「ふー、ごちそうさま!おいしかったわ!」
お前は本当に遠慮というものを知らないのな。何度新川さんと森さんが机と厨房を往復したか分からんぞ。と、そういう俺も結構食ったが。本当にごちそうさまでした。
「ごちそうさまでした。ホント、おいしかったですねー」
「ごちそうさまさ!」
「ごちそうさま」
「ごちそうさま。おいしかったわ」
「ごちそうさまでした。新川さん、森さん手伝いますよ」
「いえいえ、構いません」
「二人で大丈夫でございます」
SON組メンバーそれぞれは食後のお茶を飲みながら談笑タイム。さてと、この後はどうするんだ?解散か?
「いえ、せっかくみんな集まったんだから、このままカラオケ行くわよ!」
「いいねー、カラオケ!みくる、ひっさしぶりにデュエットするさ!」
「うん、そうだね」
この近くにどこかカラオケ店あるのか?
「ここを出て、通りを真っ直ぐ行きますと、右手に見えて参ります。そちらが一番近いカラオケ店でしょう」
…そこも機関の関連だろうな。
「お察しの通り。さすがですね」
こっそりと耳打ちしてくる古泉。お前らの機関は、大手チェーン店と何が違うんだ。
「さあ、意外に表向きは皆さんが知ってるチェーン店なのかもしれませんよ?」
いつものようにくすくすと笑う。にしても俺達がよく知ってる大手チェーンが実は怪しげな超能力軍団の総本部、だとは考えたくない。
しかし、古泉の言葉は話半分に聞くとしてもだ、前の長門妹の未来人発見の件もあるし、意外に世界中いろんなところで実はそういうのがうようよしてるのかもしれないな。…意外に俺以外の人間は全員ハルヒが望んでいるような宇宙人、あるいはそれに準ずるような人間なのかもしれない。
そういえば、長門。今日は妹どうしたんだ?
「商店街で有機生命体観察」
…なんだかバードウォッチングみたいな言い方だな。
「ある意味でそれは正しい。有機生命体の生態調査をしている。涼宮ハルヒに連れてきていいと言われたが彼女が断った」
別にそんなに急ぐ必要ないんじゃなかったのか?それに、俺らと違ってあいつも高性能なんだろ?
「妹は特に有機生命体と似せて作ったため、情報貯蓄量が私たちの数億分の1」
す、数億?!
「正確には同期型TFEIは情報を相互に交換することができるため、情報の相互利用という意味で数億分の1」
いや、それにしたって…ほとんど変わらないだろう、見た目は。
「私たちと人間が一番違うのは、情報の再結合能力、正確には情報の再結合を使用するための申請能力がないこと。今回妹にもない」
新川さんと森さんに礼を言って、店を出てカラオケ店に向かう途中。朝比奈さんを捕まえたハルヒを先頭に、鶴屋さん、古泉、朝倉、そして俺と長門という順でぞろぞろと行進中だ。
「じゃあ、お前の妹分は人間と同じ作りなのか?」
「それはないわ」
朝倉が口を挟む。
「というか、それができたらこんなところに居ないわよ」
「どういうことだ?」
「長門さんから聞いてないの?私たちの存在理由」
ハルヒを観察するためだろう?
「…適当に聞き流してたのね。その答えじゃ及第点ももらえないわ」
ほっとけ。別にお前に及第点が貰いたくて話を聞いているわけじゃない。
「情報統合思念体が自律進化の可能性を探すため、3年前に起こった情報爆発の中心であった涼宮ハルヒの生態を中心に、有機生命体を調査するために私たちは生まれた」
なんかそう言われてみれば、そんなことを言っていたような気もする。あのときは電波話だと思ってほとんど聞き流していたが。
「自律進化、っていうのは情報的に飽和した状態からの脱却。そうね…有機生命体的な表現をすれば、成長、かな。あ、体の成長って話じゃないわよ。自分で何かを考えて行動するの、他の支配を受けずにね。そういう意味での成長のこと」
よく分からん。
「私たちは情報統合思念体の意思に基づいて行動している。端末のみの行動ではない」
なんとなく分かった気もする。だが、結局お前の妹とは何が違うんだ?
「スタンドアローン型、つまり非同期型で投入された妹は不必要な情報はほとんど持たず、代わりに学習機能を強化してある」
「そうそう。例えば、500個の文字を1秒で覚えたりね」
いわゆる、超人ってことだな。
「その理解で構わない。それともう一つ、連れてこなかった理由がある」
「なんだ、その理由って」
「さっき言った不必要な情報とカテゴライズされる中に娯楽に関するデータが含まれているため、動作が不安定になる可能性がある」
そうか。というか、ハルヒは最初から二次会をやる気満々だったわけか。
「そう。それに彼女自身、SON組員でもないのにお邪魔するのはためらわれる、と言っていた」
…なんていうかさ、普通の人間とさっぱり変わらない気がするんだが。娯楽に関するデータがない、とはいっても初めてカラオケ行ったばかりだと、どういう順番でやるとかその場その場で違うわけで要は慣れだと思うんだが。
「そう?」
無表情に俺を見上げる長門。
「まあ、そういうもんだと思う、って話だけだ。俺も遊ぶってことを真剣に考えたことはないからな、よく分からん」
「…そう」
と、カラオケと大きく表示された看板が見えてきた。そして店の前で大声で、
「みんな早く来なさい!今日はオールナイトで歌うわよ!」
とハルヒが叫ぶ。もう時間も遅いんだからやめてくれ。
カラオケルームに入った俺たちはハルヒに「自分の持ち歌を歌いなさい!」と命令され、順に自分の持ち歌を歌わされた。ハルヒの歌唱力はよく分かっていたからさほど驚きはしなかったが、意外に長門が上手かった。長門が選んだ曲は、神秘的な感じでなんとなくだが歌ってるときは少し楽しそうに見えた。俺の気のせいかもしれないが。
ちなみに俺が歌ったときには、ハルヒからのブーイングが絶えなかった。お前が歌えって言ったのにわがままな団長様だ。
しばらくすると「そういえば、次の文化祭で歌って踊る曲を考えたから付き合いなさい!」とコンピ研から賭けで手に入れたノートパソコンではないな、自前か?ノートパソコンを起動させ、音楽を何度も流しながら踊りの指導を始めた。残念ながら、この曲には元SOS団員用の振りつけしか考えていなかったらしく、鶴屋さんと朝倉は参加できなかったが二人とも随分楽しそうだった。やってるこっちはものすごく恥ずかしいぞ。
超顧問様がそれに飽きると「みくるちゃん、脱ぎながら歌いなさい!」などと暴走を始め、朝比奈さんがあたふたし、鶴屋さんが笑い、そんなに読むところはないだろうと思うのだが、長門は静かに歌本を読み、古泉は相変わらずのポーカーフェイス、というと無表情みたいだからポーカースマイル?で、朝倉は手拍子などで盛り上げる係り、結局ハルヒの暴走を止めるのは俺の役目になった。なんだ、いつもの構図か。
結局終わったのは次の日の午前5時。ふらふらの状態で家に帰り、朝帰りしたと親に怒鳴られた。残り少ない睡眠時間も説教に潰され、その日の授業はほぼ完全に寝て過ごすことと相成った。一度も当てられなかったのは運が良かったんだとしよう。