大雪を楽しんでいられたのは降り始めて数日、そうだな、大体雪像をみんなで作ってから3日くらいまでだった。融けない雪がここまで町中を混乱させるということは知らなかったのはハルヒだけでなく俺もだったらしい。
「雪は以前降り続いており、混乱はだんだん大きくなっています」
ニュースが淡々と告げる現状を聞いて、へえそうなんだ、と他人事に思うことはできない。何故か、それはあの長門や朝倉にとっては進化の可能性、朝比奈さん的には時間のゆがみ、古泉なんかは神なんていう一種の崇拝対象、鶴屋さんにしたって観察対象になってるあいつの気まぐれで起こったことだ。
で、元に直すにはどうするか。それは常日頃聞く耳持たない俺の言葉で、ハルヒをどうにか言いくるめてやるということらしい。なぜか誰に聞いても、俺がキーパーソンになんだと言いやがる。
何なんだろうなこの状況、さっぱり訳が分からない。分かることと言えば、このまま放っておいたらヤバいことになるってことだけだ。ホント、歩く災害発生機だよ、全く。
毎日のように粉雪が断続的に降り続け、それでも雪が融けないもんだから、1週間もするとハルヒや長門が巨大雪玉を作った我が家の前でさえ新しいアスファルトを2重3重にしたんじゃないかというくらいの厚さに踏み固められていて、もっと山の中の雪が強いところなんかだったらどうなるんだろうな、これ。
と思っていたら、古泉が言うに全国的に弱い粉雪しか降っていないらしい。最近行った温泉宿も雪が降ったらしいのだが、融けない雪のせいで温泉の中で雪かきをしなきゃいけないから大変だと言っていたとか。
まあつまり、北国で大雪になって即家が潰れるなんてことはないわけか。喜んでいいんだろうかねえ。
それにしても温泉の中で雪かき、かなりシュールな図だよな。世の中の物理法則から考えると絶対にありえない。
でもそれを現実化しちまうんだよ、自分では気づかないうちに。それが涼宮ハルヒというヤツだ。傍迷惑な能力を持ったもんだ。
さて、そのハルヒなんだが、今日は学校に居る。
「何よ、あんただって居るじゃない」
ごもっとも。俺も何故か学校に居る。もちろん、と言うのもなんだがSON組メンバー全員もだ。ちなみに、いつの間に持って帰ったのやら、朝比奈さんは既にメイド服着用である。散々朝比奈さんは抵抗したらしいが、「誰も見てないわよ!」という押しに負けて着替えたまま来たということだ。
この雪の中を学校まで歩けと言ったハルヒに頭痛を覚えたが、こいつはいつも至って本気なんだよな、誰一人として不満の声を上げなかったので、というか言っても無駄だとみんな理解してるんだろう、学校の授業もないのにぞろぞろと連れ立って登校。
周囲の様子だが、途中の道では車をまず数台しか見なかったし、歩行者すらほとんど見られない。店はシャッターが下り、24時間年中無休が売りのコンビニエンスストアすらが扉には「異常気象のため、商品を仕入れることができませんのでしばらく営業を停止します」と張り紙をして休んでいた。
そうだよな、コンビニだって商品が来なければ店を閉めるさ。
「どこの店もやってないわね。喉渇いたからなんか買おうと思ったのに。なんか自動販売機も動いてないのばっかりだし、ムカつくわね。みくるちゃん、向こう着いたらお茶入れてよ」
「は、はぁい」
完全に朝比奈さんはあそこの給仕係になってしまっている。先輩のはずなんだけどな、朝比奈さんの方が。
そんなこんなで学校に到着。シンと静まり返った教室は不気味なくらいで、人の気配がさっぱりしなかった。今日は平日なんだけどな。
「キョン。部屋の鍵取ってきなさい。10秒で」
何をいいやがるんだ、こいつは。
「10秒は無理だ」
「何でもいいからさっさと行ってきなさい!」
へいへい。結局こうやって周りを好きなように使うんだよな、こいつは。ただのわがまま姫にしか思えないぜ。
「失礼しまーす」と誰も居ない職員室に入って鍵を取る。ふと窓の外を見ると一面銀世界で、非常に静かで…あれ、なんか最近こんな状況になったような気がするぞ。これがデジャヴというやつか?
…ああ、そうか。鶴屋さん世界と同じなんだな。
正確には鶴屋さんが間違えて作った世界というべきか。俺が飛ばされ、あとから長門と朝比奈さんが来たあっちの世界。少々引っ込み思案な少女といった感じの長門に、相変わらずのテンションの高さの鶴屋校長、そして意外にいいヤツだった俺。そういや、結局一度も会わなかった保健の先生とやらがハルヒの声そっくりだった気がしたんだよな。ちょっと確かめてみたかったが、今はもう無理だろうな。
元気にやってるだろうか、向こうは。そんな黄昏気分で元1の9教室前までやってくると、しまった、忘れてたよ。
「遅い!何やってんのよ!」
鍵を取りに行ってたんだよな。ハルヒの仏頂面をまた見る事になってしまった。俺もこいつ同様、あまり学習能力がないらしいね。
教室に入るとすぐ、
「みくるちゃん、お茶!」
ああ、不機嫌モード。これ以上怒らせない方がいいと踏んだんだろう、慌ててお茶の用意を始める朝比奈さん。その間他のメンバーは各自席に座って待つ。最初は朝倉が手伝おうとしていたのだが、「これは私がやりますからいいですよ」と毎回断っていたため、相変わらず朝比奈さん一人でやっている。なんだかんだで楽しいのかね。
久しぶりの登校疲れで机に突っ伏す。こんな雪の中歩かせるなよな。
「あ、あれ…?」
朝比奈さんの声。どうしました?
「蛇口から水が…」
蛇口をいくらひねっても出ない。凍ってるのか?
「水が来ていない」
両手にジュースを抱えて長門が教室に入ってくる。そういや、長門いつのまに居なくなってたんだ。俺が鍵取りに行ってたときか?
「どういうことよ?」
「学校が国公立・私立共に全面的封鎖。故に学校への水の供給が完全に停止している。電気も同様」
そういやさっき教室入ってきて電気を点けてもつかなかったのは蛍光灯が壊れてたわけじゃなかったのか。
「なんでそんなことが分かるのよ」
相変わらずの仏頂面のまま、ハルヒがたずねる。
「新聞に記載されていた」
聞けば、朝読んだ新聞に書いてあることが本当か、自分の目で特別教室や各階の教室を調べて回ったということらしい。
…考えちゃいけない。全部の教室じゃなくて、各階1つずつの教室を調べていくだけでも俺が鍵を取りに行って帰ってくるまでの時間で、回りきれるはずがないってことを。まあ、実際はあの女教師を捕まえたときのような俊足で調べてきたんだろうが、既にあれが超人的だったからな。
「で、そのジュースは?自動販売機とか電気が来てなければ使えないでしょ」
「学校の冷蔵庫に残っていた」
勝手に持ってきていいのかよ。というか、学校に冷蔵庫なんか必要なのか?
「まあ、んくっ、んくっ、ぷはーっ。冷蔵庫も機能してないんでしょ。ぬるくなっちゃうし、問題ないわよ」
まあ、こいつは躊躇いとか、自重という言葉を知らないのかね。…知ってたら涼宮ハルヒという女をやってるわけないか。
「にしても、ホント問題よね。あーあ、さっさと雪融けないかしら。よく考えたら花見もできないのよ?」
やれやれ。雪が融けなかったら良いと言ったと思ったら今度はさっさと融けろか。自分勝手だよな。
しかし、次の日には既に雪が融けていた。一瞬にして消え去ったわけではなく、一般市民には分からないようにごく自然に。ここまで都合よく世界を作りかえるとは、一種の畏怖さえ感じるね。世間では「いつもより長めの雪」と言っていたが、本当は違う。「融けない雪」だったんだよ。
そもそも長めの雪だからといってお湯の中で雪が融けないわけがない。マスコミは、実は情報統合思念体と繋がっていたりするんじゃないだろうか、そんな気がする。