「キョンくん、あたしにもおせんべいとってー」
「はいよ」
「ありがと。あはは、これおかしいね」
 って編み物はどうした編み物は。
「んー……」
 お笑い番組を見ながらジュースをストローで飲みつつ、
「あとにする」
 完全にメインを放棄していた。
 昨日帰って妹に編み物教室を朝比奈さんがしてくれると聞くや否や「行く」を連発し、すぐその場で朝比奈さんへ連絡させられたくらいにやる気だったのにな。
 もちろん最後にはこうなるだろうと思っていた。いや、集中力とかそういう問題の前に、
「これ終わったらゲームでもしましょ。妹ちゃんは何やりたい?」
「いろんな色のが落ちてくるのー」
「落ちものゲーね。いいわよ」
 遊びの塊ともいえるハルヒがずっと一緒に居るのだ。これでまともに粛々と朝比奈さんの編み物講座が開かれるとは到底思えなかった。
 が、さすがに来て1度も編み棒に触れず、さらにこれからも触れる機会が無さそうだということになるとまでは想像できなかったな。せめて基本的なやり方とまずいところの手直しとか、上達の為のアドバイスくらいは聞いて帰ってもらうべきだろうに。
 それに引き換え――
「…………」
 余った編み棒がある、ということを聞いて今日が初参加のヒューマノイドインターフェース集団。こういうことは得意そうに見えて、やっぱり得意らしい朝倉にうちの妹ほど酷くは無いがほつれに穴にと、あまり良さそうなものではない長門と実希。もう見慣れた風景でさして驚きもしない。
 やっぱり長門と実希はこういった感性的なものが苦手のようだな。いつも会話してても感情がほとんど無いし、表情も凝り固まってるし。
 その分、クラスでも中心的な立場に居て、憧れの的であり、楽しそうに笑うことのできる朝倉は毛糸の選び方も桃色で、ほとんどほつれもない。真っ青1色の長門とか表現しがたい暗色の実希がおかしいだけかもしれないが。
 ぼんやりしながら3人を見て考える。
 なんでこいつらの親玉はこんなに別々の性格でこの有機ロボットを作ったんだろう。
 情報統合思念体は名の通り、意を異にしている存在がいくつも居るらしい。1度消滅した朝倉がその間際に言っていたし。
 だがどんなにいろんな意思があるとしてもバラバラではいざというときに困るはず。共通の敵が居たとして、その都度にどうしようかなんて会議を開いていたら進むものも進まない。
 としたらトップに君臨する何かが居てもおかしくなさそうだと思うわけだ。現実世界の国では覇権争いがあるが、これはつまるところその国のトップ争いのことだ。一部無政府状態の国があるとはいえ、大半の国と呼ばれるものの区切りには王だの皇帝だの天皇だの首相だの、何かしらトップという形がある。
 何かに悩むというか、疑問を抱いたり意見の食い違いが起こったときにそれを鎮められるような存在が必要なのはどこでも変わらないと思うが、情報統合思念体とやらはどうなっているんだろうな。もしトップが居るとしたらこんなにバラバラな、これも消える前の朝倉談ではあるが、操り主が居て全部片っ端からただ単に判を押すような感じで了承していったんだろうか。それとも同じような性格ばかりでは判断に偏りが生じるからとむしろ作為的に性格の違うインターフェースをわざわざ配置した?
「あ、長門さん。そこほつれてるから直した方が見栄えがいいわよ」
「分かった」
「棒が長すぎます」
 ……どう見てもただの仲睦まじい姉妹だよな。誰1人として宇宙人製の人間モドキであるということに気づいていないし。気づくわけも無いか。宇宙人なんて夢の産物だと誰もが思い、そこに俺も名を連ねるつもりだったくらいだからな。ちょっと普通じゃない女子高校生くらいの認識だろう。そのお陰でハルヒも同様に信じ込んで、平和が保たれているというわけだ。
 パトロンのオッサンだかオバサンだか、はたまたオカマだかなんだか知らんが、そいつらはこの3人娘の仲良さげに編み物をしている姿を見てどう思ってるんだろうね。この様子だとわざわざ思考の偏りが出ないように選んだつもりが全員一致でいいことも悪いことも即決されそうだぜ。
「あーっ、惜しい。もう1回挑戦よ」
「うん!」
 ハルヒと我が妹はゲームに夢中、朝比奈さんと鶴屋さん、古泉の3人は観客で、俺はどうしようか。編み物に参加するつもりもないから観客かな。
 既に1メートルくらいの長さまで編み終えた朝倉が伸びをして休憩。
「そういえばこれ、出来たらどうしようかしら」
「クラスメイトにでもあげたらどうだ?」
 きっと喜ばれるに違いない。ただし男子にあげたら勘違いされそうだからその辺は自己責任で。女子同士なら……どうなんだろうな。
「あなたはマフラー使わないの?」
「学校には持って来れないからな」
 学ランに似合う似合わないという論議は別にしても1番寒い体育の授業で使えないんだから意味が無いとしか言いようが無い。
「でも登下校には使えるんじゃないかしら」
「まあそうだな」
「じゃあできたらあなたにあげるわね」
 要らないというなら貰おう。少なくとも妹の穴だらけよりはまともに使えそうだし。
「ちなみに長門さんと実希のもきっとあなたのものになるわね」
 3本もマフラーあってどうしろと。
「日にちで分ければいいじゃない」
 そういう問題じゃないだろうに。
「長門はいいのか。あげる相手とか居ないのか?」
「居ない」
「そうか。実希もか?」
「私はクラスメイトにあげようと思っていましたが、出来が悪いので破棄するつもりです。とりあえず最後まで作っては見るつもりですが」
「あら、破棄するくらいなら貰ってあげたら?」
 ……分かったよ。曜日で変えるつもりで使ってやるさ。