『やられました』
それだけしか書いてなかった。もちろん題名も白紙。時間が無くてそれだけしか送れなかったという雰囲気を醸し出している。
朝比奈さんたちのときだって少しの間は電話が掛かったんだからとすぐに折り返しで電話を掛けてみるが、通じたと思ったら無音で迎えられただけだった。鶴屋さんと話をしてて突然電波状況が悪くなった後と同じ状態。まさかあいつも別の空間に放り出されたのか。
ありえないとは言い切れないよな。実際になっている人間が居るんだから。
しかし長門が言ってた通りになっちまったな。俺よりも先に古泉が巻き込まれた。
だがあいつは新川さんとか森さんたちと一緒だったんじゃないのか? まさか全員まとめて隔離されちまったということだろうか。
朝比奈さんと鶴屋さんだってそんじょそこらにいるただの女子高生ではなかったが、不意打ちに近い形であっという間に捕まったらしいし、あいつが所属している機関とやらがどういう集団なのかは未ださっぱり分からんが、ある程度まとまって別世界というか別空間へ閉じ込められる可能性も十分考えられるか。
「時間が無い」
「確かにな」
他の人まで巻き込まれているのかは分からないが、このままだと俺たちも見慣れた景色なのに人が消え去った世界を体験することになっちまう。既に似たような経験をした覚えがあるが、慣れるもんでもないしな。
俺だけならまだしも、長門まで同じ状況に陥ったらもう手の打ち様がなくなる。いや、あるかもしれないが現状よりも手間が掛かるようになるかもしれない。せっかくまだこっちに居るのだ。できるだけ向こうに行く前に救い出す方法を見つけておきたい。
フェンスを登って隕石が落ちてから3度目の学校内侵入。さすがにもう手馴れたものだ。だからといって長門みたいにフェンスの1番上から飛び降りるなんてことはしないがね。
「さて、中に入ったはいいが今からどうする?」
「行動の原因を調べる。それと一連の元凶であるのかどうか」
長門が言いながら移動を始める。確かにここで話すことじゃないな。まずはある程度身を隠せる場所を探してからにしよう。
いっそのことまずは校舎内に隠れてみるのはどうだと言ってみたが長門に一蹴された。
「相手の動作が観察できる距離でなければ意味が無い」
おっしゃるとおりで。
ハルヒと3人でここに入ったときは隕石の写真を取り、その欠片を撮るということを目的としていたから、他の人間から姿を見られないことを前提に持ってきていた。
だが今回は姿を隠すのではなくてあの銀色生物が何をしようとしているか、何をしていたのかを探り出すのが目的だ。校舎内まで入ってしまっては確かに無意味だ。できれば相手の行動と同時に何を喋っているかまでを聞ければいいのだが、そのためにはかなり接近しなければならない。朝比奈さんと鶴屋さん、そしてさっきおそらく同様の状況に陥っちまったと思われる古泉の救出ということも重大な目的まで含んでいる。奴らがもし主犯だとしたら、ただ捕まえるだけでは意味が無い。どうやって朝比奈さんたちを助けるのかまで聞き出す必要があるわけだ。
もちろん俺は何を喋っているかなんてのは全く分からないから長門が解読してくれるのをただ聞くしかないし、そうそう都合よくその話をするとは限らないが、それでも穏便に進められればそれほど楽なことは無いもんな。捕まえてからおとなしく喋ってくれるならいいが、無言を貫かれたりしたらそれだけ救出が遅れるのだ。こちらとしてはできるだけそういう事態は避けたい。
隕石を中心に入ったフェンス側から180度逆の位置まで移動すると隕石の近くに明かりをつけて何やら2人というか2体? の宇宙人らしい宇宙人が立っているのが見えた。
気になっていたんだが、奴らはあそこで何をやっているんだろう。地質調査、なわけがないし。外の風に当たりたくなったとかいうわけでもないと思う。
その前にあいつらって普段どこに居るんだ? 校舎内に入っているのならそれらしい行動をこの3回のうちに1回くらいは見ていそうなものだが無かったぞ。
隕石の内部が空洞になってるとか。だがそれなら食事とかはどうするのか分からないな。食事自体するのかも知らないけれども、睡眠を欲しない長門でさえ食事は取るんだからやっぱりエネルギー源として食事はすると思うんだが。
そんなことはさておき、前に侵入したときは遠すぎてさすがに声が聞きとれなかったらしいから、前よりは近づかなきゃいけない。けれども既に暗いから懐中電灯は欠かせない。どうしたものか。
「明かりを消して私が近づく。あなたは待ってて」
そうするしかないか。足元が暗くても長門1人なら平気で進んでいく。足手まといにならないように離れたところに居た方がいいに違いない。
茂みの陰に俺は隠れて長門の背を見送った。
思っていたよりも転機はすぐに来た。
ドンという低い、腹に響くような音がした後に走る音が聞こえ、さらに金属ではない何かがぶつかり合う音が聞こえてきて、じきにまた無音になった。な、なんだ?
嫌な予感しかしないが恐る恐る顔を茂みから出す。設置された明かりの傍に誰かが倒れている。顔までは暗がりだから分からないが、その服装を見て俺は走り出していた。
「長門!」