中もお菓子の家らしく、外と同じように偽者のお菓子が辺りに一面にあった。もちろん床もだ。チョコレートを模った形かな。凸凹している。
入って左手に緑の長い髪に帽子を被った監視員というか誘導員のみたいな人がこちらに背を向けて立っていて、客の応対をしていた。壁際や中央には机が置いてあり、その上には童話の場面場面を再現したミニチュア。番号とその横にその場面の内容が書かれているから、順番に見ていけば童話を知らなくても内容が分かるようになっているようだ。
また座って遠目にミニチュアを眺めることができるように3人掛けのソファがいくつか用意されていた。休憩にはもってこいだな。現に2人ほどミニチュアを見ずに携帯をいじっている高校生くらいの子供が居るし。
「はい、それではお気をつけて。……おやっ?」
応対が終了した監視員は声を上げ、俺がそちらを向いたときには既にすぐ傍に居た。なんだなんだ?
「キョンくんじゃないかっ。それに長門っちたちも」
「あれ、鶴屋さん」
こんなところで何をしているのか、と尋ねるのはおかしいか。おじさんの手伝いだ。
「今日はハルにゃんの意向で休みじゃなかったっけ?」
「そうですよ。だから4人なんです」
「言われてみればハルにゃんの姿が見えないね。もしハルにゃんが居たら、よっぽどのことがないとキョン君たちだけ行かせることないよねっ」
「ええ」
あいつに連れられて来ていたら、今日みたいにのんびりできなかったことだけは確かだな。明日には筋肉痛になってるくらいに連れまわされるし、乗り物の自由なんてのも無かったな。こんなところに来ることもまずありえない。
1度来て随分と乗り回したらしい遊園地にあいつが再び来るということはあまり考えられないが、もしあるとしてもここには来れなかっただろうから、そういう意味でもここに来たのは正解だったかもしれないな。他は嫌でもハルヒに連れられてくるだろうし。
「あ、前渡したチケット使ってくれたのかな?」
「使わせてもらってます」
「なら良かった! あれ、でも2枚は自分たちで買ったのかい?」
「そうですね」
「言ってくれれば渡したのに。後でお金払おうか」
「そこまでしてもらうわけにもいきませんよ」
前回のは一応報酬名義で貰ってますからいいとしても、今回のは全く何もなし。ある意味では横流しにようなもんで、真面目にお金払って来てる人間からすりゃ馬鹿らしいことこの上無い。
というわけで丁寧に辞退させてもらった。
「なるほど、そう言われてみればそうかもしんないねっ。分かった、じゃあ今日は楽しんでいって。なんだったらここ貸切にしたりもできるけどね」
小声でそんなことを言う。だから駄目ですって。ハルヒによって被害を多大に受けたことがあるお陰で、こんなことをしたらどうなるかなんてところまで考えるようになった。
「あっはっは、そうだね。他にも見たい人が居るだろうし。適度に楽しんでいってくれたまえ!」
鶴屋さんは笑いながら再び部屋の隅に戻った。これ以上邪魔するのも悪いし、回らせてもらおうか。
「そうね」
丁寧に作られたミニチュアは幼稚園くらいに見た絵本をそのまま3次元にしたようで、こんな話だったなと思い起こさせてくれる。
同行している他の3人の反応は三者三様とは言わずともそれぞれそれなりに違う。「へえ」とか「ふうん」と楽しそうに声を出しているのは朝倉。いろんな方向からミニチュアを見ているのは実希。そして最初のミニチュアを正面からじっと見つめるだけでなかなか先へ進まないのは長門である。1番目のミニチュアが気に入ったんだろうか。
別に見たいなら見たいで構わないのだが、良く考えたら帰りの時間も考えるとここで長く時間を取るのは少々もったいない気もしてきた。せっかく乗り物が乗り放題の券を買ったんだから、せめて別の乗り物も試してみたい。疲れたからとここを選んだ俺がいうのもなんだがね。
旨を長門に伝えると小さく頷いて、数十秒ずつミニチュアを順番通りに見てから戻ってきた。「もういいのか?」
「大丈夫」
ならば次へ行こうか。
手持ち無沙汰に立っている鶴屋さんに軽く会釈をして先へ進む。
一変して次の部屋は丸太小屋風の内装になった。今度は何の童話をモチーフにしたものなんだろうか。
壁際にはミニチュアの他に、子供が1人座れるくらいの大きさのベッドが置いてあった。それも7つ。その傍には7本のハリボテみたいな斧。
他には暖炉と小さな机。その上にはこれまた小さな7つの皿。
ここまで来たらさすがに俺でも大体予想は付く。今度は白雪姫か。あのベッドとか斧とかは小人用だな。
「なるほど、白雪姫ね。聞いたことあるわ」
知らなかったら俺はこちらの世界に戻ってくることもできなかったんだけどな。
「ん? 何か言った?」
「いや、何でもない」
あのことを思い出すのはやめよう。それがいい。