町の外を歩き回って手に入った館に関する情報は、この辺りにそれらしい館があるという話を小耳に挟んだというものくらい。バーさんの息子らしき人物の情報も残念ながら同等の不確定的情報だけで、しかもそれからどこへ行ったか、そもそもその人物が本当にバーさんが探している息子さんなのかすら分からない。その他に役立ちそうな情報といえばこの近くにもう1つ小さな村があるということか。
「うーん……なんかイマイチね。こういうところではもっと情報があっていいのに」
 確かに思ったより情報が少ないな。これくらい大きい町ならばどうでもいい世間話からゲーム上で有効な情報まで玉石混交になっているものだと思うのだが。早々とそういう情報を手に入れないようにシステムがなってるのかもしれん。最初からいろいろ分かっちまうと面白みが無いといわれれば確かにそうなのかもしれないが、ここまで何も分からないのもどうかと思う。
 落胆していても仕方が無い。目的が無いのなら無理やり作ればいいじゃない、とでも言いたげなハルヒは意気揚々とまではいかないが、さっそく気分を切り替え乗りたがっていた帆船の方へ再び戻る。情報収集のときに船員らしき人物を発見していたから、おそらくその人に船の搭乗手続きを頼めるだろうとふんでいたのだが。
「残念だが今日は船が出せないな」
「何故?」
「見ろ」
 がたいの良い男の船員がハルヒの親指くらいの太さの人差し指で沖合いを指した。そこにはいかにもその真下で雨と雷を発生させていそうなどんよりとした雲が海の上を広く覆っていた。
「風向きを考えれば午後から嵐になる。沖合いに出るのは危険だからな。本来ここに停泊している船もここに停泊するんじゃなく、あっちの町まで行くはずだったんだがあいにくのあの天候だ。大嵐になる前にここへ寄ったってわけだ」
 腕組して赤いバンダナを巻いた船員は眉をひそめる。
「最近やけに天候が悪いんだが……妙な噂が聞こえるようになってからこういうのが増えちまってなあ」
「妙な噂?」
「ちっと見る感じじゃ旅人っぽいな」
「そうだけど」
 旅人で正しいのか? なんか違う気がするけどな。まあいいか。
「それならお前さんも聞いたことあるだろう。妙な館がこの辺りに出てきてどうのって話だよ。あれが出始めたとかいう噂が聞こえ始めてから、普段地震など無いような場所で地震が起こったりしていてな。一部そんなの迷信だと言って聞かない奴も居るんだが……何にしてもいい迷惑だよ」
「そうなんですか」
「ま、悪いが嬢ちゃんたち、今日は宿屋でも泊まって明日来てくれないか。多分この風なら明日にゃあの嵐も抜けてるだろうからな」
 そういうことなら仕方が無いだろうよ。
 目配せするとハルヒが渋々ながら、朝比奈さん、長門は即座に頷いた。さすがにハルヒもこんなときに我が侭を通すほどの人間でなくて安心した。
「ま、1日くらいどうってことないわよね」
 宿屋に向かう途中でハルヒが負け惜しみみたいに言う。
「でもこうなるのが分かっていたら、こっちに来てから泊まれば良かったわね。1日勿体無かったわ。金貨だって無限じゃないんだし」
「そうですね」
 ハルヒの愚痴に朝比奈さんが頷く。始まりの村に戻ってから再び町へ戻ってきたときに俺と長門が入手してきたアイテムを売却したときの金貨があったが、ハルヒがこっちに来て新調したボウガン(古い方は俺が受け取った)とようやく変えてもらえた俺の長剣の代金、さらに回復アイテムを購入しておいたので残りが15枚しかない。情報収集のときに宿屋は1人につき金貨2枚って話だったから足りるのは足りるが、これ以上無駄遣いしている余裕は無い。
 宿屋へ入る前、酒場の目の前を通ったときに、突然建物の陰から身長が高いのと中肉中背な男が2人、前を遮った。頭に巻いたバンダナに、さっきターミナルから出た目の前に停泊中の船の帆に描かれていたドクロマークが描いてあるが、まさか海賊か? その割にはなんだか体が鍛えられてない感じが否めないのだが。
「何?」
「あ、あの……あたしたち宿屋に行きたいんですけど……」
 ハルヒと朝比奈さんを男2人は見てから、
「お前ら、さっき酒場でマスターに見慣れない館について話してただろ」
「だったら何?」
 けんか腰のハルヒをなだめつつ、俺は尋ねる。
「まさかその館について何か知ってるのか?」
「さあな」
 所帯じみている中肉中背の方の海賊? がニヤニヤ笑いながらこっちを見る。何をしたいのか良く分からんな。とりあえず何かあったときのために剣の柄に手を掛けておく。
「黙って金を出せば教えてやろう。そうだな……金貨30枚だ」
「30枚? ぼったくりもいいとこね」
 ぼったくりかどうかの前に、手持ちに金貨30枚とか無いぞ。
「そりゃしかたがねえな……ならば力ずくで奪わせてもらおうか。その辺の武器や防具を売りさばくだけでも――」
 武器を構え始めた海賊(仮)に俺もハルヒも武器を構え、朝比奈さんが俺たちの陰に隠れようとする前に、隣で聞きなれた真夜中の凪のように平坦な声が聞こえた。
「ぎゃああああ」
「有希ナイス!」
 気づけば既に長門が攻撃を仕掛けていた。なんというか……哀れだな、向こうも。