しっかし、随分悪趣味な部屋だな。
さっきまでの古めかしい洋館から突然変わって、厳つい城の中という様相になっていた。左右にはまた蝋燭がほそぼそと灯っていて、その合間に鉄柵が下りていた。その檻の前にマスがあるから、きっとこの檻の奥にパズルを解くとか特殊戦闘用のイベントマップがあるんだろう。
なんだかなんというか王の首を狙って侵入したはいいものの返り討ちにされて投獄された暗殺者の気分だが、借金してるんだからあながち間違っていないのかもしれないな。こういう部屋でおとなしく金を増やせとそういうことか。とっととここから出たいもんだな。何時間もここに居たら本気で囚人か何かの気分になっちまう。
サイコロを転がすと2の面が上に来た。まだ1じゃないだけマシだとは分かってはいるのだが、こんなところで2しか出ないってのはきついな。
あれ、そういや今までは丸と三角と四角、それと星が混合されたマップだったはずだが、今回は丸だけしかない。
ってことは全部天国マスってことか?
それとも金貨が一定条件下とはいえ貰えるからプラスになるってことで天国マスってことなのか。
2マス進むとすぐにまたアナウンスが流れる。
『金貨1枚コースと金貨10枚コースがありますが、どっちにします?』
喫茶店で注文を取られてるみたいな気分だ。
てかもう完全にただの会話になってるぞ。向こうも勝手にこっちがやってる姿を覗いてるとかこっちの声を拾ってるとか隠す気も無くなったらしい。最初から隠す気も無かったのかもしれないが。
まあまずは1枚コースから様子を見るか。最初から10枚コースに入ってあの狼と再度顔合わせなんてことになったら今度こそ万事休すだ。
「1枚コースで」
『了解しました。では中に入ってください』
アナウンスが切れた瞬間に鉄檻が大きな音を立てて開いた。中に、ってことはこの中にってことか。
部屋の中には魔法陣みたいなものが光っていた。またテレポートか。この館の中にはどれだけ部屋があるんだろうな。
魔法陣の上に乗ってすぐ、世界が一変して思わず俺は素っ頓狂な声を上げた。
「うおあ!」
宇宙空間に放り出されたように上も下も右も左も全て同じ色。ただしその色は黒や紺ではなく、全面的にエメラルドグリーンの、言うならばオーロラカラー。綺麗といえば綺麗だが、長時間中に居続けるには不安な空間だ。目にはいいかもしれないが。
現在は足元で仄かに白く光るタイルの通路に立っていて、そのタイルはさっきのシャーリーVSトロール戦会場みたいな広いスペースに繋がっていた。
向こうへ戻る魔法陣みたいなのはこの通路には無いようだ。おそらくだがここのイベントをクリアするまで出られないってことなんだろう。こりゃ慎重にコースを選ばなければ詰みそうだな。
通路から開けたステージへ足を踏み入れると、再びノイズ満載のアナウンスが聞こえてきた。
『今回はモンスターと戦ってもらいます。ただしモンスターはこの場所専用の敵なので、アイテムは落としません。なので戦闘だろうとパズルだろうと貰える金貨は同じです』
そうだろうとは思ってた。敵で金貨が稼げるんだったら金貨何枚ルートなんか選ぶ必要が無いわけだし。金貨の枚数だけで戦闘かパズルかを選べないんだから大変な戦闘の方は金貨がさらに貰えてもいい気はするが。
『それでは始めてください』
またアナウンスが切れると同時に、数メートルくらい離れたところに影が実体化するかのように黒いものが徐々に大きく立ち上がって、生き物になった。金貨1枚だから、さすがにあのトロールみたいなのが出ることは無いと思いたい。
しばらくして軟体動物のように蠢いていた影はようやくその形を決定した。
「……兎?」
どう見ても白い兎だった。
『兎です』
「……」
モンスターとの戦闘、じゃなかったのか?
『逃げる速度は速いですよ。だからなかなか攻撃は当たりません。それと制限時間が10分です。その間に倒してください』
言ったそばから猛スピードでダッシュし、部屋の端に逃げる。確かに早い。ってかどう考えても攻撃当たらないぞ、あれ。
『ちなみにステージから落ちますと失敗になりますので注意してください。死にませんけど、落ちると怖いですよ』
落ちても死なないってのが奇妙だが、とにかく最初くらいはちゃんとどうにか金貨が欲しいところだ。
無闇に追いかけたところで逃げ回られるのがオチだろうし、少し追った感じでは小回りとブレーキがかなり利くようだから、追いかけて場外へ落とすというのは不可能に見える。広くて障害物も何もない空間であるのもそれに拍車をかけてるな。
となると袋小路に追い詰めるのが最良か。さっき通ってきた通路側へなんとかして追い込んでからこちらに向かって逃げようとしたところを攻撃する。
言うは易し、するは難しだが、とにもかくにもやってみるしかないな。