夕食が終わって、みんなで職員室に集合。ちなみに振舞われたのは鶴屋さん特製チャーハンで、なかなかの味だった。
こっちの世界の長門が淹れてくれたお茶を飲みながら、朝比奈さんくらい上手い淹れ方だな、職員室に唯一あるテレビを見る。こちらのテレビの放映内容は向こうの世界と大差はないが、向こうの世界では既に放映されたものばかりで、前言った俺達が出ているアニメも丁度放映中だった。
まったりとした中で、ニュースで出てきた人間に思わずお茶を吹きそうになった。
「総理、今年の予算案はどうですか?」
「このままではまた国債が増えてしまいます。消費税を他の先進国の水準まで上げ、公共事業の数を思い切って現在の9割まで減少させます」
ニュースキャスターに質問されて、そう答えたこの国の首相は紛れもなく、
「古泉が首相か…」
「知ってるのかい?」
ええまあ。俺達の世界だとキザな超能力少年ですがね。
…あれ、ちょっと前の首相って似た名前だったような。気のせいかね?
「消費税上がるんですか、困りますね…」
菓子をつまみながらこっちの世界の長門が言う。その隣で同じように元の世界の長門。クローンを作るとこんな感じなんだろうというイメージだが、性格が違うためそのギャップがおもしろい。
それにしても、鶴屋さんのチャーハンは結構量があって、俺は結構腹いっぱいになったんだが…。この二人はよくお菓子をこれだけ食べられるよな。俺も少し食べているがさすがにあまり食べる気にならない。対する二人は随分と手が伸びている。また、その二人をはさんで逆、俺と同様にあまり手が伸びないこっちの世界の俺は、
「本当だよ、有希もよく食べるな」
「甘いものは別腹なんですよ」
まあ医学的に証明されてるらしいが、それでもやっぱりよく入るなと思う。意外に俺より胃袋が大きいのかもしれん。
しばらくそうやってみんなでテレビを見ていたが、だんだんと夜も更けてきて、そこここで欠伸の連鎖が始まる。俺もその例に漏れない。
「さて、そろそろ寝ようかね」
鶴屋さんが立ち上がって伸びをしながらそう言うと、他の面々も立ち上がる。俺がテレビを消すと、「じゃあおやすみなさい」と一足早くこっちの世界の長門有希が職員室を出る。さて、俺達もそろそろ寝よう。
「えーっと、布団はこっちさ」
職員室の隅に重ねられていた2組の布団。助かります、鶴…じゃなかった校長。
「はっはっは、鶴屋でいいよ」
正直鶴屋さんという呼び方が一番慣れてるから、それでいいならぜひ。
「俺が片方持とう」
「ああ、ありがとう…ございます」
「ありがとう、でいい」
よく考えたら年上だから敬語をと思ったが、
「自分が自分に敬語使うのは変だろ?」
と理解はできるが、納得が少々困難な言葉でそう決まった。なかなかいいやつだ。
「どこに運べばいいんだ?泊まる教室は鶴屋さんが言ったように好きなようにしてくれていい。有希は鶴屋さんと校長室で寝ているし、俺はここで寝ている。まあ、あまり遠い教室だと不便だからこの近くの教室がいいとは思う」
確かに遠い教室だと、いざというときに問題が生じそうではある。とすると、長門は二人と同じで校長室、俺はこっちの世界の俺と一緒に職員室ってのが一番いいかもな。
「そうだな。校長室はまだ空きありましたっけ?」
「余裕っさー。あと5,6人は大丈夫だよ!」
それじゃあ、と布団を校長室に運ぶ。既にこっちの世界の長門はネコ柄のパジャマに着替えて布団の中でうとうとしてたらしく、俺達が入ってくると眠い目をこすりながらこちらを確認する。
「すまないな、起こしたか?」
「いえ、まだ完全に眠ってはいませんでしたから。長門さんも一緒にここで寝るんですね」
「そう。よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
誰も寝て居ない布団の隣、こっちの世界の長門の逆側に長門用の布団を設置。真ん中の布団は鶴屋さんの布団か。
「ご名答!双子の子供が出来た気分でちょっと嬉しいね」
心底嬉しそうに笑う鶴屋さん。その笑顔を見ると、なんだか元の世界の鶴屋さんの立場や苦しみを思い出して、少しだけ悲しくなった。ああそうだ、俺は早く世界を元に戻さなきゃいけないんだったという当初の目的を今更ながら思い出す。
だがもっと何かきっかけが見つからないとどうしようもないんだ。それまでもうちょっと待っててくれ。
「さあさ、着替えて寝るんだから、男子は外に出た出た!」
おっと、そうだった。それではおやすみなさい。
「おやすみ」
職員室に戻って、寝る場所を決めて箒ではき、軽く雑巾でその場所を拭いてから布団をひく。人がほとんど通らないとはいえ、さすがに汚れているだろうからな。
「そういや、そこら中にテスト用紙とかが置いてあるのはどういうことなんだ?」
服を着替えて、俺もこっちの俺に着替えの服を借りたが、布団の中に入ったこっちの俺に聞く。なんだか分かりづらくなって来た。何か分かりやすい、こっちと元の世界の区別が言葉でつけばいいんだけどな。
「こうしてると他にも人が居るみたいで、寂しくないだろうって鶴屋さんが」
人のことに気を使っている鶴屋さんらしい提案だな。
「ああ、本当にあの人には感謝して、」
そこで言葉を遮ったのは職員室の扉の開く音。開けた主、それは
「キョ、キョン君!」
布団に入ろうとした俺に抱き付いてきた朝比奈さん。俺に抱き付いてきたということは、こっちの世界の朝比奈さんじゃないらしい。こっちの世界なら、俺よりこっちの世界の俺に抱きつくはずだし。
…待て、あっちの朝比奈さんがなんでここに居るんだ?
夜はまだ始まったばかり、悩みもまだまだ始まったばかりと言ったところか。