「……というわけだ」
「そう」
 外に近い窓際で氷の溶けかけたアイスココアを飲んでから長門は呟くような声で言った。
「興味深い話」
「だよな」
 長門家を訪れた俺だったが、家には長門しか居なかった。理由を尋ねてみると、朝倉は友達に誘われて外出中、実希も最近怠っていたヒューマンウォッチングをするとのことで家を出ていた。朝倉はいいとして、実希のヒューマンウォッチングは必須事項なんだろうか。人間らしい行動を情報統合思念体とかいうパトロンに情報送らなきゃいけないとか?
 その割には未だ長門は人間らしい表情を持つことは無いようだが。1度作っちゃうと後から追加はできないのかね。
 それはさておき、家を先に出た2人はどちらも家の鍵を持っているらしい。
 ならばいつもお邪魔してばかりだからたまには場所を変えてみるのもいいだろうと俺は長門を自転車の後ろに乗せて駅前まで足を伸ばした。どこかにのんびり話が出来る場所が無いかと探していたのだが、結局SOS団の頃から良く使っている喫茶店に落ち着いてしまった。もっと別の場所は無かったのかと思いながらも、下手に気の利いたところへこいつと一緒に入ってもさらに気まずくなるだけだと思うし、妥当な線か。
「現在、向こうは閉塞的かつ膠着状態に陥っている可能性が高い。それが何故なのかは分からないが、時期的前後から考えるとあの隕石が関係あると考えていい」
「ってことはやっぱりあの宇宙人どもの仲間だったってことか」
「それは違う」
 隕石が落ちた後からおかしくなっているとするなら、それが1番自然な考え方ではないのか?
「あなたが言っていることが正しいのならば、その生命体はあなたを部屋に留めておくはず。そのための閉鎖空間を発生させることも出来る能力は持っている」
 言われてみれば、逃がす意味は無いのか。
 だが中に入られたら困るから早々に退場願いたかったとかいう可能性は無いか?
 もしそう思っていても長門と同じスペックならばあの無表情を貫くことは簡単だろう。割と最近顔色というか言いたそうなことは分かってきたが、自分で無表情を意識して作られたらまず思考を読み取ることは不可能だろう。
 俺の言葉に再び首を振る長門。
「あなたを追いかけていた警察官に突き出しても結果は同じ、学校を追い出すことが出来る。あなたを逃がす理由にはならない」
「あ、そうか」
 となればやっぱり俺を本気で逃がしてくれたってことになるのか。やっぱり理由が分からん。長門が言うように俺を警官に突き出した方があっちにとっては都合が良かったんじゃないのか?
 無表情の長門を前に1人で首を傾げていると、背後で「いらっしゃ……あっ」という戸惑ったフロアスタッフの声が聞こえてから、
「みっけた!」
 聞きなれて、聞きたくない声が背後から聞こえてきた。振り返る必要もない。そいつはすぐに俺の前へ回り込み、机の上に両手を置いて言ったからな。
「あんたたち何してんの?」
「そっちこそ何してるんだよ」
「質問で質問に答えないの。先にあんたたちから言いなさい」
 と言われてもなあ。こいつに話せないから場所を変えたり、長門の家で話をしたりしていたんだし。
 仕方が無い。適当にごまかそう。
「そこで会ったんだよ。学校無くて暇だから駅前まで来てぶらぶらしてたら、同じように暇そうな長門を見つけた。んで喉も渇いてたからここに入った。そんだけだ」
「…………ふうん」
 俺と長門をジト目で交互に見てから心底不満そうな声を腹から出してから勝手に俺のコーヒーを飲み干して言った。
「まあいいわ。あんたたち今暇?」
 自分が何してたのかは言わないのかよ。
「してたんじゃなくて今からするの」
「今から?」
 また妙な思いつきに参加させられるのか。俺も随分と運が無い奴だな。こんなことなら素直に長門の家へお邪魔しておくべきだった。
 今更こんなことを思っても仕方が無いのは言うまでもなく、俺は不承不承尋ねた。
「どこへ行くんだ」
「それは行ってからのお楽しみ」
 楽しみなんかじゃねえよ、お前が連れて行くようなところで期待なんぞ出来る場所なんか今までに1度たりとも無かったぞ。場所が良くても大抵俺の奢りにさせられてるから良い思い出なんてのも残ってないし。
「とにかくつべこべ言わずについてきなさい。別に取って食われる場所なんかじゃないんだし」
 当たり前だろ。そんなところ行くなら俺は全力で逃げるぞ。もちろん長門の手を引いてな。行きたいなら1人で行け、1人で。
 強引に喫茶店を退去させられ(もちろんちゃんとお金は払ったぞ)、俺と長門はどこだか知らないところへハルヒに誘われつつ移動する。大分前のいかにもなトンネルと同じように心霊スポットか、はたまた宇宙人を呼ぶ地上絵を描く場所へか。ハルヒが連れて行きそうな場所といえばそんなところしか思いつかない。
 迷いなく進むハルヒについていくが、一向に寂れたところへ入り込む様子はない。1度だけ裏路地に入ったと思ったらただのショートカットだったし。一体どんなところへ連れて行こうというのだろうかとさらに不安の嵩が増してきたところで、ようやくハルヒは足を止めて満面の笑みで振り返って言った。
「さあ、到着よ!」
 ……なるほど。思ったよりはまともだな。