まずは何処を探すか。と、言っても俺が分かりそうなところといえば、文化祭のときの劇的素敵メイド服で出迎えてもらったあの教室くらいしかさっぱり思いつかないんだがな。
 授業は既に終わっていて、帰宅する生徒でごった返す玄関から少し離れての会話である。
「分かれて探した方がいい」
 確かにそっちの方が効率がいいだろう。人海戦術はこういうときに便利だ。で、誰がどこを探すんだ?
「私は教室、朝倉涼子は職員室や特別教室、あなたは校庭」
 校庭か。
 って校庭とはあまりに広すぎやしないか?
「そうは言っても、校庭も人は必要でしょう。それにグランドは遮蔽物がない分、木陰とか、体育倉庫とか探す部分は限られてるわ」
 そう言われてみれば、校庭に鶴屋さんがなにやらやっていたら、ハルヒがやったというどでかい古代文字だか古代絵だかみたいに傍目から見てすぐに視認できるようなものであれば、何らかの騒ぎにはなっているだろう。もしそんな騒ぎなら、俺が見つけなくてもすぐに朝倉が教師から聞きだすことが出来るだろう。
「これを」
 俺は長門から赤・青・緑のランプ、そして灰色のボタンが付いている小型の機械を手渡された。なんだこれは。交通整理でもやってこいというのだろうか。いや待て、赤・黄色・青なら信号機だろうが、この色の並び方はそれとは非なるもの、さっぱり意味がわからん。
「ボタンを押して」
 ぽちっとな、と自分で効果音をつけたくなるところだがそこはあえて省略し、小型機械の唯一のボタンを押す。すると、ビービーと小さな音と共に、バイブレーションを開始する。うおっと、思わず落としそうになったぜ。押したらどうなるとか先に言ってくれ。
 よく見ると、一番端の緑色のランプが点滅をしている。
「赤は私、青は朝倉涼子、緑はあなた。何かを発見したらそのボタンを押して、各自知らせる。マイクが内蔵されているため、ボタンを押しっぱなしにすると全員に連絡ができる。何かあったときはまず連絡」
 アラーム付き小型トランシーバーってことか、という俺の問いに一度だけ首を縦に揺らし、教室に足を向ける長門。俺も行くか、気は乗らないがね。
 生徒の流れと同じ方向に足を向け、俺も靴を履き替えて玄関を出る。ただのif世界であるお陰か、ちゃんと俺の靴もここにあるとは用意がいい。
 外は相変わらず冬らしい寒さで、せっかくなら過ごしやすい気候にしてくれても良かったんじゃないかと、今から探さねばならない人に恨み言の一つも言ってみたくなるもんだが、当の本人はどこかへ姿をくらましているんだし、そういうことは見つけてから言うことにする。ま、別にもっと言うことがあるわけだから、実際に言うことになるかは分からんがね。
 本来なら、あんなところに閉じ込められて、何しやがる!とか思うべきなのかもしれないが、そういう負の感情は正直あまり生まれてこなかった。何故かと問われれば、納得できる答えを返せるかは自信がないが、少なくともあの人は悪い人には見えない、というところだろうか。
 校庭の端で、かくれんぼの鬼が隠れた人を探すがごとく、植木を掻き分けたりして鶴屋さんを探すわけだが、よく考えると既に帰宅している可能性もあるんじゃないかと一瞬よぎる。としたらこれは徒労でしかないじゃないか。
 ポケットに入れてある高性能トランシーバーを取り出してから、さすがにそれはないなと思い直してポケットに戻す。鶴屋さんだって今の状況がいいとは思っていないはずだし、元に戻す方法が分かっているならその方法を試そうとするだろう。だったら暢気に帰るようなことはしないだろう。
 …はて。しかしだね、その方法を試す場所が学校とは限らないだろう。家にあるとかありうるしな。
 小さいブザー音と共に緑色のランプが光る。で、そのまま喋ればいいんだよな。
「見つかった?」
「いや、まだ見つかってはいないが、まず鶴屋さんがもう別の場所に行ってしまって、俺らではどうしようもない場所だったらどうするんだ?」
 さっきみたいに閉鎖空間の外側に居たりしてな。
「………」
 もしかして、
「確かに」
 図星?!
「そうね…、ここに居るとは限らないかも」
「しかし、この学校のどこかに彼女の反応が未だ残っている。今の状況を好転させるには、役者が足りない。彼女だけでは不可能」
 間違った意味の方での役不足か。じゃあ、ここにまだ残っているか、はたまた何らかの痕跡が見つかるとみていいわけか。
「そう。分かる範囲から調べていくしかない」
「分かったわ。とりあえず職員室の方で聞いてみた感じでは、授業の間はちゃんと居たって話よ」
 まあその教師の話がどこまで当てになるかは分からないわけだが。鶴屋さんによって作られた世界なら、鶴屋さんがいいように情報改ざんをしている可能性があるからな。それでもその言葉を信じるとすればまだこの辺りに居る可能性は高い。
 分かった。もうちょっと調べてみる。
 ボタンを話して会話終了。押しっぱなしは疲れるから、一度押したら次押すまでマイクが入りっぱなしとか、改良が欲しいものだな。
 鶴屋さん探しを再開して、体育館裏までやってくる。と、緑の髪が体育館へ入っていくのが見えた。鶴屋さん、見つけた!
 長門の「何かあったときはまず連絡」という言葉を忘れて鶴屋さんを追いかけて、土足のまま体育館の中へ。と、直後にバタンと扉の閉まる音。しまった!いや、ギャグじゃないぞ?
「ごめんね、キョン君」
 舞台上手側から、あの快活な笑いの上級生が登場。やはり鶴屋さんで間違いはなかったようだ。
 とりあえず、今更だがブザーを鳴らしておこう。マイク機能もついているだろうから、押しっぱなしにしておけば鶴屋さんとの会話も入るかもしれないし。
「それなら届かないよ。また空間分離しちゃったしね」
 片手になにやら機械を持ってそれを軽く上げる。なんだあれは。
 というか、気づいていたのか、この機械に。鶴屋さんは知らないはず、もしかしてどこかで見ていたのだろうか。
「前の教室と同じだよ。一定の人を通れないようにする壁で一部だけ空間を切り取って、ああいう状況を作り出すのさっ」
「何故こんなことをするんですか」
「言ったじゃないか、ハルにゃんと長門っちを監視するため、って」
 さすがにやりすぎですよ。
「…分かってるさ、そんなこと。でも、正直今の状況はこのままじゃ危ないからね、とりあえずキョン君たちを足止めして、何か方法を考えなきゃいけないわけさっ」
 鶴屋さんは少し寂しそうに笑って、すぐにいつもの笑顔で。
「こっちの世界では、誰も頼りに出来る人は居ないしねっ」
 努めて明るく、そう言った。
「朝比奈さんが居るじゃないですか」
「みくるはほら、あの子ドジじゃないかい。それに機密だし、人に教えていいことでもないのさ」
 まあ然もありなん、といったところではありますが。
「だからあたしは一人でどうにかする。キョン君たちは何もしないで待っててくれればいいさ。いつの間にか終わって、いつもの日常がやってくるからね!」
 そう言って、また舞台上手に駆け込む。ちょっと待ってください!
 土足であることも忘れて舞台上に飛び上が、鶴屋さんを追いかけて舞台袖に走りこむが残念ながら影も形もない。鶴屋さんだけはあの壁を越えられるわけか。通りで俺達だけ閉じ込められるわけだ。
 閉まった扉に手をかけるが、万力で固定されたようにさっぱり動かない。駄目だこりゃ。扉に背を預けて座り込む。