「馬鹿馬鹿しいと思いながらもあなたはついてきてくれるでしょう」
「ついてこないという選択肢が無いからな」
「いえ、そんなことは無いと思いますよ。あなたが本当にやめると言えばやめることができますよ。この前……といってもそれなりに前になりますが、本気で怒ってはいなかったでしょう」
あのときはハルヒのやつ、俺が本気じゃないと思ってたから大丈夫だと高をくくっていたみたいだがな。
「それも信頼関係なのではないでしょうか。きっとまた戻ってくるというね」
本気でやめようと思っていたぞ。その気持ちは長続きはしなかったが。
もしかするとハルヒって人の心とかを操ったりする力があったりするとかないよな? 俺がやめようとしても戻ってくるようなブーメラン効果を付けさせるとかさ。
首をかしげながら古泉は苦笑した。「分かりませんね」
これ以上ハルヒについていくことになったら体も、命さえもいくらあったって足りないと思って、あれだけ本気でやめようと思ってても割とあっさり戻ってきちまった。それどころか「なんだかんだで楽しんではいるだろ」とか言い訳じみたこと言いながらな。
今までの非現実的なことの数々を思い起こしてみると実はハルヒの手中でずっと踊らされているだけで、ただ単に手綱を一瞬緩めただけでまた引っ張られるといった『やめようと思ってもやめられない』という状況をあいつに作られているんじゃないかと疑心暗鬼に駆られてくる。これは当然だと思う。
「そうですね。僕もそんなことを思ったことがあります。特にあんな力を手に入れた直後なんかは尚更ですよ」
あんな力ってのはもちろん超能力の話だろう。
「涼宮さんがこの力を僕に与えてくれたということや”神人”のこと、倒し方や終わったらどうなるか。全部分かってしまう。じゃあ誰がこんなことを教えたのか。本を目の前に置いたわけでもなく、音を聞かされたわけでもない。まるで催眠術でも掛けられたかのような気分でしたよ」
サンタの服装を珍しそうに見ていた文芸部長さんはどうやら部の上に立つ人間同士だからか、機嫌良さそうにハルヒと話をしていて、しまいにはクリスマスソングまで歌い始めている。ハルヒは4日前くらいにあれだけ歌っておきながらまだ歌うのか。まあ今日こそクリスマスだから歌うべきなのかもしれないけどさ。
珍しく楽しそうなハルヒを見ながら古泉の話を聞く。
「でもそれなら今までの自分が考えてきたことも全て神である涼宮さんが何もかもを決めてきたかというと、なんとなくそうではない気がするんですよ。前も言いましたように非常識的なことを望んではいるけれども、そんなことがあるわけがないとも思っている常識人ですから」
「だがハルヒが望んだからお前が転校してきたんだろう。だったらやっぱりあいつが世界を動かしているんじゃないのか?」
「少し勘違いがあるようですね」
勘違いだって?
「ええ。僕がこちらへの転校してすぐの頃、まだそのつもりではなかったけれども急遽、というような内容をお話したと思います」
「お前が来てすぐのあれか」
外のテーブルでコーヒーすすりながら話をしたやつだな。そんなことを言っていたような気は確かにするな。
「あのとき、僕がここに来たのは別に偶然でも何でもなくて僕の意思と言いますか、『機関』の意思で来たんですよ」
「それがどうした」
「僕に力を授けてくれたのは彼女であり、それは本当です。しかしながら彼女の全ての意思が僕をここに集めるまで行ったのではない。つまり全てが彼女の思い通りにはならないんですよ」
言いたいことは分かる。あいつが世の中の全てをコントロールすることはできない。少なくとも人の心をコントロールすることができたとしてもそれが失敗している事例がある。だから俺もハルヒに踊らされているわけではない。
今まで生きてきた中で世の中の不思議を体験したいと思ったことは何度もあるし、今のハルヒが望んでいるようなことをずっと小さな頃に望んでいたというのも事実。現在、それを絶賛体験中であるわけだ。
夢だったことを現実にできる。もうちょっと離れたところから見ている役だったら最高だったが、そこまでは希望通りにいかなかった。それでも幼い頃に常々思っていたような不思議を目の前でじかに体験できるというのは嬉しかった。
……もし、という仮定の話ではあるが、幼い頃の記憶すら捏造されているとしたらどうだ。少なくとも時間を3年前くらいまではさかのぼることができるらしい。大人の事情で時間がかなり無茶苦茶になっているが、これは俺が中学2年くらいまでさかのぼるってことだ。そこまではこの世界が続いてきているという可能性が高いという。
ならばその前は?
朝比奈さん未来人は原因不明の壁に阻まれてそれ以前へ戻ることができないと言っていた。
一方、長門というか情報統合思念体はずっと前から人間を監視し続けてきたらしいから、過去は連続的に存在していそうな気はする。
どちらかが違っていると考えたときに、情報統合思念体なんて俺にとっちゃ胡散臭い集団の存在もハルヒの脳内妄想から生まれたでまかせが一人歩きして現れたものであり、長門も含めて全部がハルヒによって作られていたとしたら?
なんたってあの長門でさえ戦えば厳しい相手が居るのを俺は知っている。1人なのかとか、その他知りたいことは何も知らないけどな。あんなやつが居たりすると、もっと能力が高い神であるハルヒならば意識的か無意識的かも分からないが、長門すらも本当は超越しているのではないかと。
「全て俺たちが覚えていることさえハルヒの作り話が植えつけられていたとしたらどうなるんだ」
「それは……」
さすがの古泉も黙りこくってしまう。
そうだよな。こんなことを証明することなんてできやしないのだから。