朝の天気予報は晴れ。確かに家を出たときから雲1つない快晴だった。
 だが俺の右手に傘、そして鞄には折り畳み傘。もちろん、長門に返す為だ。
 しかし良く考えれば毎日こうやって折り畳み傘を持ってくれば、雨が降ろうがなんだろうが問題ない。いくらなんでもこれだけ晴れてたら降りはしないだろうけどさ。
 教室に入ると既にハルヒは自分の席でぼんやりと空を眺めていた。そろそろ窓際の席、それも最後方には飽きつつあるのだが、残念なことにこれから先もここが定位置になりそうだという容易に予想できるが、そろそろ席を替わってもいい頃だと思う。一部では呪いか何かでも掛かってるんじゃないかって噂が流れているらしい。谷口談、だが。あながち嘘でもなさそうないんだよなあ。呪いとはまた違うけどさ。
 自分の席に座ると向こうから話掛けてきた。
「今日雨なんて言ってたっけ?」
「いや、昨日雨が降ったときに長門が貸してくれたから返そうと思って持ってきた」
「ふうん。あれ、でも雨降り始めたのって5時半過ぎじゃなかった?」
「家に帰っても妹がチャンネルの選択権を握っているし、やることが無いから部室に行ったら長門と実希が居たから、ついでに昼寝をさせてもらった」
「なるほどね。でも有希たちって家に帰っても変わらないんじゃないの? 部室で読まなきゃいけない理由でもあるのかしらね」
「知らん」
 あいつらが居た理由は俺には関係ないだろうし、聞く気も無い。SON組の組長であるという立場上の責任感かもしれないし、俺の思考を読み取って昼寝をする場所を提供しているのかもしれない。後者はありえないと思いたいところだが、長門がそれくらいできたとしても俺はちっとも驚かないね。
「それより昨日の収穫はどうだったんだ?」
 俺の言葉に溜め息で返すハルヒ。それだけで大方結果は予想できた。
「昨日結構探し回ったけどそれらしい店は見当たらなかったわ。仕方が無いから今日も回ってみるつもりで、部活はおやすみってことで」
「うちの部に休みは無いんじゃなかったのか?」
「必要なときは休むべきだから休むだけ。っていうか休みっていってもこれはある意味で部活なのよ。ああいう奇妙なところには実は宇宙人が使っていたUFOの破片とか、そういうのが残っている可能性があるわ」
 そんなものを置いといて誰が買うんだか。本物である確率は低いし、もし本物であるとするならばとてつもない重要物件であることになる。リサイクルショップがそんなものを持っていたとしたら売りさばくとは思えないし、売ってても到底買えない様な値段で置いてあるに違いない。
 俺の言葉にハルヒは呆れたように笑い、さっきと違う意味で溜め息をついた。
「馬鹿ね。本人が気づいているわけないでしょ。気づかないけど実はってのを探すのよ」
「……どんなのか分かってるのか」
「見れば分かるわよ。絶対そういうのは怪しいから」
 こいつの怪しいは怪しくなくても、自分の都合がいいように怪しいように見えてきてしまうのだから当てにならない。そしてそれがごくたまに本物でした、なんて展開があったりするからタチが悪い。そんな奇天烈なギャグは想像の世界だけでいいんだよ。
 とにかくそんな調子で今日も部活は無し。朝倉には自分から伝えたようで、クラスメイトと一緒に帰るそうだから部室には行かないそうだ。
 トイレに行ったとき古泉に、廊下でたまたまあったときに長門へ。実希にも伝えるように頼んでおいたが、また今日も部室で読書するそうだから、傘は部室で渡してくれとのこと。ま、別にいいがなんで部室に行くんだろうな。自室よりも好きなのか。
 最後に部室で昼食を取っていたときに朝比奈さんと鶴屋さんにとそれぞれ説明という責務を果たして放課後。
 部活も無いのにまた2人は本を読んでいて、しかし背表紙が英語のゴツい装飾がされている本を開いている長門と、文庫本に分類される薄めの本を開く実希という妙なコントラストだった。結構実希はライトノベルみたいなのばかり読んでいる気がするが、長門みたいな厚モノは嫌いなのか。
「そうでもないですよ」
 ずり落ちかけた眼鏡の位置を人差し指の背で正してから答える。
「家でもよく読みます。ただし重いのであまり持ち運びたくないのと、大元の情報統合思念体に私たちが得た情報は須らく蓄積されていくので、同じ本を読むよりも違う本を読んだ方が効率がいいんです。それに私は基本、人間の行動や思考のパターン、知的生命体故に持つ情報の収集が最大の目的ですから」
 そういやお前は人間っぽすぎて忘れてたが、たまに商店街とか人間の観察をしているみたいなことを言っていたっけ。だからこそ、これだけの人間臭さというものを遺憾なく発揮していると言えるかもしれん。
 やることも無いがまだ帰る気も無い俺は昨日に引き続き昼寝を開始し、その間に雲行きが怪しくなってきたということに気づかずに、再び起きるきっかけになったのは雨音だった。いい加減、雨ばっかりってのもやめてもらいたいんだが。
 天気予報は晴れの降水確率10%だと言っていたはずなのに、こりゃ酷い雨だな。0%じゃなかったから嘘ではないのかもしれないが、それにしたってこれは差がありすぎじゃないのか。
「今日は私も傘持って来てないです」
「大丈夫だ。折り畳み傘を持ってきた」
 ある意味ではお返しみたいな状況になったな。昨日長門が俺に傘を貸してくれたからこそ、長門に返せたって。まあだからなんだと言えばそれまでだが。
 いや、でも長門って未来を予知とか出来たはずだ。文化祭のときにそれっぽいことをしていたもんな。だから結局長門なら今日の雨も予想して傘を持ってくる。お返しでも何でもないか。
 何にしても天気予報なんて当てにしないようにしよう。少なくともしばらくは。
 そんなことを思いながら鞄の奥に仕舞っておいた折り畳み傘を取り出した。