二人でそうこうしながらウィンドウショッピングを、半ば強引ながらも楽しんでいるつもりになっていると、どのくらいからだろうか、気づいたのが遅かっただけで、実はだいぶ前からだったのかもしれないが、非常に強い、それも怨念に近いような視線を背後からひしひしと感じるようになった。この視線は、誤って直視したりすると、その場で石化するラミアみたく石化しそうで、下手をすると人をも殺せそうな鋭さを持ち、恐る恐る振り返ったときには、俺の視線の先にその放射性物質でも抱え込んでそうな瞳に出会わずに安堵した。多分向こうが隠れたんだと思う。
 正直、これは気にしてはいけない類のものだろうとは本能が告げている。そして、その発信源もなんとなく想像はつく。
 あいつには今日のこと、教えてないはずだし、まず昨日の今日だ、知っている人間が居る方がおかしいはずなんだが。妹にも気づかれないように、今日出てくるときはごく自然に「ちょっと本を買いにいってくる」と、至ってシンプルにかつ爽やかに挨拶して出てきた。おかしい、なぜだ。
 長門は気づいていないのか、はたまた気づいていて無視をしているのか、それとも何か完全に雑念的外界的要因を排除する方法を持ち合わせているのか、今回も俺の想像の域を超越していてさっぱり理解はできんが、相変わらずの沈黙のまま俺の隣を歩いている。
 時折立ち止まって、辺りを見回しては店を指差しこちらを見、二人で店に入るというパターンを繰り返していたが、長門はこれといって何か一つに興味を示す様子はない。どちらかというと「まあ入ってみるか」程度の感じで、最初の言葉通りにウィンドウショッピングだけを楽しんでいる風でもある。
 まあそうこうしているうちに、こちらとしてはせっかく長門との、デートと言えるかは分からんが、長門と二人だけで歩いているという稀有な機会だ、何か買ってやってもバチは当たらないだろうと思い始めた。なんといってもいつも世話になっているし。
 しかし、何かをプレゼントするといっても、あいにく長門といえば、「元眼鏡」「本」「学生服」といったものしか連想ゲームでは思いつかず、かといって何か食べるものというのはどっかの旅行みやげでもあるまいし、あまり好ましいと思えない。やっぱり何か形に残るものがいいよな。
 じゃあ置物はどうか?それこそ土産に貰って一番困るものナンバー1だろう。木彫りの熊でも貰ってみろ、ごみに捨てるわけにもいかないし、かといって飾るにも気が進まない。
 なら時計だ。…いや、待てよ。あの殺風景なところに、そうだなこたつの上でも、ちょこんと可愛い犬猫のような動物のカラフルな時計を置いたところを想像する。あわねえ、絶対にあわねえ。
「どうしたの」
「いや、なんでもないぞ」
 こちらを見ていた静かな目にそう返したが、その表情を作らない顔を見て、そうだな、アクセサリーなんかいいかもしれん、と思った。長門はそういうアクセサリー類は疎そうだし、一つとして持っていそうではない。オシャレにはもってこいだし、長門に結構似合いそうなものもある気がして、我ながらなかなかいい案だと自賛してみた。
「長門、やっぱりなんでもあった」
「?」
 まあ、疑問符で返すのも分かる気がする。
「せっかくだから何かアクセサリーを買ってやろう」
 何がせっかくなのかは自分でも良く分からなかったが、長門は俺の言葉から刹那の思考の後、「分かった」と頷いた。
 …とは言ったものの、どこの何がいいかまでは決めてなかった。長門は何か欲しいものが決まってるか?
 首を横に往復させる。だったら、と一番近くにある貴金属店に入る。深く悩んでも始まらない、アグレッシブに行動すべし。
 ずらりと並んだアクセサリの値札を見ると、正直目玉が飛び出るという表現が正しくなるくらいに高いものが多く、少し多めに持ってきて正解だったなと溜め息を漏らした。
 長門はネックレスやペンダント、ブレスレットなどを順々に周り、イヤリングが展示されているところで動きを止めた。イヤリングか、いいかもしれないな。備え付けの鏡の前で、いろいろなイヤリングを耳につけてみては確認していたが、途中でそれをやめ、こちらを見て、いつも通りの平坦な声でこう言った。
「あなたが決めて」
 俺が決めていいのか?
「そう」
 そうすると、少し懐に優しいものを選んでしまいそうで、だからといってあまりに安すぎるのはなんとなくプライドみたいなものでためらわれる。
 もう一度長門の服を頭からつま先まで見てみて、そうだな、ちょっとやわらかい感じの色がいいかもしれないなと、ピンクパールをあしらった銀色の三日月形のイヤリングを長門に手渡してみる。「これを付けてみてくれ」
 こくんと首肯し、鏡を見ながら自分の耳にイヤリングを付ける長門。しばらくして満足がいったのか、こっちを見る長門の耳に揺れるイヤリングは、自分の見立ての割に変に自己主張せず、かといって控えすぎもせず、ほどよい存在感で似合っていると思う。
「似合うぞ」
「そう」
 さすがにそのままはまずいので、一度イヤリングを元に戻し、会計を済ませて店を出る。
「今度はあなたが付けて」
 人通りが多い中での長門の提案は、非常に恥ずかしいものだったが、今日は長門のわがままを聞く日だ、袋から取り出したイヤリングを長門につけてやる。うむ、やはりよく似合っていると思う。
「そう」
 短く言ったその感想は、今までみたいな淡々としたものではなく、少しだけ嬉しそうだった。そう、思った。
 ちなみに、イヤリングをつけてやっている間、殺人的視線の強度が3割増くらいになっていたのは、まあなかったことにしておこう。