放課後のSON組、部屋に入ると長門が独りでいつも通り部屋の飾りのようになって、今日も平穏な部屋で紙をめくっている。よう、長門。
「……」
 顔を上げずにこくりと小さく頷く。というか、いつでも本読んでいて特にお咎め無いなら、文芸部の方に居てもいい気がするんだが。
「組長だから」
 目を紙面から離さずに言う。まあそうだが、結局全部ハルヒが決めて、ハルヒがやってたらあまり意味がない気もするがね。活動あり、なしを決めるのもハルヒだしな。
「それでも、組長だから」
 …そうか。なんだかんだ言って長門は気にしてるんだな。
「そういえば」
 ん?なんだ?
「妹の名前」
 ああ、そうだったな。本当に俺が決めていいのか?
「いい」
 じゃあ、
「待って。本人に言って」
 そう言われてみればそうだな。どこに居るんだ?
「文芸部」
 そうか、じゃあ行ってくる。くるりと振り返ると、黄色のリボン。
「あ、キョン。丁度いいところに来たわね」
 というか来たのはお前の方だがね。どうした?
「新入組員よ」
 ハルヒの後ろから出てくるのは…丁度会いに行こうとしてたところだったんだ、お前に。
「文芸部、部員が2人に増えただけで復帰していたなんてね。部員が増える様子もなかったし、この子もSON組のメンバーに加えることにしたわ」
「じゃあ文芸部はどうするんだ?」
「また廃部でいいじゃない」
 良くない。
「いえ、構いません。本が読めればいいですから」
「さすが有希の妹よね。本が読めればいいみたい。そういや、名前聞いてなかったわね」
「実希だ。希望が実るで実希」
 慌てて俺が言う。ハルヒは目を丸くして、
「なんでキョンが言うのよ。あたしはこの子に聞いてるのよ」
「本当です。長門実希と言います」
「あら、そう」
 すすすっ、とハルヒが傍に寄ってきて耳元で囁く。なんだ?
「随分と詳しいじゃない」
「前の不思議探索の組分けで一緒になったときにな、たまたま聞いただけだ」
「ふぅん」
 ものすごく不満そうだが、理解はしたようだ。ふー、危なかった。
「あれ、有希と実希って双子?」
「そう」
 よく考えたらそういうことにしないといけないよな。妊娠期間は十月十日(とつきとうか)と言われるし、同じ年で別々に生まれることはない。腹違いとかいう可能性はあるが。
「じゃあ実希は今までどこに居たの?」
「県外の高校です。両親の都合でお姉ちゃんと同じ高校に通うことになりました」
「入って数ヶ月じゃない。向こうに友達とか居なかったの?」
「いません。人と付き合うのは苦手なので」
「ホントどこまでも有希とそっくりよね。有希ってあたしたち以外に友達とか見ないし」
 ここで、お前もな、というのは禁句だろうな。
「とりあえず、実希もSON組の組員に加えるわ。そうしたら丁度8人になるから、毎回組み分けが楽でしょ」
「まあな。ってそれだけのために連れてきたのか?」
 目線が何か文句ある?と語っていた。いや、なんでもない。
「よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
 丁寧に頭を下げた実希に俺も思わず頭を下げる。
 ん?よく考えると長門は長門で、実希は実希というのはおかしいな、年も同じだし。
「どちらでもいい」
「好きなように呼んで下さい」
 まあ、いいか。
「今日はそれだけだから、あたしは帰るわ。あんたたちも適当に終わらせて帰りなさい」
 そうとだけ言うとひらひらと手を振りながら帰っていった。いい加減な。
 …さてと、本当にいいのか?
「何がですか」
「文芸部のことも、名前のこともだ」
「私は構いません。名前もそれで慣れるようにします」
「私もいい」
 そうか、ならいいんだがな。…って思ったんだが、実希はクラスに入ってないんだよな。ばれたらいろいろとまずそうだぞ。
「もう1年4組に編入されている」
「情報操作で元々1年4組に居たということになっています」
 大丈夫なのか?
「問題ない。今のところは」
 ならいいんだが。
「あ、あれ?みなさんどうしたんですか?」
 朝比奈さんが制服のまま、そういや朝比奈さんは俺が来るときには大体既にメイド服に着替えていることが多いから制服姿を見る方が珍しいな、きょとんとした顔でドアの前に立っている。
「ああ、朝比奈さん。今日はハルヒの都合で今日の活動はないらしいです。全く、SOS団と何も変わってませんよね」
「うふふ、そうですね。あら、この人は…長門さんの妹さんでしたっけ?」
「長門実希です。正式にSON組に登録されることになりました」
 ぺこりとお辞儀する実希につられて、「こちらこそ、朝比奈みくるです」と礼をする。うむ、やっぱりこっちの方が姉妹に見える。
「もちろんです。私はお姉ちゃんのデータと朝比奈みくるさんのデータを組み合わせて作られたのですから」
「…どういうことだ?」
「情報統合思念体に私が涼宮ハルヒの行動を逐次報告する際、朝比奈みくるや古泉一樹などの身体的特徴も含めて報告していた。そこで、情報統合思念体か新たにTFEIを作るとき、人間らしい容貌をと朝比奈みくるに似せた」
 朝比奈さんは「そうなんですかー」と頷きながら、実希をしげしげと見ている。自分がモデルになっているとなると、やはり愛着が沸くのだろうか。
 確か実希は情報統合思念体が胸の大きさにこだわったとか言ってたが、ただ長門の容姿で胸を大きくするよりは有機生命体に近づくだろうと、胸の大きい朝比奈さんを選んだってことなのか。あれ、ちょっと待て。朝比奈さんは未来人で、有機生命体とは…良く分からん。まあ、いいか。
 とりあえず情報統合思念体、いい仕事してるな。
「まあ、今日は帰りましょう」
「そうですね」
「……分かった」
「はい」
 俺の声にそれぞれ賛同の意を示し、帰宅の途に就いた。