図書館へ向かう途中に携帯がその存在をポケットの中で激しく主張した。
『やっぱり4時までは長すぎだから3時までにするわ』
そう言うハルヒはおそらく良い絵が撮れていないんだろうと思わせる口ぶりだった。きっとこのまま4時まで歩き回っても期待したような写真が取れないと考えたんだろう。
「分かった」
『ちなみに丁度おやつの時間だから、最後に集まった人が支払いってことで』
またかい。昼もやったというのに。
……自分で払う気になっているのが悲しいところだが、実際他の6人を出し抜くのは正直不可能だと諦めているからな。
『あ、撮ってくる枚数の最低は20枚で変えないから。それじゃ』
ここだけは何があっても変えないぞという気概が感じられるくらいの速さで電話を切った。まあ拒否することもないからいいんだけどさ。どうせ残り10枚は適当に撮るつもりだったし。
さて、そうなると後1時間しか昼寝をすることができなくなる。1時間だけ寝て起きるなんて器用な芸当ができるかと考えてみると少し不安ではある。
じゃあ残り1時間をどう過ごすかと考えたときに、他に何もできそうなものが思いつかない。ゲーセンに行くと金は減るだけだし、ウィンドウショッピングって柄でもない。
バイブでも掛けておけばいいかなと思うが、初めての不思議探索で尻ポケットにマナー状態で入れといた携帯のお陰で大恥かいたからな。もうちょっと別の方法で起きることを考えた方が良さそうだ。それか寝るんじゃなくて椅子に座ってしばらく何も考えずにいるとかな。丁度暖房とかも掛かって良い具合だからほぼ確実に寝そうだが。
とか考えている内に図書館へ到着。よく見たら既に2時を15分ほど過ぎている。実質30分くらいしか居られそうに無いな。さすがに昼寝にしちゃ短すぎる。温まりに行くだけって感じになるか。ま、時間が潰せりゃ何でもいいけど。
椅子は半分ほど空いている。とりあえず図書館なんだからと初回と同様に読む気もしない本でもとりあえず持っていた方が良かろうと棚の間を歩いていると、通り過ぎた棚に見慣れた横顔が見えた気がして、戻ってみるとやはり見慣れた、ここに居るべきというか居るならこいつだろうという女子が、俺が10分も片手で持っていれば腕が攣りそうな本を軽々持って立ち読みしていた。そういやこいつの受け持ちはここだっけ。
ここならハルヒに見つかることもないだろう。せっかく見かけたんだから声くらいは掛けていくべきだよな。何も喋ったら命を取られるとかいうわけでも無いんだし。
「よう、長門」
俺の声でようやく気づいたのか、ねじ巻き人形のようにゆっくりとこちらを見て目を瞬かせた。
「少しここで休憩でも取ろうかと思ってな。丁度来たところだ」
「……そう」
「そっちはもう撮り終ったのか?」
「今は朝倉涼子が撮影中。私と実希はもう終わった」
「なるほど。んで既に終わった2人は図書館で休憩中ってわけだな」
「そう」
「こっちは後10枚残っているが、まあ後で適当に撮っていくつもりだ」
よく考えればこんなことしている暇は無いかもしれないな。移動時間考えれば10分前くらいには移動を始めないと写真の取り残しが出る。適当に撮るにしても、全く同じ構図10枚撮るわけにはいかないからな。
だがこの暖房の効いた暖かい部屋へ入ってしまうとなかなか抜け出せないのも事実。寒い日のこたつと暑い日のクーラーの掛かった部屋ほど出たくないところは無いよな。
「そういえばハルヒからの電話はお前も聞いてるか?」
「……?」
「朝倉とはいつまで一緒だったんだ」
「1時間13分前」
持ち回り最初が長門だったわけか。ハルヒからの着信時間を確認するまでもなく、長門は時間が短くなったことを聞いていない。
「朝倉と実希にはここに来るってことは伝えたのか?」
「伝えてある」
ってことはどうせ長門はやること終わっているし、時間前になったら迎えに行けばいいだろうと思っているんだな。実際それで問題は無い。
だがせっかく会ったんだから、ハルヒから終了時間が前倒しになったことを伝えておく。
「分かった」
「ま、とにかく俺は少し椅子で休むとするよ」
手近な椅子に座って天井を見上げる。体を背もたれに預けているから天井を仰ぐ形になっているだけで、別に見たいから見ているわけではないが、とにかく椅子にもたれていると急激に眠くなってくる。外のベンチとは格段に椅子のやわらかさが違い、さらには部屋の中も適度に暖かい。
ここを選んだのはどう考えても失敗だったな。
そう思いながら意識はすぐに途絶えた。
起きた時には集合時間15分オーバー。前みたいにマナーで飛び起きるようなことが無いようにサイレントにしておいたため、怒涛のコールラッシュがハルヒによって行われていたことが携帯の履歴から分かる。
もちろん喫茶店での代金は俺持ち。それもハルヒは大幅に遅れたからと大きなパフェまで頼む無慈悲さ。しばらくは懐も寒い風が吹きそうだ。
肝心の写真だが誰も宇宙人とかそういうものを捕らえたものはなし。そりゃ当たり前だと言いたいね。
つまり無駄金を使っただけの1日となってしまった。やれやれ。