鶴屋さんのアシストのお陰もあって、1日目は最後まで大きなアクシデントも無く過ぎた。良かった良かった、万々歳。
 と、これで翌日も済めば良かったんだけどな。世の中はそうそう上手くできていない。
 遠目に見えてもよく分かる、こちらを小ばかにした表情で、腕組みしながらじっとこちらを見つめる女が1人。なんと言うことはない。涼宮ハルヒである。昨日の予想と寸分たがわぬ状態だ。
 そこから遠巻きに何人か見知った顔が居る。もちろんSON組絡みの奴らだけどな。
 左後ろから、相変わらずの無表情を浮かべた姉妹が長門有希、実希の2人で、これまた同じく相変わらずの笑顔を浮かべた優男が古泉。突っ立った遠巻きにこちらを見ている姿は、傍目から見たら怪しい集団に見えなくも無い。
 でも他のメンバーが見えないな。朝比奈さんと朝倉か。調理班の2人ってことはお弁当でも作ってて遅れてるとか。無いわけではないよなあ。当日に「みくるちゃん、お弁当できてる?」とか言われて慌てて、とか。
「キョンくん、考え事もいいけど風船渡すの忘れないでね」
「あ、ああ、すみません」
 考え事をしていて思わず手が止まっていたのを鶴屋さんが優しい小声で諌める。危ない危ない。ぼーっとしていたな。ハルヒたちのことは忘れて、仕事に専念だ。
 なんて意気込みは良かったが、あれだけじろじろと見られていると完全に無視することもできず、そちらに意識を幾度と無く取られてはこまごまとしたミスを連発する。
 頭をぶつける。
 こける。
 風船を取り損ねる。
 欲しいと言われた色ではないのを渡そうとする。
「大丈夫さ。気を落とさないようにねっ」
 それでも鶴屋さんは笑顔で接してくれたお陰で、どうにかこうにか続けて終了を鶴屋さんに告げられたときには肉体的にも精神的にも疲弊しきっていた。
「お疲れ様さ」
「今日はすみませんでした」
「いやいや、大丈夫だよ」
 6時で切り上げということで、俺は更衣室に戻って着替えを済ませてから、控え室で鶴屋さんにアルバイト代を貰っていた。いつもお世話になっているからいいとは言ってみたんだが、
「ちゃんとお仕事したんだから受け取って良いんだよ。失敗なら気にしなくてもいいさ。臨時で、それも前々日に無理やりねじ込んじゃったこっちの方が悪いんだから。むしろ渡さなかったらこっちの方が気にしちゃうさ」
 なんて言葉を貰った。ありがたいことだ。謹んで受け取ろう。
「それに」と鶴屋さんは付け加える。
「ハルにゃんたちが来てから調子悪くなってたしね。やっぱ気になっちゃったからでしょ?」
「そう、ですね」
 こんなところを隠したところで、鶴屋さんなら簡単に見破るだろうし、濁すのはやめにした。
 実際に失敗したのは俺で、あいつらを言い訳に使うのは良くないと思うが、じっと見られているということが分かり始めてから目に見えて失敗が増えてるからな。失敗の一因になっていないことはない。
「とにかくお疲れさまさ」
「でも良かったんですか?」
「ん? 何がかな?」
「今日、昨日より2時間ほど早いんですが」
 昨日は8時過ぎまで手伝いがあったが、今日は6時。確かに疲れていたのはあるが、それで早めに切り上げてもらったということなら悪い気がする。
 俺の表情は分かりやすいのか、八重歯の似合う先輩は笑顔で手を振って「違う違う」と答えた。
「キョンくんの手際が悪かったとか、そういう意味で終わったんじゃないよ。後半は大分ハルにゃんたちにも慣れて上手くなってたから、あのままもう2時間やっててもきっと大丈夫だったと思うよ。でもこれからの時間は風船配りはしなくていいのさっ」
「何かあるんですか?」
「ライトアップが始まるとね、ナイトダンスが始まるんだよ」
「ナイトダンス?」
 聞いたことがないな。
「ここの名物、というか他にない特徴だね。毎週日曜日のこの時間になると、中央にある噴水から1番奥にある古いお城みたいな建物あるよね? あそこまでがライトアップされるのさ。そしてそのライトアップされている道ではうちの従業員がいろんな衣装を着て踊るんだよ」
「へえ」
「ま、それだけだったら別のとこでもでもあるけどね。実はナイトダンスっていうのは従業員だけじゃなくて、皆でそのダンスを覚えてもらって踊る時間にもなってるんだ。だから通りの近く全てがダンス会場になっちゃうんだよね。それでも結構人が集まるから少し離れたところで踊る人も居るみたいだけど」
 見通しの良い直線ではあるが、かなり距離があったと思う。それを丸々使ってあぶれる人間が居る、ってことはかなりの人が踊れるんだろうな。
「良かったらキョンくんたちも参加してみないかい?」
 とはいってもダンスなんてのは生まれてこの方さっぱりやった覚えがない。幼稚園や小学校くらいにやったお遊戯でそれらしいことは少しやったかもしれないが、似ても似つかないレベルだろう。
「大丈夫さ。よく来る人はダンスを覚えてるけど、来たばかりの人は全然覚えてないからね。ノリを楽しむ感じだよ。それで、もっと覚えたいと思ったらまた来てもらおうってわけ」
 リピーターを呼ぶ要因にもなっている、ってことか。
「いいんですか?」
「もちろんさ!」
 それなら拒否する理由もない。お言葉に甘えて参加させてもらおう。多分ハルヒたちも参加しているだろうし。