そろそろ12時を超えるし、飯にするか。特に考えてなかったが…そこらへんのファストフードでも入るか?
…今日の長門とは心の通じ合いがないらしい。首を左右に振った長門。なら、長門が決めてくれ。
長門が指差したのは、喫茶店。あそこでいいのか?
「そう」
扉に付いているベルを鳴らして入店した俺達は、窓際の席を選んで座った。水をホールスタッフが持ってきて、「注文がお決まりになりましたら、声をお掛けください」とメニューを置いていく。
と、その後にカランカランと音がなって、「いらっしゃい……ませ」と戸惑った声が聞こえた。振り向いて見ると、何やら怪しい集団がこそこそと端の席に座った。それは男女合わせて6人の組で、こちらから隠れるようにホールスタッフが持ってきたメニューを立てて見始めた。
しかしだね、見覚えのある黄色のリボン、緑色のロング、ショートカットの茶髪と、明らかに誰が来たのかはよく分かっている。監視ということか、全く暇人だな。
まあいい、ここは無視しておくに限る。何を注文するかな。時間が時間のため、手ごろな価格のランチメニューが並んでいた。
ああ、長門。飯も奢ってやるから気にするなよ。
「…そう」
このクラブハウスサンドイッチとかおいしそうだな。少々高めだが、ボリュームはありそうだし。
長門はどうだ、決まったか?
「決まった」
じゃあ呼ぶぞ。すみません、注文お願いします。
「はい、お伺いします」
注文表とボールペンを持ってきたホールスタッフに「クラブハウスサンドイッチとブラックのコーヒー」と告げると、長門に注文を促す。
「レディースセットをダージリンで」
「はい、かしこまりました」
一礼して厨房の方へ注文を伝えに行くのを横目に、長門に聞く。
「レディースセット?」
メニュー欄には無かった気がするが。
「これ」
長門が見せてくれたのは、基本のメニューとは別の紙。「レディースセット」という名前の下に、サンドイッチと紅茶、デザートがついたセットメニューの写真が貼ってある。彩りよいサンドイッチと、創作デザートに紅茶が数種類から選べるというやつらしい。
しかし、これだけじゃさすがに足りないと思うんだがな。
「大丈夫」
そうかね。
長門から視線をはずし、さっきの集団に目を向けると、「あっ」という声と共に全員がばっとそっぽを向く。いや、もうバレてるんだけどな。気にしないように、とは思うんだが、こう、興味とか怒りとかが混ざりに混ざってなんだかよく分からない視線の束が、ずっと斜め後方からじとじとと梅雨空レベルの不快感を与えてくるせいで、完全に無視できない。ものすごく気になる。
長門の方は長門の方で、こっちをじっと見つめているし、見つめあうのも気恥ずかしいわけで、俺の視線はどこにやればいいんだろうかね。結局、注文したメニューが来るまで、俺は窓から見ても何の面白みもない人と車の流れを見ていた。
しばらくして、クラブハウスサンドイッチとコーヒー、その後にすぐレディースセットをお盆に載せたホールスタッフがやってきて、「ご注文の品は以上でお揃いでしょうか?」という言葉に俺が頷くと、「それではごゆっくり」と下がっていった。んじゃ、食うか。
クラブハウスサンドイッチは写真がなかったが、思った以上のボリュームで、1つでそこそこ満腹感を感じられるくらいだった。対象的に、長門の頼んだレディースセットのサンドイッチは小さく、長門の食事ペースではすぐ食べ終わってしまうくらいで、それは俺が注文したサンドイッチのハーフカットを食べ終わるか終わらないかくらいの時間だった。長門、食べるペース早いな。
俺がクラブハウスサンドイッチを食べ終わって、コーヒーを飲んでいると。
小さく腹がなった。いや、俺ではない。
「…長門」
「何」
「足りないならまだ頼んでもいいんだぞ」
「いい」
何か意地でもあるんだろうか。分からん、さっぱり分からん。
このまま店を出てもいいが、空腹のまま連れ歩くのも可愛そうだ。
「あー、そうだな。俺はもう少し腹が減ってるんだ。しかし、もう一度さっきのを一人で頼むにはちょっと量が多い。長門、半分食べるか?」
躊躇し、思考し、考え抜いた後、
「…食べる」
と一言。素直にそう言えばいいと思うんだが。本当に、今日の長門は何かおかしい。