数時間後、携帯へハルヒからの連絡により、我が家に再集合。
 電話が掛かってきたときには既に雪像の製作は終了していたため、可及的速やかに家へ向かったはずなのだが、相変わらずの謎なんだよな、既に全員が門前に集合していて、俺はハルヒの「遅い!」という仏頂面を最後に見る人となった。
 遅い?お前達が早すぎるんだよ。そう言いたいところだが、こいつの言うことは絶対らしいからな、抗議したところで反省するどころか逆切れ、火に油と酒を同時に注ぐようなもんだ。沈黙は金なり。黙っているのが得策さ。
「一番遅かったんだから、ちゃんとまともなの作ってきたんでしょうね?」
「お前にとってまともかどうかは知らん。とりあえず、ファンタジーなのを作っておいた」
 つーか、お前が満足しそうなものと言われても全く想像つかん。満足しなかったら…そのときはそのときだ。
「じゃあまずは有希のから見せてもらうわ」
 こくりと一度頷いて持ってきたものは、両手に乗るくらいの雪玉。そういや、あの大きな雪玉はどうしたんだ?
 指差す先には、あれからまた一回りくらい大きくなっていて、塀で隠しきれるような大きさではなかった。って、作品はあれとは違うのか?
「違う」
「何これ。ただの雪玉じゃない。有希、ちゃんと目新しいものを作りなさいって言ったでしょ」
 無言で雪玉を二つに割った。いくらハルヒに言われたからとはいえ、破壊することは…。
「………」
 中から雪玉。なんだこれ。
 割っていくたびに一回り小さくなる雪玉。なんか見たことあるな、なんつったっけ。
「マトリョーシカ」
 ああ、それだそれ。あれは人形だった気がするが、それと似たようなもんだよな。
「確かに雪玉でこんなものを作る発想はしないわね。…でも何にもおもしろくないわ、却下」
 あっさりと却下確定したハルヒは、今度はターゲットを朝比奈さんに変えたようで、
「みくるちゃん、あなたは何作ったの?」
「え、えーと…」
 朝比奈さんの視界にはドアップのハルヒの顔が全面を覆っているだろうな、大接近したハルヒに、どもりながら朝比奈さんが答えたのは、
「妹ちゃんと雪…うさぎを作りました」
 一瞬硬直したハルヒ。まあ、その後の行動は分かっている。頬を両方にこれでもか!というくらいひっぱる。
「みーくーるーちゃーん!あたしは普通じゃないものを作りなさいって言ったのよ」
「ふ、ふひはへぇん」
「でも、うさぎさんがいっぱいなんだだよー」
 あのまま公園に作ったらしく、二人に連れられて来た所は、
「…うさぎだけの動物園でしょうか?」
 古泉の呟きに思わず頷いてしまいそうなくらいの数だった。ざっと見て、40匹は下らないだろう。もしかすると50匹くらいは作ってるんじゃないかね。
「えっと、数えて見ると68匹でした。ね?」
「ねー!」
 予想斜め上どころか、遙か上空をフライトしていた!
「こ、この数はさすがに…。まあ、妹ちゃんもがんばったみたいだし、許してあげるわ」
 何様なんだ、お前は。…ハルヒ様、はたまた超顧問様か。
 さて、次は古泉の雪像である。
「随分考えたんですが、全く思いつかなくて、こんなものを作ってみました」
 公園から少し離れた場所の林間にそれは佇んでいた。静かにこちらを見据える獲物を狙うような目、鋭い爪や牙、人間に体当たりしたら簡単に倒されそうな図体。
「…熊?」
 かなりリアルな熊である。人形とかと違って可愛げが全く無い。
「時間があまりなかったのでこれくらいしかできませんでしたが。本当はもうちょっとリアルに作りたかったものですね」
 十二分にリアルだぜ、これは。
「確かにこれは不思議も何でもないけど、これはこれですごいわ。ううん、こんな人里に熊が出るなんてニュースになるくらいのことだし、そういう意味では十分よ。古泉君、さすがね。あ、せっかくだから写真撮っておきましょ。有希、キョンの部屋に置いてきたデジカメ持ってきて」
「分かった」
「喜んで貰えて光栄です」
 自分で取りに行けよ。
「嫌よ、めんどくさい」
 だからといって同級生をパシリに使うなよ。
 長門が持ってきたデジカメでそれぞれ個人で作ったものと製作者を撮り、次は実希の作品。
「ヤギです」
 …ヤギ?
「ヤギです」
「ヤギはこんな捻じ曲がった角を持っていないぞ。この角は羊だろう」
 というかこんな綺麗な曲線よく作れたな、そっちに驚きだぜ。
「じゃあ羊でいいです」
 じゃあってなんだ、じゃあって。それにこんなに羊はこんなに長くて頑丈な足をしてない。カモシカくらい、
「じゃあカモシカでいいです」
 なんでもいいんじゃないか。
「ある意味でこれはすごいわね。世の中にある動物に居ない動物を作るなんて、実希、あなた実は天才じゃない?ロダンもびっくりよ!」
 これでロダンを超えてるんだったら、今までの彫刻家というか芸術家は何やってきたんだろうな。ハルヒの性格からして、普通じゃないものの方がいいんだから、この反応は当たり前か。
 実希の何だか分からないものと実希を写真に収め、次は朝倉の作品を見る。
「これよ」
 それは有名な大型のネズミだった!
「割と上手く出来たと思うわ」
 ああ、出来は最高だな。完全にそっくりだ。
 問題は、それを作っちまったことだ。
「で、こっちがそのガールフレンド?で、こっちが喋るアヒ、」
 やめてくれ、これ以上は著作権の問題上まずい。
「何よ、最近惑星の名前から除外された犬だって居るのに」
 とにかく、それ以上は危険すぎる。
「まあ、確かにこれもファンタジーよね」
 と言いつつ朝倉の力作と朝倉をパシャリと撮影した。ハルヒは満足そうにカメラを叩き、
「さあ、次はキョンのよ」
 ああ、そうだな。
「…何これ」
「まあ、ファンタジーにはありがちなものだな」
 地面に刺さった両刃剣、の雪像。ほら、よくゲームとかに「勇者にしか抜けない剣」とかいって、
「こんなありがちなファンタジーなんかいらないの。もっと目新しいもの作りなさいって言ったでしょ!」
 お前の趣味に合わせたところでまともなものができる気がしないから適当に作ったんだ、とは無理矢理開口されても言えないので、
「ファンタジーなのを想像したらこんなもんしかできなかったんだよ」
 と誤魔化す。まあ我ながらちょっと安直だというのは分かっているが。
「まあいいわ。あまり期待してなかったしね。じゃあキョンは横に立つんじゃなくて、その剣を引き抜こうとした格好で写真を撮りなさい」
 逆らわずに言う通りの格好でフラッシュを受ける。いい年して何してるんだろうね、俺は。
 それよりだ、散々偉そうなこと言ってたがお前は何か作ったのか?
「あったりまえよ。こっち来なさい」
 公園の一角にあった”それ”は何かの文字にも見えた。いや、きっと文字に違いない。自信は無いが。
「SON組エンブレムよ!」
 SOS団の時の、あのミミズがひからびる寸前に作ったダイイングメッセージみたいなのが、今度は立体化されてしまっていた。これはある意味放送禁止モノだぜ。
「どうよ!」
 だから鼻を鳴らしながらえばるなと。それも融けない雪で作ってあるもんだから、壊したりしなければ永久保存版になるわけだ。こんなもの置きっ放しじゃきっと苦情の嵐で警察まで出動することになりかねないな。
 唯一救いなのは、これが公園入ってすぐに目に付く場所にないこと。こんなものが公園のど真ん中に置いてあったりしたらと思うと、この場所で本当に良かった。
「じゃあ最後に、ここに全部運んでまとめて写真撮るわよ」
 ………はい?
 全員の個人撮影が終了してから、ハルヒが思わず耳を疑いたくなることを言いやがった。
「だから、全部雪像をここに運んで、みんなで写真を撮るのよ」
「待て、朝比奈さんや妹の雪うさぎや長門の雪玉マトリョーシカはいいとしよう。俺や古泉、朝倉、実希のはどうするんだ」
「あんたたちで運びなさい」
 なんという横暴か。
 結局その日は日が暮れるまで雪像運びをし、雲の切れ間から覗き出た夕焼けで真っ赤に雪が染まった頃、まだ雪が降っている中で三脚をどこから持ってきたのかは知らないが、みんなで写真を撮った。もちろんハルヒが中心でな。
 なんという大仕事を最後にさせるのかと抗議したいところだが、おもしろかったのは認めざるを得ないし、たまにはこういうのもありかなといつもよりは軽いため息を吐き、それぞれが帰途に就くのを見送った。