世話になり始めて2日が経とうとしていたが、未だあべこべな睡眠生活は健在だった。分かったのは長門が予期していた『寝れば寝るほど眠たくなる病』が現実のものとなっているということが判明したことくらいか。ただの勘違いだったら良かったのに、こういうどうでもいいことだけ分かっちまう悲哀は表現していいか分からんね。
 家を数日連続で出る言い訳が結局のところ思いつかず、朝倉の言い訳を利用させてもらった。ただしさすがに泊まる理由にまではならなかったため、朝の10時頃から夕方の8時頃までの手伝いということにしてその時間は長門たちに俺の治療を頼むこととなった。
 正確には休日でも部活があり、それは昼の1時ごろから夕方6時ごろまでだから長門家にお邪魔するのは5時間だけだ。それも昼食・夕食の時間があるため正味の時間は4時間くらいだ。
 夜寝ずに朝長門家へ訪れてからすぐに寝る必要があるからその4時間の半分近くを睡眠に費やすんだけどな。
 1日の流れはこんな感じだ。
 朝起きて朝食を済ませたらすぐに長門家へ向かう。到着してすぐに心拍数、呼吸数等の情報を長門の手によって測定し、その後布団に入って睡眠。起きたときに再び測定して睡眠によってどれだけ眠気が増加したかを割り出す。終わったら昼食を摂り少し休憩の後登校。
 ハルヒの無茶振りに呆れさせられながら溜め息をつきつつ、長門の部屋に戻ってきてから再び健康測定。状況に応じて再び睡眠か休憩。
 終わったら自宅へ帰ってベッドに入るが、このとき眠ってはならない。俺が寝ていいのは朝長門の家に言ってからのみである。これは長門に寝たときの効果等を測定してもらうため、厳守しなければならない。
 現在までの結果では冒頭に述べたように『寝れば寝るほど眠くなる病(俺命名)』が事実であるということが分かった以外には特に新たな情報は手に入っていない。せめて治療法くらいは分かってくれればありがたいんだが、今のところそれに繋がる有力情報は無い。いつになったら元の生活に戻れるのか。いや、それどころか本当に戻れるのかすら。誰がやったんだろうな、こんなこと。俺を不眠症にしたって得することなんか無いと思うんだが。
「どうぞ」
「ああ、ありがとな」
 実希から受け取った本は少し前に長門も読んでいた推理小説だ。あの読書好きが言うには仕掛けが陳腐な上に指紋を完璧に拭き取るくらい慎重な犯人が視認できるくらいの大きさになった釣り糸を見落とすわけがないとか突っ込みたいところがいくらかあったようだが、それなりに面白いらしいので読んでみることにした。今日は帰るまでの時間は眠らずに休憩を取ることになったから、本でも読むくらいしかやることがない。朝倉の部屋からテレビを持ってくればそこまでして見たいテレビもないし、ただでさえ共通の話題が少ない長門なんだから、また2人になったとき少しくらい話せる話題が有った方がいいだろう。いつもいざとなったらこいつを頼ってばかりいるし、話し相手としてもいい関係を築いておくことは今後の円滑な情報の共有が云々。
 本来ならここでは冬休みの課題を進めるべきだろうという突込みが入りそうだが、実は部活で大半を終わらせている。長門に俺の状態を見てもらったら後はやることがないし、課題も積んだままでは学校が始まってから居残りでやらされるし、ハルヒがそんなことを許すはずがない。ならばさっさと済ませるしかない。
 既に部員の大半が課題を済ませているかほぼ終わっている状態で、まだ終わっていないどころか手もつけていなかったのをある程度自力で解き、ここが違うだのここはこうすればいいだのと言われながら進めることが出来た。ありがたいことだ。
「今日も変化は無し」
「そうか」
「うーん、結構難航してるわね」
 読み始めたばかりの本に栞を挟んで閉じ、胡坐をかいてこたつ机で長門と向かいあわせに座る。朝倉と実希はその両端に座っている。
「このままだと学校が始まっちまうな」
「そうね……」
「でも授業が始まればうかつにあなたを攻撃できない。だから安全ではある」
 だがゆっくり休めないというのは学校が始まるときついな。
「できるだけあなたの負担が減るように努力する」
「そうね。あたしの方もできるだけ気をつけるし」
「頼む」
 できないことをいつまでも悩んでいたって仕方が無い。まだもう少し時間があるからそれまでに治ればいいが、治らなければしばらくはそのまま生活するしかない。
 俺を殺すつもりなら方法はいくらでもあっただろうから今すぐ命を落とす危険があるとは思えないが、こんな生活が続けば体力の前に精神力が持ちそうに無い。
 真っ暗な部屋の中で朝が来るまでじっと起き続けなければならない。眠くないのだから起きること自体は別段辛くもなんとも無いのだが、真っ暗な部屋で何もせずにじっとしているというのはなかなかに苦痛を強いられる作業だったりする。
 本を読むにしても明かりが無い。明かりをつければいいかもしれないが、漏れた光に気づいて1度妹が部屋に来たことがある。毎晩起き出してくるとは限らないが、また同じことがあったらと思うとなかなか明かりもつけられない。
 まともな生活に戻ったら思う存分寝てやろう。家に帰って暗い部屋の中で固く誓った。