「朝倉か。どうしたんだ?」
「たまたま長門さんを見つけて来た、ってだけよ。それで長門さんにここで何してるのって聞いたら、あなたと一緒にウォータースライダー行ってきた聞いたから」
 話題の中心人物は長門の数歩後ろで何やら俺たちの会話とは別方向に熱心な視線を注いでいた。何を見ているんだろうな。
「凄い格好で投げ出されてたわね。何か考え事?」
「ああ、だが大したことじゃない」
 本当にどうでもいい内容だったしな。
「そういえば……涼宮さん、怒ってたわよ。1人で遊びに出かけたって」
「待て、それは語弊がある」
「もちろん私は聞いてるわ。でも彼女は、ね」
 そりゃそうだろう。人の話を聞かない選手権でもやったらぶっちぎりの1位を取ること間違いなしの女である。期待するだけ無駄だ。
「そういえば携帯電話のことも長門さんから聞いた?」
「ああ、教えてもらった。なあ、長門」
 相変わらずこちらに意識が向いていない長門に同意を求めると、やっとこ俺たちの方を向いて頷いた。あっちにはそんなに長門が興味を持つようなものがあるようだが、そりゃ一体なんだ? 古書市でもやってるのが見えたんだろうか。
 視線の先を辿ってみても、飲食店が2つほど並んであるくらい。ビブリオマニアが好きそうなものはさっぱり見当たらない。
 再び同じ方向へ視線を向けたとき、朝倉が何かに気づいて長門に笑いかけた。
「長門さん、かき氷食べたい?」
 肯定のサインを即座に示す長門。
 ……なるほど、確かに良く見るとかき氷ののぼりが風にはためいていた。良く気づいたな。
「そうかなと思っただけよ。お家でも良くアイスとかかき氷とか食べてるから」
 いつも一緒に居るから分かるって訳だな。
「それじゃあ食べに行きましょう。あなたも来るでしょ?」
 長門からこちらに顔を向けて、たおやかに首を傾げる。もちろん。
 ……っと、行くのはいいとして金をロッカーに置きっぱなしだった。一度ロッカーに戻って、取ってくる。
「あら、いいわよ。それくらい貸しても」
 あまり貸し借りはしたくないもんでな。特に金は。
「先に食っててくれていいぞ」
「どちらにしても食べ終わった後に待たなきゃいけないんだし、戻ってくるまで待ってるわ。ね、長門さん」
 頷く。それなら急いで取ってくる。少しだけ待っててくれ。
 更衣室まで一直線に向かって3度目のロッカー。今日ほど先を見通す力の無さを痛感した日はなかったね。最初にちゃんと全部持ってくるようにすべきだった。全く情けないことだ。
 肩がぶつかりそうになりながらプールサイドを早足で戻ると、さっきの場所に見当たらない。どこ行った?
「こっち」
 そろそろ慣れるべきなんだろうが、慣れないこの背後からの降って湧いた声。妙な声を上げなかっただけが幸いか。
 ショートカットの宇宙人の後ろをついていくと、パラソルの下で小さく手を振っている朝倉。ああ、席を確保してたのか。ありがたい。
 だがプール側から随分離れた場所に席を取ったものだな。せっかくだからプールに近いところで食べればいいと思うのだが。
「そうしたら涼宮さんに見つかるわよ。もしそうなったらゆっくり食べる時間も無いと思うけど」
 おっしゃる通り。こんなところでかき氷なんぞのんびりと食っている場面を見られたら、ゆっくり食べるどころか「没収!」とか言われるに違いない。あれだけ極端な性格していたら誰でも分かるといえば分かるのだが、こういうところまで気が回せるってのは素直に見習わないとな。
 手間取らせたから奢ろうかと言ったのだが、自分のは自分で払うと言って聞かず、結局個人で払うことに。ただしどうせ席を取っておかなきゃいけないからと、買いに行くのは俺が担当することになった。
 それぞれから500円受け取って、俺はブルーハワイ、レモン、イチゴの3種を購入し、席に戻る。長門にイチゴ、朝倉にレモン、自分でブルーハワイを置いて、スプーンを色の付いた氷の山に突き立て、頬張る。
「やっぱ夏はかき氷だよな」
「そうね」
 隣で長門も頷いている。
 こうしていると日本の夏をしみじみと感じるなあ。スイカとかがあった方がもっと夏っぽくなるだろうけど。実に良い。これで帰る前にハルヒの小言を聞かなければもっといいんだが、そりゃまあ無理だろうな。
「そういや、朝倉はどこかで泳いできたのか?」
「流水プールで少し。でもほとんど泳げなくて諦めたわ。有機生命体ってこんなに寄せ合って水に浸かるのが好きなの?」
「いんや。どちらかといえば去年の方がイメージとして正しい。今日はオープン初日だからこんなことになってるだけだな。ハルヒ自身もこんな日に来るんじゃなかったって言ってたし、俺もそう思う」
「そう。それならいいんだけど。てっきりこれくらい混雑してるのが普通かと思ったわ。ほら、食料品のバーゲン? だったかしら。ああいうときも結構混雑するし」
「あれもある意味これと同じようなもんだ。買い手がたくさんいるから混雑してるだけで、別にああやって混雑するのが好きって訳じゃない」
「分かった、覚えておくわ」