な表情でこちらを見ているのが針の筵に立たされたようで痛い。
「寝てるからって有希に何しようとしてたのよ」
「全くの誤解だ。手を握ってたのも今気づいた」
「本当に? 怪しいわね」
そんな中、むっくりと身を起こした長門。
「有希、あんたキョンに妙なことされてない? って寝てたから覚えてないか」
「されてない」
「え?」
起き上がって正座した長門が言うには、どうやら寝付けなくて寝られなかったそうだ。だから妙なことはされていないと。
「でも、だったら手を振り払えば良かったじゃない」
「寝ているのを起こすのは良くない」
「そりゃそうかもしれないけど」
「知らない相手ではない。だから構わない」
「有希がいいならいいけど」
ギロリと俺を睨んでハルヒは人差し指を突きつけて俺に忠告した。
「今回は有希が良いって言ったからいいけど、他の人にやったら承知しないから」
「分かってる」
こりゃここでの昼寝はまずそうだ。寝ぼけて朝比奈さんの手を握っていたりしたら、ハルヒに殺されかねない。いや、親友だっていうから鶴屋さんからもか。
とりあえず庇ってくれた長門には礼を言っておかねばなるまい。
「ありがとな、長門」
「構わない」
そう言った長門は二宮金次郎の銅像よろしく、姿勢を固定して読書を開始したのだった。