もうキャンプ気分で宿泊を楽しんでいるハルヒと対照的に、無表情で顔に出ない2人を除いて他の部員はあまり表情が優れない。ある意味監禁に近いもんだから、そりゃこんなところで楽しそうにしている方がおかしい、はず。
はずなのだが、SOS団のときよりは確実に生活に適応した部屋の状況になっているとはいえ、
「んーっ、おいしいわね!」
調理班の女子2人手製の夕食でこんなに楽しそうにしているハルヒを見ていると、気を揉んでいる俺たちの方が間違っているんじゃないかとさえ思えてくる。
周りを見ても同様で、不安と羨望等々、様々な感覚を混ぜ合わせて白米をかきこむハルヒを見る他の部員たち。そんなことにも気づかないハルヒ。
なんだか本気で悩んでる方が馬鹿馬鹿しくなってきた。というかここまで何にも考えないで生活できるこいつに腹が立ってきた。俺も飯食って忘れよう。
ちなみになんでこんなに米があるかといえば、夏休み中にここで合宿もどきのことをしようと画策していたらしいが、あまり記憶は無いはずなのだが、長期間のゲーム世界から戻ってきた辺りを境にテンションが大幅に下がり、それから別にやることが多かったのと、そっちに頭を使っていたらすっかり忘れていたそうな。ま、そのおかげでこんなときに急に必要になっても、食べ物に不自由が無くて済んだわけだが。
さすがにおかずまではどうにもならず、仕方が無いから緊急用持ち出し袋からそれぞれ缶詰を取り出して食べた。今度忘れずに買いなおしておかないとな。
炊飯器は前からいろんなところで使ってたから問題ない。その前にこれをどこからもってきたのかは気になるんだがね。自分の家からハルヒが持ってきたわけが無いだろうが、学校内で使ってるところなんかあるか?
あ、料理部とか、そんな類のものがあったような気がする。そこから持ってきたんだろうか。持ち前の無駄に高い行動力で。
何にしても今更悩んだところで仕方が無い。有効活用させてもらうとしよう。
しかしのんびりしていたのもつかの間。食事が終わってからまた問題が。
「水が、もう少ししか無いんです」
「水?」
料理で水をかなり使ったようで、朝比奈さんが教えてくれた残りの水分といえば、湯冷ましになったものがやかんに5分の1くらい、お茶としてプラスチックの2リットル容器に半分くらい。確かに8人分にしては残り少ない。
「水道の使うわけにもいかないし……」
「そうだな」
いくらなんでも、トイレの水道から水ってのは勘弁してもらいたい。飲んだら死ぬというわけじゃないだろうが、気分的にやっぱよくない。
とはいえあの防火シャッターが開くのがいつになるのか分からないから、水道が使えないというのは結構厳しい。かといって長門たちが言うには、あれはそう簡単に開かないようになっているそうだ。ということはしばらくはここで足止めを食らうってことになるわけで。さっき電話で親にどうにか誤魔化しつつ泊まる許可を貰ったが、2日、3日となるとさすがに無理だろう。どうにかして出たいものだ。
「大丈夫」
それはハルヒと朝比奈さん、鶴屋さんが既に布団で就寝して、俺はなんだか寝付けずに防火シャッターの傍でぼんやりと考え事をしていたときだった。
「どうにかなりそうなのか?」
「まだそれは分からない」
「そうか」
大丈夫、ってのは俺を落ち着かせようとしてくれているんだろう。ありがとな。大丈夫だ、これくらいなら少し慣れてきたからな。
というかこれくらいで驚いていたらハルヒの傍には居られない。もっととてつもないことの方が多いんだから。
「気休めではない」
「……?」
じっと町明かりしかない窓の外を見つめて長門はほとんど温度の無い声で言う。
隣に並んで校舎の外を見る。すぐ傍に見えるのに出られない。こんなきついことは無いな。
「おそらく明日の朝には元通りになっている」
「なんでそう思う」
「人が来る」
「? 教師とかか?」
「そう」
それが理由になる意味が良く分からない。確かに休日でも教師は来てはいるだろうが、だからといってなあ。
「直接的な理由は不明。でも涼宮ハルヒが超常現象やそれに準ずる何かを恒常的なものと認識することはあちらにとっても不都合になるはず」
「……なるほど」
向こうがこの世界の人間ではなく、素性が全く掴めない状況であるとしても、何がしかのアクションをこちらに起こしてくるということは、俺たちに何か用があったりするんだろう。もしかするとそいつもハルヒの監視ではあるが、朝倉みたいに直接的な行動に出ているタイプなのかもな。
そう考えれば、ハルヒが奇妙な世界を許容することは、監視対象が居なくなる可能性を秘めている。それは良案とは思えない。だから明日になって教師が来れば問題は無い。
現に今まで起こったことも、ハルヒが目撃したところだけに絞ればなんとか常識で納得できる部分を多分に含んでいるし、そうじゃないところもマスコミ等が何も無かったように振舞っていることから、あいつ自身も「大したことじゃなかったんだ」と理解しているようだ。
「だから大丈夫」
いつものように、別段感情のこもった言葉ではないのだが、なんだか自分に言い聞かせているようにも思えた。