「いや、別に長剣とか両手剣にこだわりがあるというわけではないんだが」
「じゃあこの3つの中どれかから選べ」
 分かったから。顔が近い近い。
「そうだな……じゃあこの、なんだっけ、最後の……」
「グラディウスか?」
「ああ、そのグラディウス――」
 言いながら何気なく目をやった先に、整然と専用のスタンドに並べてある武器とは違い、ただ単に奥の壁に立てかけてあった武器があって、そこで言葉が止まった。
 収められている鞘は素直に言って綺麗ではない。それでも他の武器より興味が沸いたのは、それがいわゆる現実での刀と同等の形をしていて、一種の憧れみたいなものがあったからかもしれない。
「ん? ……ああ、あれは大分前襲ってきた海上保安船を返り討ちにしたときの戦利品の中に混ざってたものだな。かなり古い形だから実用には向かないだろうが、一応貰っておいた。なんとなく見た目がかっこいいと思うよな?」
 かっこよさだけで奪ってくるというのもどうなんだ。ってそれ以前に問題が多々あるんだけどさ。
「まさかあれを使いたいとか言うのか?」
「駄目か?」
「駄目ではないが、さっきから言っているだろいう。同じ種類の武器が備蓄されていなければ壊れたときに代用が無い分、またその武器にあった戦い方を覚えなければならない。それにあの武器はツーハンデッドだから盾は腕に装着するタイプのバックラー程度しかできないぞ。ついでに古いから切れ味も悪い」
「大丈夫だ」
「あたしと同じこっちだといざというときにも……」
「……」
「やれやれ」
 緩んだ笑顔でお手上げのポーズ。
「お前は思ったよりも強情なんだな。いいだろう、好きにしろ。処分に困っていた武器でもあるしな」
 海賊という肩書きとかそれに連なってたまにある一部の言動を除けば近所の優しい姉貴分みたいで現実にいてもなんらおかしくない人間だと思う。
 壁に立てかけてあった鞘に手を伸ばし、刀を引き抜いてみる。確かに昔は白銀とも言える色ではあったのかもしれないが、かなりの年月が経った上で海風に晒されたのか、かなり錆付いて全体的に茶色がかっている。
「手入れをしてやろうかと思ったんだが……他の剣とは違って片刃な上に材質も違うみたいだったからなかなか手を出せなくてそのまま放置してたんだ。さすがにそのまま使うのは難しいから、ここにあるものを適当に使って自分で研いでやれ」
「研ぎ方なんか知らないんだが」
「その武器についてはあたしもノータッチだからな、知らないぞ。ふふ、自分でそんな武器を選んだんだからそれくらい頑張れ」
 意地悪っぽく笑うシャーリー。なるほど、思ったよりあっさりと許可を出したのはそういう理由だったか。
 舵の交代を急がなきゃいけないからと、部屋をそそくさと出て行ってしまったシャーリー。困ったな。せめて他の武器の研ぎ方を教えてくれていれば、とは思うがシャーリーが手入れを放棄したくらいだから聞いても無駄な気はするな。
 その場に胡坐をかいて刀身を見る。特に銘が入っているというわけではないようだが、元の輝きを取り戻せれば使い物にはなるはずだ。両手持ちで盾が持てないというのは確かに厳しいが、船の外で受け取った長剣も片手で持つには大きすぎるから、結局両手持ちになってしまうもんな。これに変えたところで大して変わらない。
 ……せっかく港で新しい武器を貰ったのに1度も使うことなく放置するというのは些か勿体無いような気がするが、まあいいか。
 部屋の中で研ぐのに使えそうなものを思いつくままに持ってきたはいいが研ぎ方が分からず、途方に暮れながら刀とにらめっこしていると、扉が開いて無表情標準装備の宇宙人製アンドロイドがゆらりと現れた。
「舵取りしてたんだってな。お疲れ」
「構わない」
 首を振ってそう答えてから俺の手元にあるものへ視線を落とした。
「貰った武器なんだが、結構錆びててな。シャーリーは勝手にこの辺りにあるものを使っていいと言っていたが、そもそも刃物の研ぎ方なんて知らないから、どうしようか悩んでいたところだ」
「そう」
「……それで帰ってきて早々悪いんだが刀の研ぎ方を教えてくれないか?」
 さすがにやってくれとは言えないから方法とか、何を使うかくらい教えてもらえれば助かる。
「刀の手入れを行ったことはない」
「いくら長門でもそりゃそうだよな」
「また情報統合思念体との交信が行えないため、必要な情報を得ることが出来ない」
 ってことはあれか、この刀は使えないって事か。
「方法が無いわけではない」
「本当か?」
 頷かずに長門は俺をじっと見た。どうした?
「あなたが研ぐ」
 待て。いくらなんでもそれは無理じゃないか?
 なんたって包丁も研いだこと無いんだぞ。それにこういうものってただ単に素人が研ぎ石でゴリゴリと削るだけじゃなくて、ちゃんと専門の人に錆を落としてもらわなきゃいけないものだろうと思う。
 それを自分で研ぐというのはいくらなんでも無茶という話だ。
「問題は無い。ゲームシステム上に武器の錆びを表現する数値は存在しない」
 だから強制イベントできっと適当にやっても成功するだろうということだろうか。理解できない話ではないが、納得できない。
 けれどもじゃあその他に何か方法があるのかと言われてみれば、長門以上にこれを研げそうな人などいるわけが無いから他力本願も無理なわけで。
「やってみるか」
 腹を括って長門の監視の下、2人の勘だけを頼りに研ぎ始めた。