「これはどうだ」
「無駄な機能が多い。それとさっきの機種と比較して3グラム重い」
「だが大きさはこれくらいの方がいいと思うけどな」
どうでもいいとか言っておきながら、長門は携帯へのこだわりがそれなりにあるらしい。見た目へのこだわりは少ない様子ではあるけれども、実際の使いやすさについてはかなり口を出している。これから数年は使うであろうものだから慎重になるのは大切なことだが、口数が少ないからどんなのがいいのか良く分からないな。
さて、ここで俺たちがどこへ来て、何をしているのか。お分かりいただけだたろうか。
もし分かったのならその人には涼宮ハルヒにとって期待の星になると言っても過言じゃなさそうだ。少なくとも俺は分からないね。
今長門や実希、俺が持っている手のひらサイズで小さなボタンがたくさんついている機械。ここまで言えば分かる人も増えるんじゃないだろうか。
長々と引っ張るほどの秘密でもないからそろそろタネ明かしでもしよう。
「しかし2人して携帯を持つというのはどういう風の吹き回しだ?」
あの谷口たちと遊んだ日の夜に掛かってきた電話の内容は、長門と実希の携帯を選んでほしいということだった。
本来ならば3人で行く予定だったそうだが、残念ながら朝倉に用事ができたとのことなので俺が代役として選ばれた。SON組の中の人間とでさえ親しいと言っていいのか分からない状況なのに、HRと授業、そして掃除の時間くらいしか一緒にいないクラスメイトやそれ以外と仲が良いかと考えればちょっとありえない気はするな。
別に今日じゃなくてもいいんじゃないのかと思ったが、なるべく早い段階に持っておいた方がいいだろうし、朝倉も携帯を持っているのはクラスメイトから薦められるがままに買ったものであるからそういうものには疎いので、むしろ自分が行くより俺に行ってくれた方が良かったんだと。
長門といえば借りばかり作っている気がするし、ここいらで少しくらいは返しておこうとも思うが、本当に俺でいいんだろうか。女性向けの携帯はどれがいいとか正直分からんのだが。
この質素というか着飾りには無頓着そうな2人ならばあまり気にしなさそうだが、勧める側としてはあまり適当なものを教えられないからな。不安要素はあるが断る理由にもならないし承諾。基本的に俺は簡単な助言だけにしておこう。こういうのは下手に周りから口を出すと選びづらいと思うし。
翌日に長門と実希を連れて携帯ショップへ。今は携帯電話会社も数が増えているからどれがいいかというのは実際に回ってみないと分からない。全部回るのはきついだろうが、有名な携帯外車3社くらいを教えれば気に入ったものが見つかるに違いない。
1店舗目は利用料金は他と比べて高いが、機能が充実している携帯電話が多い店。ここでは両人共に好みのものは無かったようで、すぐに次の店へ。
2店舗目は利用料金は安いものの機種は少ない店舗。こちらは実希が小さく丸みを帯びた機種が少し気になるようだったが、長門は相変わらず反応が薄い。元々選ぶ気があるのかないのかもよく分からないから、このまま店を回る意味があるのかないのかも疑わしくなってくるのだが、やると言ったんだからせめてもう1店舗くらいは連れて行くことにしよう。そこでもダメならまた考えればいい。
3店舗目はどれもそこそこといったところ。そこでの会話が冒頭に繋がる。
「シンプルで電話とメールだけができればいいのならこっちでもいいんだけどな」
中身だけではなく外見まで質素な携帯を差し出すが、それもそれでまたなんだか興味がなさそうに見える。見えるだけでもしかすると興味があったりしないだろうか。
「特には」
そんなことだろうとは思ってたけどさ。
さて、3店舗回ったが長門のお眼鏡にかなうものは無かったようだ。とはいってもとりあえず3社とも見てからゆっくり考えた方がいいだろうと展示されているものをささっと見流してきたから見落としがあるかもしれない。
SON組御用達の喫茶店に俺たちは入って作戦会議。
「これ以外に店は近場にはないと思ってくれ」
電車に乗ればあるにはあるが、結局は同じ会社の建物であるから置いてある機種に変化はほとんどない。つまり実質この3社から絞らねばならないことになる。
貰ってきたのは合計で13枚のパンフレット。さすがに全部広げられないから3枚ずつくらい広げていく。
「まずは条件を決めなきゃな。長門はどんな携帯がいいんだ?」
尋ねるとゆっくりと首を傾げた。いや、そんな不思議そうな目で見られても。
「携帯に限らず、まずはたくさんあるものから絞らなきゃいけないんだ。たとえば携帯の値段がいくらまでがいいとか、ポケットに入れて邪魔にならない大きさがいいとか、そういうことだ。実希はなんとなく気に入ったのがあったみたいだが、何で選んだんだ?」
「大きさです。あまり大きすぎると電話しづらいと思いますし、かばんに入れておいても邪魔になりますから」
「なるほど」
どちらかといえば小さめな実希の手に合ってそうな大きさではあった気がする。
「だそうだ。そんな感じで長門も何かないか? あまりごちゃごちゃしてないのがいいみたいだったが」
重さが数グラム違うということを気にしていたくらいだから重さも気になるのかもしれない。見た目については何の話も出てないからどうでもいいのかもしれない。
ならばこのあたりかな。
「これなんかどうだ?」
「……」
反応はよろしくない。こりゃ携帯探しは難航しそうだ。