俺は図書館に来ていた。唐突になんでこんな所からお送りするかと言えば、理由は簡単で、ハルヒにあっちの世界(「キョンが教師で、有希が生徒で!」を参照してくれ)に行っていたときに使った言い訳によって、見事自滅したからに他ならない。
 朝比奈さんと鶴屋さんに新しく入手したとかいう服装を、今回は今までと随分趣向が変わって銀行員の制服だったのは何故だか知らんが、着せるとすぐに満足したのか、はたまた飽きたのかは知らないが、「じゃあ、あたしは帰るわ!」とかのたまって扉を出た。しかし、俺達の前を通り過ぎてから、ふと立ち止まって寄越した言葉がこうだった。
「キョン、あんた市役所に随分長い時間行ってきたんだから、それを記事にだか何だかにするの、さっさと終わらせなさい。そんな仕事残してたら、全然SON組本来の仕事できないんだからね。可及的速やかに。そうね、今日金曜日だから土日で仕事が完全に終わってるようにしなさい!」
 おいおい、今日は火曜日だぜ、と思ったが、そういえばそれは向こうの世界にいたときの曜日で、こっちでは金曜日だったらしい。ちなみに、古泉が言うには「向こうの世界とこちらの世界の時間の流れが違うようですね。大体向こうの1週間とこちらの1日が同じくらいと見ていいでしょう」。そんなに時間のズレがあるなら、インターネットを通じて話をしていたとき、同時に会話していたのはどうなるんだということを問うてみると、今度は長門が「あの情報網は瞬時に情報を伝達することができるため、時間という概念には当てはまらない」などと抜かしやがった。俺にはさっぱり分からんよ。
 それにSON組本来の仕事ってなんだ。もしかして、あの町内不思議発見か?だから、お前が願うようなことはそうそう転がってない、と言っておきたい。本当は道端にゴロゴロ転がっているんだろうが、正直信じたくないからな。
 ってそんなことはいい。さすがに急すぎるだろう。
「何よ、もう題材とか決まってるんでしょ。さっさと書いて、パソコンに打ち込むだけでしょうが」
 「実は市役所なんかに行ってない」と本当のことを言いたいところだが、そうすれば今度は質問の嵐になることは間違いなく、俺は「ああ、すぐ終わらせるさ」と強がりを言うしかなかった。休日はのんびりするつもりだったのにな。

 というわけで、今更市役所で赴いて延々に質問攻めにするわけにもいかず、図書館で取材してきたものをまとめている振りをしながら、新聞や本を調べて「この町の歴史と学校の変遷」などというでっちあげタイトルでインターネット上に掲載する内容を必死で考えていた。
 もちろん、これを一人でやるのはさすがに不可能で、残りのメンバーがあの手この手で情報を仕入れてきてくれているのではあるが、さすがにおいそれと十分な資料が集まるわけでもなく、ハルヒによってつけられた尻の火は、今まさに俺の全身を包み込むんじゃないかと思わんばかりに元気だった。
 土曜の昨日はほとんど資料集めだけで1日を費やし、今日、つまり日曜日を迎えてしまった。
 昼過ぎにはどうにかこうにか骨組だけはできたが、肝心の中身はさっぱり。ここからそれっぽくしてやる必要があるのだが、先ほどからそのための妙案がさっぱり考え付かない。
「ここには、前解決した廃校の事件について詳しく書けばいい」
 長門がレイアウト図の一角を指差して言う。ああ、その手があったか。
 現在、図書館に居るSON組メンバーは長門と俺だけだ。俺はもちろん、ハルヒ直々のご指名で仕事を仰せつかったお陰でここに居るわけだが、長門は組長であるということで、その手伝いとしてこの図書館に居る。実は、この骨組を作ったのもほとんどが長門だということは秘密にしておきたいものだ。
 6人掛けの机に向かい合わせに俺と長門が座りながら、あーでもないこーでもないと言っていると、資料収集組のラスト、朝倉・鶴屋組が登場する。他のメンバーからは既に昨日資料が手渡されていたが、この二人が担当した資料は明日まで待ってくれと電話があったため、今までずっと待っていたわけだ。これでちょっとは進展するかね。
「市役所の情報操作に手間取っちゃったのよ」
「なかなか大変だったっさ!」
 そういえばこの二人は市役所の方に手を回してくれという話だったな。
「大規模な情報操作は後々ボロが出やすいから、昨日のうちに鶴屋さんにお願いして、パソコン内の情報改ざんと所長との会談のアポイントメントを情報操作で入れたくらいにとどめておいたの」
「で、さっきまで二人で所長と会談してきたさっ。もちろん、行ったのが「キョン君と長門っちとみくる」であるという情報操作も朝倉さんがしてくれたよっ」
 ナイス連携プレー。
「これがその会談内容の紙。これくらいでいいかしら?」
 目を通してみる。細かい部分まで全部書いてあって、ああ、これなら充分過ぎるほどだ。
「あとは私達でやる。二人は帰って休んでいい」
「あら、そう?じゃあお言葉に甘えさせてもらうわね」
「じゃあ、長門っちとキョン君はがんばっておくれよっ!」
 お疲れ様です。さて、もうひと頑張りするか!
「する」

 その後、会談の内容を一部省略したりして、レイアウトの空白部分を少しずつ埋め、なんとか最後まで書き終えた。やれやれ、疲れたな。んじゃ、これをアップロード…。
 しまった!
「これを今からインターネットでアップロードする時間がないぞ」
 今から学校に戻るわけにもいかないしな。
「大丈夫」
 長門が持参の鞄から取り出したのは、あのノートパソコン。そして今までのレイアウトの通り、考えた文章を、あの対コンピ研のときくらいの速度で打ち込んでいく。帰り際の受験生らしき男子が、長門の指の動きに目を丸くしていた。
 さて、あとはアップロードするだけの状況になっている。打ったはいいが、インターネットに繋がっていないだろう。
「前、コンピ研の部長に、無線LANというものの設定をしてもらった」
 いつの間にか大分コンピ研の連中と仲良くなっていたらしい。またこちらを見ていて、ああ、もうやっちゃってくれ。
「分かった」
 送信完了の表示までに少々時間がかかり、終了と同時に退出を促す放送が流れる。長門、そろそろ出よう。
 こくりと首肯し、鞄にノートパソコンをしまった長門を引き連れて外へ出る。ふう、なんとかこれで仕事は全部終了だ。ゆっくり寝れるな。
「写真が」
 ん?
「撮った写真がまだアップロードされていない」
 ……どうやら、寝るのはもうちょっと後になりそうだ。