翌日である。
 駅前に集合と相成ったため、時間の10分前に自転車で目的地に到着。さすがに長門はまだ来てないか。
 本日の天気は、天気予報でも晴れ。快晴で暖かいというよりは正直暑いくらいで、春どころか初夏と言っていいくらいの陽気だ。
 集合時刻の5分後。クリーム色のブラウスに白いカーディガン、水色のフレアスカートを薄いピンク色のベルトでとめ、白のハイヒールといったいでたちで、春のデート用といった感じだろうか、集合場所に登場した。
「待った?」
 大して待ってないさ。と、こう返すのがなんだか彼氏と彼女のようで、背中がかゆくなりそうだ。
「そう」
 じゃあ、行くか。まあ、前と同じ図書館だろうかね。図書カードは俺が持ってるが、頻繁に行くなら自分で図書カードを作っておいた方が、
「待って」
 図書館方向へ歩き出した俺の袖を引っ張ったのは間違いなく長門で、どうした、何かあったのか?
「そっちじゃない」
 む?いつの間に図書館は移転していたんだ。この前の不思議探索のときの暇つぶしのときに行った図書館は、間違いなくこっちにあったはずだ。立地上の問題かなんかで、あそこを立ち退いたのかね。
「違う」
 何が違うんだ。
「買い物に行く」
「買い物だって?」
 ああ、そうか。図書館じゃなくて本屋だな。欲しい本でもあるのか、せっかくだからこういうときくらいは買ってやるぞ。
 しかし、長門は短い髪を揺らしながら首を横に振って、否定のアピール。全く事情が飲み込めん。
「ウィンドウショッピングというのをする」
 …はい?
 長門の口からウィンドウショッピングなる言葉が出てくるとは思わなかった。何が起こったんだ、ギャグか?
 いや、さっきからこちらを見つめる瞳には、面白おかしさなど欠片ほどもないし、にじみ出るような様子もない。これは、かなりにマジらしい。
「別にいいが、どこ行くかとか、どんな店を回ろうとか考えているのか?」
「考えていない」
「そこも含めてウィンドウショッピングといったところか」
「そう」
 まあ何が起こったかはよく分からんが、長門がしたいと言ったんだ、俺はついていくさ。
 商店街の、特に服やアクセサリー類が立ち並び、女子の組やカップルなどがひしめくような中を無表情・無言のままの長門と二人で歩く。残念ながら、どう見たってカップルには見えないだろうな。贔屓目に見たとして、不機嫌そうな彼女に振り回され、ご機嫌取りにウィンドウショッピングに付き合っている彼氏という図くらいしか想像できまい。
 いや、それ以前にカップルに見えるんだろうか。どっちかといえば、イライラオーラ全力放出中の妹と、その対処に困りつつもついてきてしまった兄という方が近いんじゃなかろうか。まあどちらにしても、長門が元々無口であることを知らなければ、「ああ、あの彼氏OR兄は可愛そう」と見られているんだろうな。
 まあ、それはさておき。長門は、途中で興味をそそられた店があったのか、はたまた歩き疲れてそろそろどこかの店に入りたかったのか、あるいはただの気まぐれか、俺にはさっぱり理解の範疇を超えていたが、歩き始めてから10分くらいしてある店に入った。俺もそれについて入店する。
 理解の範疇を超えていたのは、何も長門の思考だけではなく、その店のチョイスにもあった。何やら怪しげな「〜アルよ」とか語尾につけてそうな中国人風エセ中国人が、どこかから輸入したのか、はたまた自作なのか分からないようなイヤリングや指輪などを販売しているような感じ店で、どう考えても一女子高校生が、ぜひともこれを買いたいなんて思うような、可愛らしいものがありそうには到底見えない。
 待てよ?長門は有機性のアンドロイドであるから、普通の女子高生と違って何かを感じ取って、興味を抱いたのかもしれないな。だから、一風変わったこんな店を選び、中へ歩を進めた可能性がある。まあ、相変わらず予想の域を逸しないわけだが。
 店員は残念ながらというべきか、怪しげな中国人風ではなく、至って普通の日本人女性店員で、どうしたらここにバイトで入ろうと思ったのかぜひとも動機を聞いてみたくなる。正社員の可能性もあるが、もしそうならなおさら入社の動機をば。
 それに、何やら綺麗な宝石らしい石が散りばめられている2000円などで売ってあったり、もしかするとその宝石に見えるものは全部色付きのガラスかもしれないが、見れば見るほど怪しげな店だという感情が季節外れの台風のように渦巻いた。
 そんな俺の思考の間に、長門は 洋服が所狭しと並んでいる方へふらふらと足を向けた。しばらく悩んでいたようだが、一つ気に入ったのかTシャツを手に取り、「どう?」と聞いてくる。
「人の趣味にこうだと言うのはどうかと思うが、どちらかといえば長門にはもっと別のものの方が似合う気がするな」
 と言ったはいいが、本心は絶対にやめてくれと全力で否定したかった。なぜなら、そのTシャツには黒地に赤い文字で胸元に「飛天」とでかでかと書かれたTシャツで、俺の感性が云々というのを差し引いたって、お世辞にも可愛いとはお世辞にも言えないものだった。
 次に長門が選んだのは、これまた文字入りで胸元に「大阪魂」、背中に「通天閣」と書いてある、ああもうなんとも言えない怪しさを匂わせているTシャツだった。今度も、できるだけ自分から辞退するように遠まわしに否定する。
 その後も2,3枚ほど選んだものは全部文字入りで、というかまずほとんどそういうTシャツしかほとんど置いてなかったのもあるが、結局その店では何も買うことなく出て行った。もうちょっと、カジュアルな店の方がいいと思うぞ、長門。