これといった向こうに帰るための、向こうの状況を打破するための方法も思いつかず、のんびりとこの学校で過ごしていた。というか、こっちの生活に慣れ始め、まあ帰るのが少しくらい遅くてもいいんじゃないかなんて考え始め、ちょっと待て、向こうの世界が崩壊したら帰る世界が無くなる訳だし、そしたらこっちに永住しなきゃいけないだろうし、それはいろんな意味で問題だろうと今更ながら危機感を感じ始めてきたというのが模範解答である。
 食料品は随分と鶴屋さんが揃えていて、このままここに閉じ込められていても数週間は生き延びられるんじゃないかというくらいの常備があり、事実この学校を出ずに2週間が過ぎた。
 さすがに帰る方法と向こうの世界を元に戻す方法を考えねば。
「そうですね…」
 朝比奈さんが問題を解きながら言う。あっちでは授業が進んでいるわけで、その期間の学力を取り戻す必要があるだろうと、俺達もこっちの世界の俺や鶴屋さんに教えてもらいながら現況をしていた。
 二人の授業は分かりやすく、正直向こうの教師と交換してくれと言いたくなるくらいだったが、こっちのキョン曰く「めんどくせぇ」。ああ、ホント俺なんだなぁ。
 鶴屋さんは「そうしたらこの学校を守る人が居なくなっちゃうさ」と。校長の鑑だね、世の中のダメ校長に爪の垢をまず崇め、手を合わせ、それから煎じて飲ませたいくらいだ。
「方法を探すと言ったら…やっぱり図書館か」
「そうですね、駅前に大きな図書館がありますから」
「よし、行こう!」
 全会一致でそう決まった。ここにはハルヒが居ないが、その他にも行動力が有り余っているお方がいらっしゃるお陰で、その日その決定時から数分後、昇降口の外で雪のそぼ降る中、そぼ降るは雨のみに使うべきかも知れないがね、全員集合と相成った。防寒具も鶴屋さんがいつの間にか、そしてどうやって集めたのかはさっぱり分からないが、新参者の俺や朝比奈さん、長門有希の分を持ってきてくれた。お陰で、雪の歩きづらさと足から来る冷気を除けば、かなり快適になった。返す返すも感謝である。
 さて、集合してからただ突っ立っていても何も始まらない。いざ図書館、ということで一行は歩を進めたわけだったのだが。
 ―――そうだよな、忘れていた。
「なんでしょうか、これ」
「さあ、よく分からないっさ」
 透明な壁に阻まれ、校門から先へ進めない。
 こちらの世界の住民達は混乱中だが、俺はさほど混乱せず、というかもう混乱する必要もないくらいに予備知識があったお陰ではあるが、呟く。
「閉鎖空間の、いや、空間分離の壁か」
「へいさくうかん?くうかんぶんり?」
 単語だけを拾って復唱するこっちの長門。そんな単語分からんだろうな、普通。俺も正確には理解していない。
「こんなところにもできてしまっているんですね…」
 朝比奈さんは既にこういう空間の話を聞いていたようで、寂しそうに声を漏らす。
 なあ、今回は核が云々とかいうのと、時間で切れるの、どっちか分かるか?無表情の方の長門に聞く。
 時間で切れる空間分離だったら、俺達がのほほんとしている間に消えていて然るべきだろうし、そうではないというならきっとまたどこかに核が存在するんだろうとは思うんだが。
「分からない」
 即答された。
「接触位相を探す必要がある」
 そういや前も言っていたな。その接触位相を調べるのはどうやればいいんだ?
「分からない」
 長門がお手上げ状態で、俺がどうしろというんだ。やれやれ、この様子じゃ当分は帰れそうにない。
 とりあえずどうするか。この壁は正直突き破るのは不可能だろう。あの朝倉涼子が居ればまた話は別かもしれないが。
「この空間を抜けても接触位相を見つけられるとは限らない。また、空間に傷をつければ空間全体が不安定になり、また別空間に飛ばされる可能性もある」
 そろそろタイムトラベルとかはご免蒙りたいし、そう考えるとおとなしくしていた方がよさそうだ。
「むむむ、こんなの初めてだね。綺麗に磨かれたガラスにしても柔らかすぎるし、新触感だよ!」
 確かに新触感です。とりあえず、俺達が他の世界から来た、ということは実感されたでしょうかね。
「信じる信じない、というよりこの状況からは信じざるを得ない、という方が正しそうだ」
 こっちの俺は、俺が長門VS朝倉を見たときみたいな感想を漏らしている。こっちの鶴屋さん、長門有希も同様の意見らしい。さっきからぺたぺたと透明な壁を触っては手を引っ込めるということを繰り返しているこっちの長門はちょっと楽しそうでもある。
 しかし、これじゃ外出られないし、調べものも何もできないよな。
「なら、学校の図書館はどうですか?」
 こっちの長門の提案。確かに、本の数は市の図書館に劣るだろうが、何か手がかりにはなるかもしれないからな。
「それに、ここよりは暖かいしね!」
 諸手を上げて賛成です。