昼間なので基本的に懐中電灯も必要ないし、ここまで来ることを考えていなかったから持ってきてもいなかったが、日陰になる部分はやっぱり見づらい。なんといっても隕石自体が随分でかいから、日陰になる部分も必然的に大きくなるからな。
仕方が無いので見えないところは手探りで窪みが無いか確認する。が、そんなものがあるとはやっぱり思えず、その予想が裏切られることなく隕石周りを1周してしまった。
「やっぱり無いわね……」
歯噛みしながらハルヒは隕石を睨みつける。
「他に何か無いの?」
「何かって何だ」
「この隕石の中に入る方法よ」
そもそも中が空洞かどうかも分からんだろうに。
「ってその前に宇宙人がこの中に入って来たって考えてるのか、お前は」
「本気じゃないけどね。そっちの方がおもしろいじゃない。隕石に擬態した宇宙船とか」
そりゃ面白いかもしれないが。
呆れながらポケットに両手を入れて、そこに入っているものを思い出した。
「そういやハルヒ」
「何よ」
「お前、俺にこの隕石の欠片をくれたよな」
「そうだけど、まさか無くしたの?」
恨めしそうに俺を睨むハルヒ。
「ちゃんと今も持ってる。そうじゃなくてだな、この隕石の欠片を洗ったときに石鹸とか使ったか?」
「は?」
「汚れを落とすために風呂で洗ったんだろ? そのときに何か洗剤みたいなものを使ったかって聞いてるんだが」
「使ってないけど」
使ってない?
俺は首を捻った。洗ったっていうからてっきり洗剤を付けて洗ったものだとばかり思っていた。洗剤の中に入っている界面活性剤とかそんな感じの成分が隕石を割る原因になったんじゃなかったのか。
まさか破片が小さかったからハルヒの力でも壊れたとかいうのか。それならそれで納得せざるを得なくなるが、この隕石を追い出すというかぶっ壊す方法がそれこそメガトン級の力でないと無理だということになる。とりあえず洗剤探しの旅に出なくて済んだのだけは良かったと言っていいかもしれん。
「なんでそんなこと聞くわけ? 何かあるならはっきり言いなさいよ」
そうだな、別にこれくらいのことはハルヒに言っても問題は無いか。むしろこいつの方がこの隕石をどうにか退けるまたは破壊する方法を思いつくかもしれないし。
隕石が壊れた原因について簡単に俺が考えていることを言ってみるとハルヒは少し考え込んで、
「そういえば確かに妙な話よね。何が原因だったのかしら」
「手洗いしたのか?」
「そうよ。シャワー使って手で軽く擦っただけ。表面についてる泥を落とそうって思ってただけで、別に表面をつるつるに磨こうなんてことも思わなかったし」
んーと空を仰いでからハルヒは自信なさげに言った。
「お湯を使ったのが原因とか?」
水が駄目でお湯が大丈夫なんてことがあるんだろうか。
「分からないけど、お湯を用意してみるしかないわね。あ、それとちょっと大きめの隕石の欠片と。もう今の小さすぎるからこれ以上割れると保存するの大変だし」
足元から新たな隕石の欠片を探し始めるハルヒ。
「用意するって……どこでだ?」
「部室にカセットコンロあったでしょ。あれ使えばお湯くらいすぐに沸くわ」
お前、この隕石にそんなカセットコンロを火に掛けてできたお湯をこの隕石の上からぶっかけるつもりかよ。時間掛かりすぎだろ。
「何言ってるのよ。あんたこれ壊すつもりだったの? やめときなさい。もし壊したなんてことがバレたら警察に捕まるわよ」
「そりゃ分かってるが」
長門から来たメッセージから考えると、長門たちを助けるにはこれをぶっ壊すしか無いはず。
「とにかくまず部室まで行ってみましょ」
「つっても部室の前に校舎内入れるのか?」
さっさと歩き出すハルヒについていきながら、俺は当然の疑問を投げかける。
「どこかにあるでしょ。どこか1つくらいは鍵掛け忘れた窓がありそうなものだし」
いい加減だな。やってみてから考えればいいというところがハルヒらしいというか。
しかしハルヒが言うことは大抵当たっちまうんだよな。
1階男子トイレの窓の鍵が掛かっておらず、難なく侵入することが出来た。もしかするとハルヒが神様的な能力を遺憾なく発揮して開けちまったとか。古泉が言うにはここもハルヒの息が掛かった世界だとか言ってたし。
でもよく考えれば元の世界だってハルヒの都合のいいように世界が推移してたんだから、やっぱりここは元の世界なのか?
なんだか考えれば考えるほど良く分からなくなってきた。
部室の扉をハルヒが開けて中に入る。そういや部室に入るのも既に1ヶ月か2ヶ月かぶりくらいになるんだな。毎日入ってたから、たった1ヶ月しか入ってなかったのに1年ぶりくらいの懐かしさがある。
「あ、前買ってきた大福餅が既に賞味期限切れちゃってる」
そりゃ和菓子の大半は1ヶ月も持たんわな。
落ち着ける場所に来た途端に喉が渇いた。緑茶でも淹れるとするか。
「あたしの分も」
「味は保証しないぞ」
「みくるちゃんレベルなんかあんたに要求しないわよ」
「そりゃ助かるね」
ポットよりも時間的にカセットコンロのほうが早いだろうと、やかんで階下から水を汲んできて火に掛ける。ついでに隕石の欠片がお湯に弱いのかの確認にも使う。