「そういえば、他の生徒はどうしたんだ?」
 さっきから気になっていたことを口にしてみる。
「他の人?」
 そう、他の生徒はどこに居るんだ?
「この学校の生徒は私だけですよ」
 衝撃の新事実。この学校は無駄に教室が多い割に、生徒が1人しかいない。
「って、んなわけないだろうが」
「いや、本当だぜ?」
 こっちの俺を見る限り、ギャグではなさそうだが……これはさすがに信じられない。
「じゃあ他の教室は何に使ってるんだ?」
「いえ、特に何も。昔は他の生徒が居たらしいんですが、今は居ません」
 つまり、生徒がほとんど居なくてそろそろ廃校にでもなるという状況なわけか。
「そういうことだな」
 こっちの世界の俺が頷く。もしかしてこの世界は、ちょっと前にあったあの幽霊騒ぎになった学校が廃校になったとかいう話が影響でもしたんだろうかね。
 と、俺にとっては本日4人目の教室訪問者が教室の扉を跨いだ。
「どうだい?勉強は……おや?君達は誰なんだい?」
「あ、校長」
「鶴屋さん?」
 校長と呼ばれた人は鶴屋そのままの人で、年齢的に明らかに俺が知ってる鶴屋さんでしかない。
「えーっと、なんであたしの名前を知ってるのかなっ?」
「なんでも他の世界から来たとか」
 こっちの世界の俺がそう説明すると、最初は目を丸くしていた鶴屋さんは次第に笑顔になり、大きな声で笑い始める。
「……あっはっは、おもしろいギャグだね!いい、君気に入ったよ!」
 他の世界から来た、っていうことを信じてもらえない辺りはまあ仕方がないな。こちらもまた何かで実感するまではな。
 とりあえず、鶴屋さんはこっちの世界でもテンションが高いらしい。鶴屋さんらしいからなんとなく安心だ。
「この学校には本当に生徒が彼女…長門有希さんしか居ないんですか?」
「ああ、そうだよっ。まあ、残念ながらそろそろここも廃校になるからね」
 少し寂しそうな鶴屋さん。ああ、こっちの世界の鶴屋さん。
 鶴屋さんにはこっちの世界にもう1人来ている訳じゃないから、この接頭語は必要ない気もするが、俺や長門につけているし、紛らわしくないようにつけておくとしよう。
「昔はね、どのクラスにも30人、40人生徒が居て、みんなで授業を受けてたらしいよ。でも、だんだん少子化の影響で生徒が減ってきちゃって、教師はキョン君、生徒は有希ちゃんしか居ないのさ。ああ、あとは保健の先生だねっ。あ、今日はお休みだけど」
 保健の先生?今度は誰だろうな。朝比奈さんなら似合いそうだ。ハルヒによってナース服のコスプレとかもさせられているし、そんな格好で出てきたらそれはまた期待感が増量されるってものだ。
 ってちょっと待て。保健の先生が休みじゃマズいと思うんだが。いざというときに保健の先生が居ないんじゃ、何のための先生なのか分かりゃしない。
 ……ああ、そうか。
「そう、人が少ないから保健の先生も1人なのさ。本当は彼女も他の学校に引き抜かれていくはずだったんだけど、生徒が1人でも残っているのに保健の先生が居ないなんて駄目だって、彼女の意思で残ってくれてるんだよ」
 大変なんだな、人が居ないって。
 保健の先生もそうだが、授業もだよな。本来なら高校にもなれば授業内容によって担当が違うものだが、こっちの俺1人で全てカバーするんだもんな。
「まあ教科書見ながら、その通りに教えていくだけなんだけどな。有希は飲み込みが早いからな、ほとんど俺なんか居ても居なくても関係ないくらいだ」
「そんなことないです。先生の教え方が上手なので、理解できるんですよ」
 こっちの世界の俺の言葉に、首と両手を左右に振りながら否定するこっちの世界の長門。と壁に掛かっている時計を見て長門が声を上げる。
「あ、もうこんな時間ですね」
「本当だ。そろそろ今日は終わりにするか」
「はい」
 教科書とノートを束ねてトントンと下の高さを合わせ、机の中に仕舞う。ん?終わりなら鞄に仕舞うんじゃないのか?
「いえ、大丈夫です。どうせまた明日すぐ使いますし」
 まあそりゃ休みじゃなければ明日も使うだろうけどな、さすがに横着というものじゃないか?よく居るけどな、机の中にいっぱい教科書を入れっぱなしにしてるやつとか。
「私はここに住んでいますから、持って帰る必要がないんです」
「……住んでいるって、まさかここで寝泊まりしてるのか?」
「はい。私以外に、キョン先生や校長先生もです」
 学校に寮がある、というところは聞いたことがある。しかし、学校自体に寝泊まりしてるという話は初めてだ。というか普通はありえない。 基本的に全ての教室が何らかに利用されているし、生活用品の持ち込みなんかは禁止されている。それに教師までが泊まり込みで生活する学校など聞いたことないだろ?少なくとも俺はない。そう考えるとやはりここは不思議な世界だと実感する。
「食事は家庭科室で作って、みんなで食べるんですよ」
「今日の当番はあたしだねっ」
 校長である、こっちの世界の鶴屋さんがそう言う。
「一緒に食べていくかい?君達が言ったことを鵜呑みにしたとすると、泊まるあてはないんだろう?」
 そういえば何も考えていなかった。長門もその言葉に頷く。
「部屋ならいくらでも空いてるから好きな教室を使ってくれていいよっ。布団も2枚くらいなら用意できるしねっ」
「助かります」
 休む場所を提供してくれて、食べるものも用意してくれる。渡る世間に鬼はないとは良く言ったものだ。お言葉に甘えるとしよう。
 俺と長門は、鶴屋さん率いるこちらの世界の住民が先導して案内してくれる家庭科室へと向かった。