職員室に再集合した面々と、新たな参加者の朝比奈さん。石油ストーブのごうごうという音のみが響く職員室で、一番最初に口を開いたのは沈黙に耐えかねた俺だ。
「それで、ここにはどうやって…?」
朝比奈さんは何が起こったのやらさっぱりといった様子で、
「夜寝ていたら、いつのまにか教室に居たんです。椅子に座って居眠りしていたみたいな状態で」
俺がこの前の世界に来たときの状況がそれと一致する。
「脳波の3次元空間に対する無干渉型局所整合を観測」
だから、今辞書が手元にないから、そんな難しい単語を並べられても分からないと。分かりやすく訳すとどうなるんだ?
「異空間移動」
略せるなら最初からそうやって略してくれると助かる。
「善処する」
まあ、期待せずに待っておくさ。それで、朝比奈さんは寝てる間に空間移動をしたという理解でいいのか?
「そう」
「何故私がこっちに来たんでしょう…。帰り方も分からないんです」
そりゃそうだと思いますよ。突然飛ばされた先で帰る道が分かったら、それは超能力者になってしまいます。朝比奈さんは未来人なんですから、それ以上の能力は必要ありませんよ。
しかし、こっちに来た理由、なんとなく分からないでもない。朝比奈さんが寝てるときに鶴屋さんのことを考えてて、それが影響して…。
「やっぱり、そう思いますか?私もそんな気はするんです」
しまった、すみません。
「何故謝るんですか?」
「嫌なことを思い出させてしまったかなと」
「大丈夫ですよ」
優しい笑顔でそう答える、SON組唯一の良心と俺が思っている朝比奈さん。
「鶴屋さんはそんな人じゃありませんから。それに、私だって…」
朝比奈さんが未来人だってこと、鶴屋さんには知らせていない。そう考えれば、朝比奈さんだって心苦しかったに違いない。
「えーっと、いいかな?その鶴屋さんっていうのは、君達の世界の方の、かな?」
「ああ、すみません。そうです」
「分かったっさ!」
突然こんなところに来たことで気が動転していたせいか、気づいていなかったらしい。朝比奈さんが目を丸くして、
「向こうの鶴屋さんとそっくりです。長門さんも…。キョン君はちょっと成長した姿みたいですね」
こっちの長門はとりあえず会合に出席したはいいものの、寝るのを2度も妨げられたせいか、少々不機嫌そうな表情のまま船をこいでいる。机に頭をぶつけないか心配だ。
「とりあえず積もる話もあるだろうが、今日はもう時間が時間だ。話は明日にしよう」
こっちの世界の俺が言うことも尤もだ、と頷くこっちの鶴屋さん。確かに、こっちの長門の船のこぎ方もだんだん振幅を増している。このままだと机にお休みの挨拶をするのもそう時間はかかりそうにない。
「布団がもうないね」
「ああ、俺が布団を」
毛布一枚でもあれば寝れますし。
「そうすると君が寝るのに寒いだろうし、朝比奈さんだったっけ?あたしと一緒に寝るかい?」
「えーと……」
しばらく考え込んだ朝比奈さんだったが、俺に気を使ったのだろうか、
「鶴屋さん、一緒にお願いしますね」
「今日は訪問者が多くて嬉しいね!さあこっちだよ」
3人を連れて校長室へ入ろうとする鶴屋さんを「あ、ちょっと待ってください」と止めて集団から抜け、俺の傍まで来た朝比奈さんは小声で、
「私達…帰れますよね?」
「正直分かりません。でも長門も居るし、きっと大丈夫でしょう」
長門が出動する事態にはできるだけなって欲しくないというのはいつも願うことで、結局今回もその願いは聞き届けられそうにはない。一番頼りになるのが長門であるわけだし、仕方がない話ではある。
何にしても鶴屋さんが作った世界なら、きっと俺達を返してくれると思いますよ。
それより向こうの世界は相変わらずなんでしょう。
「ええ、私がこっちに来るまでは相変わらずでした。みんな…大丈夫かな」
「俺達は向こうに帰るだけではなく、向こうの世界を元に戻す必要もありますから、それが見つかるまでは帰るに帰れませんね」
「そう……ですよね。私達ががんばらないといけないですよね」
しばらく考え込んでいた朝比奈さんだったが、何かを決意した様子で、
「私もがんばります」
そうとだけ告げ、鶴屋さん達が待っている校長室へと足を向けた。できるだけ、朝比奈さんや長門に被害が及ばないようにしたいところだ、と意気込みは相変わらずで、結局何もできないのも相変わらずだろう。
こっちの俺が話かけてくる。
「まあ何があったのかは知らないが、とりあえず寝よう。今根詰めて考えてもどうしようもないぜ。果報は寝て待て、っつーしな」
残念ながらその果報とやらは手錠をかけられ、ロープでぐるぐる巻きにされていて、寝ても来そうにないんだがね。
明かりのスイッチの傍に立つ。
「じゃあ、電気消すぞ」
「ああ」
パチンという音と共に、部屋が漆黒に包まれる。手探りで布団に入ると、冷えた布団が体温でじんわりと温まってきて、いい具合に夢に手招きされる。今日は大分疲れていたらしい、すぐに招かれるがままに夢へ入り込んでいった。