とかなんとか思っていたら、
「やあ、おまたせ!」
 話題の人が訪れた。手にB5くらいの大きさの紙切れを持って。
「鶴屋さん、どこに行ってたの?」
「ちょろっとここのお偉いさんのとこにさっ。あ、それでこれを見てくれないかなっ」
 持っていた紙切れを差し出す鶴屋さん。俺たち全員が集まる。ハルヒが持ってくるチラシなんかでは大抵読んだ後に後悔するものばかりだから読む気がしないのだが、鶴屋さんが持ってきたものならまずそんなことは無いと思えるのは、やっぱり鶴屋さんの人柄のせいだろうな。
 紙にはパソコンで体裁を整えられた文字が躍っていた。
『緊急企画 ホテル内宝探しゲーム』
 他にも『豪華商品あり』とか『本日限定』とかそんなことが書いてある。
「こ、これなんですかぁ?」
 朝比奈さんがリスのような可愛さで首を傾げて質問をすると鶴屋さんは得意そうに答えた。
「こんな猛吹雪だと外に出られないし、お客さんたちもきっと暇だろうってここの偉い人が言っててさっ。ちょっとした余興をしようという話になったんだよっ」
 何をしに行ったのかと思っていたがこのためだったわけか。鶴屋さんのおじさんの知り合いがやってるって言ってたし、ここに来る前から知り合いだったのかもしれない。
 このホテルに泊まっている人は参加権があるらしい。ちなみに個人戦らしい。
「何が貰えるの?」
「んー、確かゲーム機とかここの宿泊優待券とかだったかなっ。ま、突発イベントだからあまり景品には期待しないで、とにかく楽しんでもらいたいって言ってたよ」
「おもしろそうね。ぜひ皆で参加しましょ!」
 ハルヒは参加する気満々のようだ。ま、こうやって鶴屋さんが話を持ってきたということからして、参加してもらいたいと思っているんだろうからむしろハルヒが乗り気なのはいいことなのかもしれない。
 しかしながら実のところはさっき古泉とした閉鎖空間までの時間稼ぎのためのイベントなんだろうと思う。個人戦にしたのもそれぞれバラバラに動けるようにとの配慮からだろう。ビンゴゲームとかならまだしも、こういうゲームは団体戦の方が楽だろうし、情報共有した方が探しやすいからとすぐに集団化するものだろうから、個人戦よりも部屋ごとなんかで団体戦にするものだと思うし。
「細かいルール説明は午後2時から1階フロント前でするって書いてあるわね」
 チラシを1番間近で見ていた朝倉が開催時刻を指差して言う。
「今は1時半過ぎたところだし、ちょっと早いけどそろそろ向こうに行った方がいいかしら。結構人集まりそうだから、後から行ったら離れた場所でゲームの進行について聞かなきゃいけないかもしれないし、そんなことで聞き漏らしなんかがあったらせっかくの景品をみすみす逃すことになるわ。先んずれば人を制すって言うし」
 それにしたって早すぎだとは思うが、止める前にハルヒは足取り軽く部屋を出て行ってしまった。仕方ねえ、追いかけるとするか。
 笑顔の鶴屋さんが古泉を呼び止めた。
「古泉くん、だっけ。うちのフロントに言ってくれれば裏口から出られるように頼んでおいたよ」
「恩に着ます」
「いやいや、いいのさ。それより気をつけなよ。さっきあたしもちょいと外へ出てみたけど、視界のほとんどが真っ白だからすぐに方向感覚が無くなると思うしっ。防寒着とかも貸すから、ちゃんと帰ってくるんだよ」
「ええ、もちろんです」
 やっぱりそういうことらしい。
「でも本当にしばらく大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよっ。全体的に問題も難解にしておいたし、最後たどり着かなきゃいけない場所に行くまでに数段階踏まなきゃいけないようにしてあるから、万が一最初の方の問題があっさり突破されちゃっても実際の移動とかで時間が掛かるからそう簡単に終わらないよ」
 ついでにと鶴屋さんがばらしたことには、今日ここに泊まっている人の半数くらいがここの支配人の知り合いであり、鶴屋さんと同じで常人にあらずといった立場に居る人間だそうだから、最初から解く気が無いんだと。ってことはここの支配人も鶴屋さんと同じ異世界人ってことか?
 とにかくそんなこんなでこのイベントは最低でも1時間は掛かるとみていいそうだ。
「それくらいあれば神人との戦いも終えることが出来るでしょう。ただし出る数にも依りますが」
「ま、帰ってこなければ表彰式なんかをあえて大掛かりにやったりして時間を稼ぐよっ。いざとなればその手伝いで裏方に回ってるなんてことにすればハルにゃんも納得してくれるんじゃないかなっ」
 もしそうするのでしたら俺も行かなきゃいけなくなりそうですね。ハルヒが知ったら「雑用係のキョンが何もしてなくて、副部長の古泉君が働いてるなんてどういうことなの!」と目を吊り上げて言われるだろうからな。
「あっはっは、それはそうかもしんないね。じゃあそんときはお願いできるかなっ?」
「もちろんですよ」
 世界が掛かっているのならそれくらいはお安い御用だ。
 そんなことをしていたらハルヒが戻ってきて、部屋を覗き込んで言った。
「ほら、早くしないと人多くなって良い場所取れないわよ! 有希たちも本ばっかり読んでないで、たまにはこういうのに積極的に参加するの」
「……分かった」
 再び引っ込んだハルヒを追いかけるようにして、俺たちは階下へと向かった。